第18話

 宙を浮くイオ。

 カメルケの余裕しゃくしゃくといった顔。

 アルメリアの呆けた瞳。

 全てがゆっくりに見えた。


 俺は、誰よりも迅く動ける。


 剣を肩に担ぎ、飛翔開始。

 

「!?」


 カメルケは俺の動きにまったく付いてこれていない。

 完全に俺を見失っている。

 俺は崖の上を移動し、カメルケの側面の方角に付く。

 そして能力を発動させると、大剣に光が宿り始めた。


「俺の【マーセナル】は想いを力に変換させる能力。絶望を希望に。不可能を可能に。悲しみを笑顔にする。これは――」


 剣を両手で持ち、上段に構える。


「俺に関わる全てを守り抜く力だ!!」


 一閃。


 閃光が走る。

 その一撃は大地を切り裂き、カメルケの肉体を消滅させていく。


「これが絶望……こんなもの、私は否定します――」


 ガスルードを切り裂く輝き。

 光が晴れると、地平線の向こうまで深い傷跡ができていた。

 俺は大剣をその場に投げ出し、落下するイオの元まで駆けつける。

 彼女は意識を失っているようだが、命に別状はない。

 

 俺は安堵のため息をつきながら、ゆっくり降下を始める。


「ヒビキ……どうなってんのよ、あんた」


 アルメリアの素っ頓狂な声。だが次の瞬間、彼女の声は涙声に代わる。


「あんたがいたおかげで、皆生き延びることができた。アネモネの仇を討つことができた。ありがとう」


 俺は首を横に振る。

 俺は自分のしなければならないことをしただけだ。

 自分の中にあった力で皆を守った。ただそれだけのことなのだ。


 リューが何故俺の傍にいたのか。理由はいまだに不明だが、なんとなく意味は理解していた。

 俺のために存在しており、俺のために力を貸してくれる。

 俺の最高のパートナーなのだ。

 それ以上のことは分からないが、そんな細かいことはどうでもいい。

 俺とリューには皆を守る力がある。それだけ理解していればいいんだ。


「ううう……ど、どうなってんだ……なんだこの破壊跡は!?」


 皆が目を覚まし、バサラが俺の攻撃後を視認して感嘆の声を上げていた。

 他の皆も同じように驚き、アルメリアから事の結末を聞いている。


「一撃だったのよ。ま、見込みはあると思ってたけど予想以上ね」


 自分のことのように語るアルメリアに、俺は苦笑いを浮かべていた。


「うっ……何があった……カメルケは?」


「カメルケは俺が倒した。イオも無事で何よりだ」


 意識を取り戻したイオは、状況を確認するように周囲に視線を向ける。

 俺は彼女を抱えながら優しく微笑む。

 生きていてくれて良かった。俺は純粋に安心し、もう一度ため息をついた。


「ヒビキが……どうやって」


「【マーセナル】の力。ようやく自分の力を理解したんだ。俺はイオたちを守るためにここに来た。今は胸を張ってそう言えるよ」


「…………」


 少しくさいことを言ってしまっただろうか。

 俺は少し恥ずかしくなるも、イオから視線を外すこともなく、無事だったイオの顔を見つめる。

 するとイオの顔が見る見るうちに赤くなり、そして大慌てを始めた。


「な、なんだこの感情は……私、こんなの知らない!!」


 真っ赤な顔を両手で覆い、足元をばたつかせるイオ。

 なんだか可愛いな。普段の彼女からは考えられない様子だ。


「ヒビキ! ありがとう、私たちを守ってくれて!」


「私の恋人になって!」


「ちょっと、ヒビキと付き合うのは私よ!」


 エルクラウド人も、ギアトロン人も、エンデューラ人も、一斉にこちらへと走ってくる。

 取り囲まれ、全員から抱きつかれる俺。

 普段の俺なら倒れているところだろうが、リューの力が凄まじく、直立したまま乾いた笑い声を出す。


「ははは……人見知りにはちょっと厳しい状況だな」


「ヒビキ。なんだか嬉しそうね?」


 少し離れたところからアルメリアの鋭い視線が肌に刺さる。

 何をあんなに怒っているのだろう。

 理解することができず、俺はアルメリアから目を逸らす。


 相変わらず照れている様子のイオ。

 少し腹を立てている様子のアルメリア。

 バサラは豪快に笑っている。


 ガスルードの戦いはこうして幕を閉じた。

 数名の犠牲は出たものの、ほとんどの者が生還を果たすことに。

 そして養人場に捕まっていた人たちも無事救出することに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る