開示⑵
「あのー、これってどうなんですかね?」
長野は不安そうに王女に尋ねる。
自分のステータスが高いのか低いのか、基準がわからない長野は王女の反応に注視する。
能力値が似たり寄ったりの俺もドキドキしながら、王女の様子を伺う。
「す、す、素晴らしいです!!!固有スキル鑑定とは!!今見るべきなのは体力や魔力ではありません。そういったものは後からいくらでも上げることが出来ます!勇者様の成長は凄まじいですからね!この世界にもアイテム鑑定をもっている人は商人とかでしたら少なくないです。ですが鑑定とは、物に限らずあらゆる物を鑑定することが出来ます!人もそして魔族も。戦う前に相手の戦力が分かれば無駄な犠牲者を出すことなく戦うことが出来ます。これは、魔王討伐をする我々にとって生命線と言っても過言ではない能力です!!」
王女が自分の能力をこちらもビックリするほどに大絶賛したことで、心配そうな顔をしていた長野はみるみるうちに笑顔になる。
「そ、そうですかね?」と満更でもない様子で、チラリと俺たち生徒の方を振り返ると、ドヤ顔をしながらひとこと。
「君達、私が危険から守ってやるから安心しなさい。私は異世界に来ても皆の先生であるのは変わらないんだからね。」
普段は絶対言わないであろうことも今なら言えてしまう。
そして格好がついてしまうのだから仕方ない。
元の世界では長野に見向きもしなかった女子生徒達が、黄色い歓声を上げてしまうほどに。
長野を皮切りに、クラスメイト達は続々とステータスを開示していく。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
ステータスを開示、王女が絶賛。
もはや予定調和と化したラリーの応酬に、俺は1人うんざりしながら思案する。
クラスメイト達のステータスとアンスリウム王女やカイン陛下の反応を鑑みるに、固有スキルを何よりも重要視している節がある。
体力や魔力が重要でないのではなくて、おそらくそれほどまでに固有スキルが有用なのだろう。
現に、魔法系スキルを持った生徒の魔力初期値が宮廷魔法師団レベルだとかなんだとか褒め散らかしていたし。
ステータス開示も終盤。
俺はまだ開示し終えてないメンツをそっと見遣る。
そしてその顔触れを見た時に俺は、心の中で頭を抱える。
メンバーは俺を含めて5人。
最悪だ。よりにもよって最悪の残り方をしてしまった。
「真くん〜、しずく。心細いよう…」
少し明るい茶髪をツインテールにして、平均よりもだいぶ小さい身長で縋るような声を出す
「大丈夫だよ!雫!!僕も全力を尽くすし、僕たちのクラスには、頼れる仲間がたくさんいるから!そうだよね?衛!!」
身長の割に大きな胸を持つ愛野雫に抱きつかれても、快活に笑って励ますイケメン
普通の男子なら思わず鼻の下が伸びてしまうような状況でも下心を一切感じさせずに体格の良い親友に同意を求める。
「うむ!それに異世界とは面白いではないか!この鍛え上げた拳でどこまで戦えるか楽しみだ!!ガハハハハ」
そんな陣内真に、筋肉で筋張った腕を組みながら頼もしい発言をするのは坊主頭の空手部、
「しずくは、真くんに守ってほしいな……ダメ?かな?」
「あなた達、話してないで早く終わらせてくれる?面倒くさい」
懲りずに陣内に甘えた声を出す愛野を無視して、幼馴染達にステータス開示を急かすのは1ーGのクラス委員長を務める
長い黒髪を一つにまとめていて黒縁の眼鏡越しからはまだ残っている柊の事は見えていないようだった。
「なんでよりによってこのメンバーなんだ。」
思わずボソッと愚痴をこぼす。
中盤くらいにしれっと開示したかったのだが、王女がそれは褒めるもんだから、みんな褒められたくて仕方なかったようで王女の前にある水晶にもう並ぶ並ぶ。
俺もそれに紛れて並ぼうとしたらちゃんと嫌な顔されてちゃんと抜かされるからね。
仕方がなかったとはいえ一緒に残った奴らが最悪だ。
この4人は良くも悪くもめちゃくちゃ目立つ。
幼稚園からの幼馴染だそうで。
完璧超人の陣内真、大胆不敵な新田衛。
頭脳明晰な石川冴子、小悪魔愛野雫。
他のクラスメイト達からも一目置かれ、皆この4人のステータスが気になるのだ。
かくいう俺も今後クラスで魔王討伐を先導していくのはこいつらだと思っている。
早く開示しに行かなかった過去の自分を責めながら、俺はせめてこの4人より早くと思い水晶に近づこうとするも、俺より前方で待機していた陣内達に先を越されるのだった。
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