あの子は画面の向こうでぼっちを語る

たまごなっとう

プロローグ side 京香①

 スマホの音で目が覚めた。部屋の時計が九時を指しているのが見え、「あぁ」と誰に起こされたのか悟る。


――真琴まことが配信を始めたんだ。


 リアルタイムで見れるときは、腰を据えて見たい。半端に寝たせいで頭が痛いが、見ないという選択肢はなかった。無理やり身体を起こし、パソコンの前に移る。


 ヘッドホン越しの真琴の声は相変わらず綺麗だった。するりと通る声音は透明で、小さいながら聴き取りやすい。

 彼女はまだリスナーに挨拶をしていた。よかった、間に合って。


 これじゃファンみたいだな、と吹き出す。表面上は同じなのに、親しげなリスナーと私には大きな隔たりがある。以前は私もそっち側だったのに。


 友達が配信していることに興奮していたのが昔のようだ。今では彼女の発言を監視するために、惰性で聞いているだけだ。もうここに楽しさはない。それでも吸い寄せられてしまうのは一種の中毒なのかもしれない。先程も過去のアーカイブを見ていた。寝落ちしてしまったから、また見直さなければ。


 彼女の配信中は何も手がつかなくなる。画面を呆然と眺めていると、あるコメントが目に入った。


【明日月曜じゃん。学校行きたくねぇー】


 走った緊張に、寝ぼけ眼がこじ開けられる。

 何度も彼女の配信を見てきたからこそ、この後の流れが容易に想像できた。このコメントを読まないでほしい、傷つきたくないから。だけど、彼女の反応を確認したいがために私はここにしがみ続けているのだ。


 息を呑む私をよそに、真琴は平然とコメントに反応する。


『わかる。私も今学園祭の準備で大変でさ、陰キャにとってイベントってほんと苦行だよね』


 友達の定義って何だろう。同じクラスになったら? 連絡先を交換したら? 一緒に遊んだら? わからない。

 だけどどんな定義においても、私達は友達だった。そう思っていたのに……。


『私もぼっちだから学校行きたくない』


 今日もこうして、彼女は画面の向こうでぼっちを語る。


 どれだけ同じ時間を過ごしても、私は彼女の何者にもなれない。それなのに『一人だけ友達いるよ』、なんて言葉をいつか言ってくれるんじゃないかと望んでしまう。


 思えば私達の関係は、私が話しかけたのがきっかけだった。彼女は断れなかっただけで、初めから嫌だったのかもしれない。だけどそんなこと本人に直接確認できるわけもなかった。


 だから今日もこうして、私は彼女の本音を盗み聞きする。

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