第1-2節:リカルドの不満と独り言
彼はクスッと笑い、柔らかな瞳で私を真っ直ぐ見つめている。意識すればするほど、私の心臓はドキドキが加速して収まらない。
「ところで、シャロンはこんなところに立って何をしているんだ?」
「あっ、リカルド様たちのお戻りをお待ちしていました。農作業でお疲れでしょう。タオルを用意しましたので、これで汗をお
私は手に持っていたタオルをリカルド様の前に差し出した。
それを見ると彼は大きく息を
「気が利くではないかっ! 遠慮なく使わせてもらうぞ!」
「ありがとうございます、シャロン様」
「恐縮です、シャロン様。これは嬉しいサプライズですよっ」
まずはリカルド様が私からタオルを受け取り、その姿を見届けてからジョセフさんとナイルさんがほぼ同時に残りの2本へとそれぞれ手を伸ばしてくる。
果たして3人はどんな反応をするだろうか? 私は
「タオルが温かい! そうか、この湿り気具合も併せて考えると、温泉に浸けて温めたのだな?」
「はい、そうです。冷たいタオルと温かいタオルのどちらを用意しようか迷ったのですが、外気が涼しめなので温かい方を選んでみました。体が冷えてもいけませんし」
「そこまで気にかけてくれたのか! うん、これは気持ちいい!」
リカルド様は上機嫌で顔や首、手などをタオルで
おそらく農作業が終わったあとに畑の
屋敷に戻ってくるまでに多少は風に当たって、どうしても細かな
いずれにしても気に入ってもらえたみたいで、用意した私としては嬉しい。自分のしたことで誰かに喜んでもらえると、やっぱり幸せな気持ちが
そんな感じで満たされた気分になっていた私だったけど、不意にリカルド様は手を止め、なぜか眉を曇らせながら
「だが、僕としてはひとつだけ不満があるな」
「っ!? 不満……ですか?」
「ジョセフとナイルの分まで用意しなくても良いのではないか? 僕だけのためにしてくれたら最高だったんだがな」
「そ、そういうわけにはいきませんよ……。リカルド様と一緒に農作業をして、3人揃ってお戻りになるわけですから……」
「うん、キミの性格を考えれば3人分のタオルを用意するだろうな。そしてそれは最適解であると僕も思う。もちろん、それは……そうなんだが……」
リカルド様はどうも歯切れが悪い感じだった。いつもならもう少しハッキリと物を言うし、竹を割ったような接し方をしてくるはずなんだけど。視線も横に
もしかしたら私の気付いていない何かがあって、それが彼の気分を害してしまっているのかな……?
「……シャロンの優しさは僕が独占したいんだ」
あれこれと考え込んでいると、急にリカルド様が何かをボソッと
もっとも、声が小さくて
ゆえに
「えっ? 今、何かおっしゃいましたか?」
「っ! な、なんでもないっ! 単なる独り言というか、
目を丸くし、なぜか
考えれば考えるほど何を
「と、とにかく今回のことには礼を言っておかねばな。ありがとう、シャロン」
「お
「だが、明日からはこんな気を
「頼みたいこと……ですか?」
「それについては朝食が終わってから、その場で話そう。スピーナやポプラにも関わりがあることだからな。みんなが揃っている時の方がいい」
「承知しました……」
すっかり平静を取り戻したリカルド様に向かって、私は静かに返事をする。
(つづく……)
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