気が付けば機械兵器がある世界にいた俺。ぼっちだった自分だけが使える特殊能力のおかげで最強になり、女しかいない環境では周りが放っておいてくれない

大田 明

プロローグ

 地獄の渦中に、少女はいた。

 烈火に紅く染まる城。町には人の死体の山。城内では兵士たちが息絶え、生き延びているのは、少女を含めて数人だけ。

 左目を失い、左腕を失い、左足を失い、赤い血が徐々に広がっていく。だが少女は残る右目で見上げる。


 光を。


 万物の全てが生まれ変わる奇跡を。

 光が四散し、歪む景色の中、王冠をかぶる男がいた。愉快に、無邪気に、邪悪に笑う。


「……これで世界は僕たちの物だ」


 無垢な少年のように映る男の姿。彼の前に膝まづく四人の戦士。世界はまさに今、この男の物となった。


「王よ。これからどうなさいますか?」


「自由にするといいよ。これからは自由なんだ……僕たちは、自分たちの力で自分たちの未来を勝ち取ったんだ。もう何も遠慮することはない」


「はははっ! 俺様たちが頂点! 他の雑種など、ゴミのようなもの。配下たちにも、雑種のことは好きにするようにと伝えておこう」


 炎に包まれた城から、町を見下ろす男。その目は、愉悦と虚しさが入り混じっている。


「……全部、お前の物」


「それは違う。僕一人の物じゃない。僕たちの物だ」


「ですが、あなた様が王でございます」


「そうか……そうだね」


 死が直前まで迫る中、少女はその男たちの背中を瞳に焼き付ける。次目覚めるときは、あの世かもしれない。だが忘れない。今日という日のことを。世界が終わった日のことを。

 血の気を失いながら憤慨を覚え、絶望しながら復讐を誓う。

 そして意識を失う少女。左目から血を、右目から涙を流しながら。


「この者の処分は?」


「君に任せるよ」


「はっ」


 四人の戦士の中の一人。一番の巨体を誇る男――黒い甲冑に身を包んだ騎士が、少女の小さな体を抱き抱える。彼女を一度見下ろし、そして城の外へ向かって歩み始めた。


「…………」


この日のことは、後にロストパラダイスと呼ばれることとなる。世界が終わり、一つの時代が始まる、終末の日として――

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