帰れない
自堕落生活もぼちぼち終了し、これから本格的に動き出そうとした矢先…
俺は今目の前でお手本のような土下座をしているクソ奴隷に激怒していた。
それはもうカンカンに…
「どうやら死にたいようだな…安心しろ楽には殺さん。軽くストレス値がカンストするくらいまで追い詰めてから殺してやる。カンストを確かめる良い機会だ…手始めに全身の関節を反対向きにへし折ろうか。」
「も、申し訳ございません。どうかお許しを…。」
「許すと思うか?お前なら勝手に召喚された挙句、奴隷にされた奴の気持ちが分かるのか?やっと奴隷から抜け出したと思ったら、今度は元の世界に帰れないだと……?」
そう、膨大な魔力があれば返すことができるから強くなって下さい!とか何とか俺達に発破をかけておいて、いざ確認しようと思って主人権限で問い詰めたら、本当は帰れませんとか抜かしやがった。
「は、はい。召喚魔法とは元より一方通行なのです。膨大な魔力を糧にこちらへ呼び出すことしか出来ません…。」
「はぁ…」
万が一の一が出てしまった。
外道外道だとは思ってたけど、まさかここまでとはな。
俺だけじゃなくて、勇者全体を裏切る行為だ。
元の世界に帰ることを目標にして頑張っているクラスメイトも少なく無いだろう。
知らなかったなら、まだしも完全に計画的犯行だから救いようが無い。
コイツは後で固有スキルの実験台にするとして、さてどうしたもんか。
帰れない…
衝撃過ぎて頭が追いついていかないが、改めてその事について考えてみよう。
俺は、元の世界でも疎まれ続けてきた。
どこへ行っても嫌悪の視線を向けられ、何もしていないのにも関わらず虐められる。
仮に帰れたとしても、これからの人生も逆境の連続だろう。
人並み以上な結果を残してようやく人並みの評価を与えられる、いや与えられたらラッキーって感じだな。
だが、たとえそうだとしても幸せに笑って生きようと諦めなかったのは何故だ…?
母さんに笑っていてほしい…あの事故の後、そう思ったからだ。
自分の生きる意味がわからなくなったとしても、自分が笑って生きる事が人の為になるのならと立ち直ることができた。
母さんのいない場所で幸せになった所で、それに何の意味がある。
地球では俺含めクラスメイト達の安否は不明だろう。
母さんは2億%心配している。
そして確実に泣いている。
それでは本末転倒だ。
俺にとって元の世界に帰ることは手段であって目的では無い。
そして、俺は一時間程悩んだ末に、一つの妙案を思いつく。
それが実現するかは、これからのコイツの返答次第だが…
「おい、膨大な魔力があれば召喚魔法が使えるのは嘘では無いんだろうな?」
問いかけにまだ生きる希望を見出したのか、俺の足に縋りながら食い気味に答えるアンスリウム。
「は、はい!召喚の間には特殊な魔法陣が描かれています!そこに膨大な魔力を流し込む事で召喚は可能です!!」
俺が召喚された時にいた教会みたいな場所は、召喚の間というのか。
そうか、召喚は可能か。
そこまで嘘だったらどうしてくれようかと思ったが、一先ずはクリアか。
問題は次だ…
「特定の対象を召喚することは可能か?」
「………」
急に黙り込むアンスリウムに、雲行きが怪しくなるが回答を急かす。
「おい、命令だ。さっさと答えろ。」
俺からの初めての命令に、既に低い位置にあった頭を地面にぶつける勢いでさらに下げるアンスリウム。
「も、、申し訳ございません!!分かりません…」
「分からないだと?」
「はい、分からないのです。召喚の対象は大まかにしか選定できません。特定の対象となりますとかなり繊細にイメージできなければ不可能かと…」
なるほどな。
今回の勇者召喚は魔王を倒し得る才能を持った者という大きな括りで召喚したわけか。
それなら、ぶっちゃけ召喚された奴が人間じゃなくてもいいからな。
それによく考えたら、異世界から呼び出す時点で普通なら特定の対象とか居ないわな。
異世界に知り合い居るんで呼び出して良いですか?なんて輩、俺くらいだろ。
魔力いっぱい必要なんだからそんな頻繁にやらないだろうし、そんな一か八か試さないよな。
アンスリウムが分からないのも無理もない。
ごめんね、怒って。
いつもポンコツだから、今回もポンコツかましてるのかと思ってさ。
それはひとまず良いとして、召喚するには繊細なイメージだっけ?
余裕だな。
マザコンを舐めるなよ。
あ、はい。
母親召喚する気ですが何か????
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