邪神の守り人 ~寧ろお世話係~
ねこいかいち
第1話 これが毎朝の光景
転生とか、異世界トリップとか……そんなもの、小説や漫画だけの話だ――。
そう、思っていた。
あの時までは……。
「タクマ~! 朝ごはんまだ~!?」
リビングに置かれたテーブルに突っ伏しながら、アイシャはバンバンと叩いて催促した。テーブルを叩く度、アイシャの金のウェーブがかかった髪が揺れる。紫の瞳が見つめる先……その先には、キッチンでせっせと料理に励む青年の姿があった。
「アイシャさん……少しは手伝うとか考えてくれませんか?」
振り返りながら、の青年――タクマは溜め息を吐く。黒髪に茶色の瞳、襟足までの長さのストレートヘアの青年は、デザートの林檎の皮を手早く剥いていった。
「だって、アタシが手伝ったら怒るじゃない」
「配膳の方とかなら怒らないですよ」
唇を尖らせながら文句を言う彼女に、苦笑しか出ない。前に手伝って貰った時、料理を爆発させられたり魔道実験の闇鍋か何かかと周りに言われたのを、今も根に持っているらしい。あれはアイシャが魔道士としての素質は天才級だが、料理の腕は壊滅だったと知った日でもあった。
「アイシャさん。今日はアイシャさんの好きなコカトリスの卵焼きがありますよ」
話に交ざってきた少女、セイレーンと人間の混血であるミルファリアの言葉に、アイシャは目を輝かせる。
「本当に!? やった! 配膳なら手伝いま~す♪」
ルンルン気分で皿の配膳を始めたアイシャを見つめながら、タクマとミルファリアは笑みを浮かべあった。お調子者らしい所も、先輩アイシャの良いところだ。
「サイファさんも呼んできますね」
「ミルファ、助かるよ」
林檎の皮を剥き終わり、皿に盛っていく。ミルファリアに礼を述べると、ミルファリアは玄関の扉を開け、背中の羽を大きく広げた。純白の翼を羽ばたかせ、家を飛び立つ。外で薪割りをしているであろう獣人サイファを呼びに行ってくれたミルファリアを見送りながら、アイシャと共に六人分の食事を用意しだす。
「主様、呼びに行って来たら?」
アイシャの言葉に、タクマは顔を顰めた。
「アイシャさん行って来てくださいよ」
「い~や~よ! 主様、朝は高確率で機嫌悪いんだもの」
カップをテーブルに置きながら、アイシャは拒否する。それを言うならば、タクマも行きたくはないのは明白で。二人は無言で睨み合う。スッと互いに手を出し、念を込め合った。
「「せーの! じゃんけんポン!!」」
アイシャの手はパー、タクマはグー。一発勝負はタクマの完敗だった。
「やったー! じゃ、主様をよろしく~♪」
子どもの様にはしゃぐアイシャを前に、タクマは項垂れる。これで連敗記録を更に更新してしまった。
「うぅ……わかりましたよ……」
渋々と、リビングのドアを開けその先にある皆の自室のドアを過ぎていく。一番奥にある部屋の前に辿り着くと、深く溜息を吐きながらドアをノックした。
「あーるーじーさーん」
シン――。何時ものことながら、相変わらず返事がない。更に強くドアをノックする。
「主さーん! 朝飯、出来ましたってば!」
何度かドアを叩いてみるも、返事どころか物音一つしない。ブチッ、と何かが切れた。
「おいこら主野郎! 飯だって言ってるだろーが!!」
勢いよくドアを開け、部屋にづかづかと入っていきカーテンを開ける。朝の陽ざしが室内に差し込む。ベッドに振り替えると、主のベッドはもぬけの殻で、そのすぐ隣、相方の布団が二倍に盛り上がっている。布団を掴み、勢いよく引き剥がす。
「すぅ……すぅ……」
そこには、短髪で真紅の髪色の男と、その男の腰まである銀の髪をベッドから垂らしている少年とも少女ともとれる子どもが抱き合いながらぐっすりと寝ていた。……互いに全裸で、だ。
「ぅ、ん……」
男の方が目を覚ます。ゆっくりと起き上がり、愛おしそうに子どもの髪を撫でると、子どもの方の瞼が震え、ゆっくりと金の瞳が男を捉えた。
「おはよう、我が主」
男が銀の髪を一房持ち上げ、唇を落とす。子どもは男の頬に手を添えると、ゆっくりとした動作で撫でた。
「おはよう。愛しき半身」
イチャイチャ。イチャイチャ……。朝からこんなのを見せられて、タクマは肩を震わせる。
「朝からイチャつくなーーーーーー!!」
「朝から元気ですね、タクマは」
「ミルファリア、あれをそう取れるのか?」
タクマの叫びは、外にいたミルファリアとサイファにもきこえたようだった。
これが、毎朝の光景である。
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