同性愛者と無性愛者

桜木家

第1話

『同性愛者と無性愛者』


《プロローグ》

この世でもっとも残酷な振られ方とはなんだろうか

『好きな人がいるの』『話かけんなブス』『吊り合うと思ってんの?』『てか誰?』

これらの言葉も充分非人道的であり、一生の傷物となること請け合いだ

しかし、わたしこと西崎彩羽(いろは)に言わせれば


———生温い


この一言に尽きる

高校を無事に卒業し、専門学校に入学してから二ヵ月と少し

制服から解放されたわたしが、蒸し暑い梅雨らしく七分袖のTシャツと風通しの良いフレアスカートに身を包んでいた日である


結論から言うと、わたしは一つ年上の先輩に告白し、玉砕した

玉砕はもとから覚悟の上だった

それは自分に自信がないからでも、先輩に恋人の影を見たからでも無い

先輩が、わたしと同じ女だからだ

『女同士とか無理なんだけど』

イメージトレーニングを重ねた中で想定していた、最悪の一言

わたしの中のイマジナリー先輩は、どう頑張ってもそれ以上の暴言は吐いてこない


しかし悲しかな

残酷とは、単に言葉の暴力の事でないと、弱冠十八歳のわたしは知らなかったのである

生ぬるい

今のわたしは、そんな子供じみた想像力しかない過去のわたしを一蹴する

先輩の返答は完全にわたしの想定を超えた、この世でもっとも残酷な振り方だった


落合真央

専門学校二回生。一九歳。少し高身長で飾り気のない、さっぱりした見た目と性格

AB型で十月二十一日生まれ。てんびん座の彼女はこう言った


「私、無性愛者なの」






むせいあいしゃ【無性愛者】

他者に対する恋愛感情や性的な惹かれの欠如、すなわち性的な行為への欲求が無い者の事

異性愛者、同性愛者、両性愛者に並ぶ性的指向

アシェクシュアル、Aシェクシュアルとも

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