銀座線上のアリア〜魔法少女は歩合制〜

JS2K2X/

プロローグ G(銀座)線上のアリア

 私、如月亞里亞きさらぎありあは魔法少女だ。


 黒のスーツで全身を固め、ネクタイを首からぶら下げ、茶色のロングヘアをふぁさっと垂らしている、魔法少女だ。


 吊り革に掴まってスマートフォンをいじりながら電車に揺られる、魔法少女だ。


 誰がなんと言おうとも、日本魔法少女協会から正式認定された、魔法少女だ。


 ……。


 まるで魔法少女要素がない。どこからどう見ても、丸の内だか日比谷だかで働いてそうなOLだ。まあ、昼の11時ということを考えてみれば微妙かもしれないが。


 だが、これでいい。これがいい。誰も私のことを魔法少女だなんて思わないだろう。そもそも、魔法少女自体が世間からは秘匿ひとくされた存在なのだ。気づきようがない。


『次は銀座です。丸ノ内線、日比谷線はお乗り換えです』


 テンプレートに乗っかった自動放送が車内を漂う。


 今乗っているのは銀座線のB線、つまり渋谷から浅草へと向かう電車だ。東京の地下鉄はA線、B線という呼び方をしていて、よくある上り下りは使用しない。次が銀座ということは、目的地の末広町すえひろちょうまではあと6駅だ。いや、銀座を抜けば5駅か。


 まもなく電車は銀座駅に到着し、目の前の席が空いた。私は嬉々として座る。


 ポケットから有線のイヤホンを取り出し、スマートフォンと接続する。

 

(このイヤホン、耳のハマり具合が中途半端なんだよね〜)

 

 ……などと内心呟きながら、曲を再生する。すぐにG線上のアリアが流れ出した。


 ……はい、完全にダジャレで決めてます。銀座線と亞里亞で掛けてます。でも、この曲を聴くとなんだか落ち着いて仕事ができる気がするんです。本当です。


 電車は加速と減速を繰り返し、地下鉄特有の短い駅間を走り抜けていく。京橋、日本橋、三越前、神田と停車していき、特段変わったこともなく末広町に到着した。


(さぁ〜て、頑張りますか!)


 電車から降りた私は、低いホームの天井に届くんじゃないかというぐらいの背伸びをした。銀座線しか乗り入れていない末広町なら、同業に仕事を奪われる心配もない。


 そう意気込みながらポケットにイヤホンを仕舞おうとした時、あることに気づいた。


「……あれ?」


 思わず疑問符を口にする。


 ……ない。ないないないない……


 1日乗車券私の味方


「ない!」


 声が反響して、周りの人々が思わずこっちを向く。恥ずかしい。


 ……いやいや、その前に。1日乗車券を失くしたってことは、再購入600円と渋谷からの乗車賃210円の合わせて810円とおさらばしないといけないってことじゃん!


「マジか……」


 ため息が漏れる。一気にやる気がなくなった。


「これは昼ごはん抜きだなあ……」


 トボトボ足を隠すことなく、私は改札口へと向かった。全ては給料制度が悪い!そう心の中で叫びながら。


 改めて言おう。私は如月亞里亞。魔法少女だ。そしてこれは、東京に跋扈ばっこする魔物(と給与形態)と戦う物語だ。

 

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