第45話 メイドは悪戯がしたい
夕食中、二人でデートプランについて考えていた。喫茶店に行くか夏祭りに行くか、遊園地に行くか。古宮は夏祭りに行く場合、開催地とか把握しているのだろうか。
「夏祭りって場所、何処なんだ?」
「これから調べます」
「……それは遅くね?」
「だって、ご主人様の浴衣姿見たいんですもの」
「悪いけど浴衣、持ってねーよ?」
「ガーン」
古宮は項垂れる。
相当期待してたのだろう。
でも、すぐに切り替える。
「夏祭りは
(そこは死にますじゃないのか……)
「そうだな」
そうして喫茶店と遊園地に行くこととなった。
「どちらが先とか希望ありますか」
「俺は明日遊園地で明後日喫茶店がいいな」
「じゃあそうしましょう」
古宮は焼き魚を一口食べて、その後水を飲んだ。相変わらず、食事しながらメモを取っている。メモ魔か。
きっと、メモの大半が祐介日記で占めている事だろう。さっき漫画を読んでいた時もメモを書く手は止めていなかった。
「ご主人様は何故、喫茶店に行きたいのですか」
「ああ、実は俺の従姉弟が喫茶店営んでて、久しぶりに顔見せたいな、と思って」
「従姉弟って女ですか」
「女だけど」
「それはダメです! いけません」
「何でだよ。じゃあ俺一人で行ってくるよ」
「むー」
古宮は不機嫌だ。
神崎もよく不機嫌になる。めんどくさい。
「……分かりました。許可しますけど、一番にわたくしを大切にして下さいね? その従姉弟とは目も合わせてはいけません。いいですね?」
(鬼畜過ぎる……)
「ああ。許可してくれてありがとう」
夕食が食べ終わる。
「じゃあ俺、シャワー浴びてくるわ」
「承知しました」
そう言いつつも、古宮は祐介についていく。祐介が浴室に入ったタイミングで彼女は脱衣所に侵入する。浴室からはシャワーの流水音だけがしていて、むずむずする。今すぐにでも襲いたくなる。
一度ドアノブを回してみる。だが開かない。鍵が掛かっているからだ。
ガチャガチャガチャ。
流石にこれは祐介に気づかれる。
「入っちゃダメだよ?」
「……神崎さんとは一緒にお風呂、入ったのではないのですか?」
「入ってねーよ」
(何を勘違いしてるんだ、この女は)
祐介は呆れる。
「そうですか、失礼しました。ですが――」
――ご主人様の裸が見たいです。
それは言えなかった。気恥ずかしくて。嫌われたくなくて。
古宮は最後に彼の衣服を堪能した後、脱衣所を出た。
リビングに彼女は一人。
(ご主人様にもっともっと触れていたい……)
(神崎さんとはどこまでしたの?)
(明日のデート、楽しみだな)
様々な感情が胸の中を渦巻く。
「神崎さんとわたくし、どちらのほうが好きなんだろう……今度ご主人様に聞いてみようかな」
それで祐介が「神崎」と答えたら、古宮は神崎を殺してから自分も死ぬつもりだった。回答次第でグロテスクになる質問だ。
祐介がシャワーから出てきた。
続いて古宮も入る。
「?」
神崎は祐介が寝てからシャワーに入っていたので、祐介は純粋に疑問に思う。
「これからするんですから」
「何を?」
祐介の問いには答えずに、彼女はシャワーを浴びに行ってしまった。
古宮がシャワーから出てくると、祐介はソシャゲをしていた。
「ご主人様? もう寝る時間ですよ。って、何をされているのです?」
急いでスマホの電源を切る。またこんな小さな事で嫉妬されては困る。もし、スマホを壊されたら……と思うと怖くなってくる。
「いや、何でも?」
無かったことのように、平静を装う祐介。
(そういえば古宮もスマホ、持ってないな……)
メイドはスマホの使用を禁じられているのだろうか。デート先で逸れたらどうやって連絡取る? 分からない。
古宮のことだから、「ご主人様の匂いを辿って」とか言いそうだけど。
「それでは寝に行きましょうか」
「ああ」
祐介の部屋に二人で入る。
「おやすみなさいませ、ご主人様」
「ああ、おやすみ。……って、ん?」
あろうことか、古宮は祐介のベッドの中に入ってきたのだ。
「おい、君は自分の部屋で寝ろよ」
「わたくしには自分の部屋がありません」
半泣きする古宮。
「いや、神崎の部屋があるだろ」
「あれは神崎さんの部屋です。わたくしの部屋ではありません」
古宮の部屋を用意しとくべきだった、と祐介は反省する。でも、神崎から何の説明も無いわけがない。きっと古宮の自作自演で、本当はちゃんと寝る場所があるのだろう。この状況、どうする!?
「いや、でも一緒に寝るのはマズいだろ」
祐介がそう振り向くと、なんと彼女は服を脱ぎ始めていた。
「ちょ、ちょ、ちょ、何してんだよ。古宮」
「今からご主人様とわたくしはするんです」
「……」
こいつも厄介なメイドだ。
「俺はする気ねーから」
ようやくする、という言葉の意味を察した祐介。その後は無視を決め込む。
古宮は彼の頬に触れようとする。
そこで彼は初めて反撃した。
「神崎にこの事、バラされてもいいのか?」
古宮の手が止まる。
「で、ですがっ。ご主人様としたら、その後はどうなっても構いません」
「未成年者との合意無い性行為は犯罪だぞ」
「……」
「そんなにわたくしとしたくないんですね」
「ああ、したくない」
「ぐすん」
古宮は泣いてしまった。だが、祐介は放置する。
「ご主人様はわたくしのことが嫌いなんですね」
「……」
「ご主人様はわたくしより、神崎さんのほうがいいんでしょう」
祐介の肩が跳ねる。
「! そんなことは無い」
でも嘘はすぐにバレる。
「わたくし、ご主人様の心が読めるんです。だから、分かっています。ご主人様にもっと好かれたい――」
「だったら、早く俺を寝かせてくれ」
「承知致しました」
「あとエロいことはやめろ」
「……承知致しました」
「おやすみなさいませ、ご主人様」
「最初からそうしてくれ」
祐介が眠りに就いた頃。
古宮は祐介の下半身へと手を伸ばす。そして、彼の頬に軽くキスをする。
「ムラムラが止まらない……! 悪戯、したくなっちゃう」
どうも神崎以上に変態のようだった。
朝起きると、すぐ隣に古宮の顔があった。
ホラーとはまさにこの事だ。
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