魂の迷宮(下書き)

日野唯我

プロローグ

プロローグ

 急に雨が降ってきた。朝はあんなに晴れてたのに。天気予報通りに傘を持って来ればよかったと反省する。私はいつもこうだ。全身が濡れて気持ち悪い。靴の中も水だらけで、歩くたびに重い雑巾を引きずっているような気分になる。


 今は学校からの帰り道。日が暮れた暗い山沿いの道を歩いている。なんか、疲れたな。私は斜面から生えた木の影に入った。ちょっと雨宿りしよ。充電が残り少ない。バキバキに割れた画面を確認して、スマホをポケットにしまうと、深呼吸して目を軽くつむった。その時だった。突然の眩暈に襲われ、私はその場に倒れた。雨の音がだんだん小さくなっていく。私はいつの間にか気を失っていた。


  ○ ○ ○


 目が覚めると、そこは私の知らない場所だった。見たことのない、冷たい石畳の上で倒れている。土を払おうとして気が付いた。服が乾いている。あんなに濡れていたのに…。異変はそれだけじゃなかった。鞄は消え、私は神社のような場所にいた。遠くに本殿らしい建物が見える。反対の方向には鳥居がある。何が起きたのかを精一杯考えたけど、私の頭じゃとても、それらしい答えを導き出すことはできなかった。その時、遠くで話し声が聞こえたことに気づいた。よし、行ってみよう。私は本殿の方に向かった。


 その時、本殿とは反対の方向から悲鳴が聞こえた。人が一人、こっちに向かって走って来る。その後ろには…、幽霊⁉転んだその人の首を、幽霊は掴んだ。その人は倒れる。死んだ…の?私は反射的に逃げ出した。震えが止まらない。走って行く途中で何人かの人が話しているのが見えた。私は必死に叫ぶ。


「来る、来るよ。早く逃げないと。」


 私はそう言って走る。みんな、早く逃げなきゃ、襲われて死んじゃう…。


 本殿まで走って来ると、そこには焚火があった。その隣に日本刀が鞘に納められて飾られている。私は息切れでそこに座り込んでしまった。逃げなきゃいけないのに…。直後、二人の男性がこっちに逃げて来た。そのすぐ後ろにはあの幽霊が…、私はパニックになって何もできなかった。その時、一人の男性が刀を手に取った。小柄だけど力は強そうで、頼れそうだ。でも、そんな期待は一瞬で打ち砕かれた。鞘から刀を抜いた瞬間、炎が吹き上がり、その人は刀を手放した。と、同時に幽霊はその人を襲った。私は目を伏せる。もう終わりだよ、私、死んじゃうのかな。涙がこぼれ落ちて来た。頭の中で、誰かが手招きしている。忘れたかったけど、忘れちゃいけないんだよね。もうすぐ逝くから、君の所に…。私は目を閉じた。短い人生だったなぁ…。


 やけに辺りが静かなのはなんで?私は目を開けた。そこには、燃える刀を持った一人の若い男がいた。私と同い年ぐらいの高校生に見える。幽霊の姿は無く、代わりに辺りには灰が降っていた。もしかして、この人が幽霊を倒したの…?私は声を掛けた。


「ねぇ、ちょっと待って。あなた、何者?」


 彼は振り向いた。自信が溢れ出す様な落ち着いた表情を浮かべる顔に、全てを照らす太陽みたいに燃えるような瞳。この人なら…。


 これが私と日野唯我との、初めての出会いだった。そして、物語は全てここから動き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る