準備
なんとも殺風景な六畳一間、もとい牢獄の中央で俺は黒纏を発動しながら魔力消費を確認していた。
黒纏が晴れて固有スキルの派生技として認められた今、魔力効率がどれほど良くなっているのか確かめる必要があるからだ。
例の如く鉄格子に黒纏を発動すると、何となくの感覚で秒数を数え始める。
習得する前までは200ある魔力をだいぶ早く消費していたような気がする。
体感10秒に1魔力ずつくらいの消費かな。
ずっと使いつづけて練習してたら30分ほどで無くなっていたような…
しかもボックスに触れていなきゃ発動できないし、纏うのも遅いしで、全く実用段階になかった。
だが今はどうだろうか。
ボックスに触れずとも遠隔で黒纏を発動でる。
そして、左から右へ一本、二本と俺を閉じ込めている鉄格子を次々にボックスで纏っていく。
ボックスの色自体が黒いこともあり、見た目はさながら影魔法だ。
ここで収納と念じてしまうと牢獄では無くなってしまうため、あくまで今は纏うだけに留めておく。
あのクソ女に警戒されたら面倒くさいし、舐めてもらった方が好きにやり返せると言うものだ。
黒纏はボックスに込める魔力の量を増やせば増やすほど流動的に、そして繊細に動いていった。
まさに変幻自在だ。
これなら攻撃にもいくらでも応用できる。
魔力消費は60秒に1魔力ずつぐらいに成長してるな!
てことは普通に使う分には、3時間ちょっとは発動できる計算か!
コスパ良くなり過ぎじゃない?
俺まだレベル1で魔力も平均よりちょっと多いくらいだよ?
レベルが上がったらそれこそ常時展開できるんじゃない?
そうなったら黒纏を応用して、そういう防御技みたいなのも作っていけたら良いな。
不意打ちで即死とかしたら流石に目も当てられないし。
最初は収納って聞いて、補助系のパッとしないスキルかと思ったけど、なかなか汎用性高いじゃん!
ただ早く動かしたり、細かく動かしたりすると、その分魔力消費が大きいからその辺はこまめに確認していく必要があるな。
戦闘中に魔力切れなんてあからさまにビギナームーブだもんね。
それに、本来の収納も小さいものならまだしも大きいものってなると、どこまで吸い込んでくれるか分からない。
大袈裟にいうと、家みたいな大きなものも側から見たら独立してる1つの物じゃん?
それを、あの通常の黒いキューブのボックスのまま吸い込めるか?っていわれたらぶっちゃけ想像できん。
だけど黒纏なら外側に沿うように展開していけば多分、収納できる!!
魔力消費…早くレベル上げてぇ〜
でも、魔力消費以外に質量による限界がないのであればこのスキル…だいぶ見込みある!
まぁつまり魔力がいっぱいほしいってこと。
そこまで考えた所で俺は検証という名目で遊んでいた黒纏の発動を一度止める。
そして鉄格子の隙間から通路を見て呟く。
「そろそろ来る頃か……。ふふッ、まずいニヤケが止まらん…。」
俺は思わず上がってしまう口角を必死に押さえつけながら、アンスリウムに思いを馳せる。
この後、いつも通りノコノコと臭い飯を持って来るのだろう。
気持ち悪い笑みを浮かべてやって来るのだろう。
今日も俺をおもちゃにできると思っているのだろう。
この一週間の内にあのクソ女によって受けた数々の道理に反する所業を反芻しながら、やり返すイメージを膨らませていく。
「散々、俺をおもちゃにして遊んだんだ。」
今度は俺の番。
「遊びってのはじゅんばんこが基本だろ??」
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