万物
ボトッ
という不快な音と共にハゲ三人衆が同時に地面に手をつく。
さっきまで確かにあったはずの足首から先が綺麗さっぱり消えている。
足を輪切りにされたことで立っていられなくなったのだ。
ハゲ三人衆は四つん這いの体勢からこの違和感を確認しようと、長座体前屈のような体勢をとる。
だがそこには、いつもは見えるはずの足の甲が無い。
ズボンの裾から足を出していないわけではない。
無いのだ…指の感覚が。
あるのはほんのりと熱い感覚だけ。
だと言うのに誰も声を出さない。
自身の体だというのに…足首から先が無くなったことに思考が追いつかない。
体感にして十秒程だろうか。
切断された事にようやく体が気付いたのか。
服に、地面に、追いつかない思考に…ゆっくり知らせるかのようにジワジワと血が滲んでいく。
そこでようやく、遅れて痛みを自覚する。
いたい。
いたい。いたい。
一度自覚してしまえば急速に痛みが増大していく。
痛い、痛い痛い痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
痛いという感覚だけが脳内に溢れる。
その次はその痛みを紛らわせようと絶叫へと変わる。
最初にバーコードが。
「あ”あ”ぁぁっあわぁぁああぁぁ!!あ、足が、っぉ…オレの足がぁあぁあああああああああああああ!!!!」
次に双子スキンヘッドが。
あれだけ揃っていた声もバラバラに叫び出す。
「ッグぁぁあっぁあぁあああ」
「ぎゃあぁああああああぁあ」
バーコードは足を抱えて転げ回り、双子スキンヘッドは足を抱えて蹲る。
俺はその様子を耳を塞ぎながら眺めつつ、自分の今さっきの攻撃について冷静に分析していた。
うん、やっぱり…人にも適用できたか。
俺の固有スキル『ボックス』
その能力は、万物を異空間に収納する。
この万物とはどこまで可能なのかってのは常に考えてきた。
同じような固有スキルであるアイテムボックスでは生物は収納不可能だと聞いた。
だが俺のボックスはどうだ?
アンスリウムを実験体にして、金髪縦ロールの末端五センチほどの髪の毛を収納することが可能だったことから有機物が収納可能なのは確認済みだ。
そもそもうんこも収納できてたし。
俺のボックスは無機物・有機物関係ない。
そして今のを鑑みるに生物まで収納可能だ。
文字通り、万物って訳だ!!ははは!!
これは幸先良すぎるだろ。
あらかじめ予想はついていたとはいえ、今目の前で起こったことは衝撃的だった。
アンスリウムで実験してやりたかったのだが、なんせ成功した場合の殺傷能力が高すぎる。
殺しても全く心は痛まないどころかスカッとまでするが、あいつは生きていた方が何かと使えるのも事実だ。
万が一死んだら面倒だから試せなかったんだよな。
今回の実戦が初のボックスでの攻撃となった訳だがなかなか大成功だったな。
まさか、最初に攻撃するのが人間だとは思わなかったけど…正当防衛だよね?
最悪、生物が収納できませんってことだったら、今ボックス内にある大量の物資で雪崩攻撃しようと思ってたからね。
こいつらに触れた食糧とか食べたくないし無駄にならなくて良かったわ。
まぁ兎にも角にもとりあえず、初戦は完勝だな!!
この固有スキルの可能性がグッと広がったことで、新たに試してみたいこともできたし、丁度いいからこいつらで試してみるか。
その前に取り調べもしないとな。
そこまで思考を整理した俺は目の前で未だ叫んでいるハゲ共に声を掛ける。
「おーい。痛い所ごめんね?もしもーし」
「「「うわぁぁああぁああああああああ」」」
「…」
てかこいつらいつまで叫んでるんだよ。
叫ぶのだって体力使うだろうに。
「もしm」
「「「うわぁあぁああぁあぁあああぁあ」」」
うわ、だめだ。なんか腹たってきた。
話遮られるのってこんなにムカつくんだ。
もういいや。悪いのこいつらだもんね。
優しくする必要なかったわ。
「おい、死にたくなかったら黙れ」
自分でもびっくりするくらい無機質な声が出た。
「「「…」」」
悪いことをしたら叱られる子供のようにピタリと泣き止むハゲ三人衆。
ほんの数分前とは違い舐め腐った態度は既になく、その目には畏怖のようなものまで感じ取れる。
俺はこれまでの流れを簡単に確認していく。
「まず、状況を整理しようか。お前らは俺より冒険者ランクが高いのをいい事に、俺を一方的に拉致した挙句、金を出さないと殺すぞと脅した。ここまでで何か間違いはあるか?」
ここでバーコードが手を挙げる。
「はい、バーコード君」
「バ、バーコード?」
あ、やべ。
せっかく威厳ある感じでやってたのに、つい出ちゃったよ。
こいつの名前とか知らんし。
しゃーない、ゴリ押しだ。
「なんだ?」
なんか文句でもあるのか?と手首をストンと落とすようなジェスチャーをして、バーコードを見る。
「っ?!バーコードです。」
今度は手を落とされかねないと察したのか、即座に改名するバーコード。
それでどこが間違っているんだ?と続きを促すと。
さぞ痛いだろうに正座して、背筋を伸ばして発言する。
「こ、殺そうとはしていません。少し脅して、金を貰おうとしただけです。」
お前らもそういう認識か?と後ろで兄であるバーコードを見習って正座している双子スキンヘッドにも問いかける。
「「はい」」
そうか、そういう認識ね。
俺はもう一度バーコードに向き直って質問する。
「なるほど。殺す気は微塵も無くて、脅すだけ脅して金を奪うだけの計画だったと?」
「は、はい。その通りです。」
俺は、でもと続けて確認をする。
「今回が初めてではないんだろ?ちなみに、嘘つくとまた何処か無くなっちゃうからそのへん覚悟しておいてね。」
初めてのはずがない。
初めてにしては手慣れすぎている。
この人通りの少ない場所に連行するまでや脅すまでの流れに至るまで全てに無駄がない。
バーコードが俯きながら答える。
「初めてでは…ないです。」
だろうなと思いながらも、質問を続ける。
「何人だ。」
「…?」
クソ惚けた顔しやがって。
「何人同じ手口で嵌めたんだって聞いてんだよ。」
「ご、いや、十人くらいです。」
こいつ土壇場まで嘘つこうとしやがったな。
おそらく十人も嘘だろう、それ以上は確定だ。
これは徹底的にいじめてやらなきゃな。
「そいつらは生きてるんだよな?」
さっき自分で殺す気はなかったと俺に言いのけたんだ。
そりゃもちろん生きてるよな?
俺の有無を言わさない圧力にバーコードが明らかに動揺して、声を裏返しながら答える。
「い…生きてまふ!!」
「本当に?」
「は、はい。」
「全員?」
「はぃ…」
「足に続き手もいらないのか?」
明らかに嘘をついてこの場を逃れようとするバーコードの手に再び黒廛を展開する。
手袋のように、真っ黒に手が覆われたことで焦ったのか、すぐに嘘を撤回する。
「っ!?三人ほど、抵抗してきたので…」
そうかやっぱり殺してるか。
三人ってのが嘘か本当かなんてどうでもいい。
その事実だけでこいつらを殺してもいい理由になる。
「そうか、わかったよ。」
そういって正直に白状したバーコードに笑いかける。
すると、どこまでもめでたい頭をしているのか、ここを好機と見て薄ら笑いを浮かべながら俺に許しを請うてくる。
「この度は本当に申し訳ありませんでした。ですが、私たちはこのように罰を受けました。」
そういって、自分達の足を指して俺に勘弁してくれと訴えてくる。
だから、見逃せとでも言うつもりか?
見逃す訳ないだろ。そもそも発端はお前らだ。
これは相手が俺だったから、この結果に落ち着いたにすぎない。
俺が例えお金なんか持ってないと答えたところでこいつらなら確実に実力行使で確かめていただろう。
その結果が少なくとも三人以上の犠牲者だ。
安全を考慮して自分達より低ランクの冒険者を狙い、その上多数で囲んで奪い取ろうとしていたのだ。
バーコードの罰を受けたのだから見逃してくれという願いに、俺は再度笑って答える。
「だから、分かったってば」
もう一度、笑みを浮かべた俺を見て許してもらえると考えたのか、場の雰囲気が少し緩む。
だがその空気を俺が一瞬にしてぶち壊す。
「いつでも殺せる状況にあったとしても。たとえ、本当に殺してしまったとしても。後に殺す気がなかったと言えばそれが免罪符になるんだろ?」
「え、あ、いや」
俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、ハゲ三人衆の顔に途端に緊張感が戻る。
「俺も殺す気は微塵も無いんだが、今とても実験体が必要なんだ。手伝ってくれ。大丈夫、殺す気はないから。」
俺は自分のことを棚に上げて、いざとなったら人の良心に訴えてくる奴が大嫌いなんだ。
せいぜい、俺の糧となれ。
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