第17話 閑話 メイド、イメチェンする


 メイドの朝は早い。起きた所からメイドの仕事は始まる。祐介様を起こして、朝ごはんを作って、ついでにお弁当も作って、祐介様を送り出す。忙しいけれど、神崎はそれなりにやりがいを感じていた。


 と、仕事前に身支度というものがある。化粧や着替えのことだ。いつもはピンクを基調としたメイド服を選ぶのだが、今日は水色を選んでみた。メイド服は全部で三色。ピンク、水色、紫。紫はまたの機会にしようと彼女は考えた。


「気づいてくれるかな? 祐介様」


 寝巻きを脱ぎ、水色のメイド服を身に纏う。そして、メイドカチューシャをつける。カチューシャも水色のメイド服に伴い、水色を基調としたものにした。

 最後に手袋を付け、リボンの付いたニーハイソックスを履き、


(これで良し!)


 神崎は自室を出た。


 ノーパンというスリルを味わいながら、彼の部屋へと向かう。一応、祐介の部屋の掃除は昨日、終わらせておいた。毎日ソファーで寝かせるのは可哀想だもんね。


「おはようございます、祐介様」


 神崎が部屋へ行くと、彼はまだ寝ていた。その間にスマホのカメラで祐介の寝顔を連写する。


「まったく。本当に無防備なんですから。そのうち、襲っちゃいますよ?」


「……ん」


 今の彼女の声に反応したのか、祐介はパチリ、と目を開けた。


「神、崎……?」


「わたくしがどうかしましたか?」


「いや」


「今日の朝食はオムレツです。さあ、下りてきて下さい」


 祐介は神崎についていく。

 リビングに着くと、ふっくらとしたオムレツが二つ並んでいた。何故か祐介のにだけ、ハートマークが。


 早速、オムレツを頂く。

 美味しかった。それはそうと、祐介はある違和感を覚える。


「ちょっと顔洗ってきてもいいか?」


「いいですけど、先ほど洗ったばかりでは? ……まあいいですけど」


(気づいてくれたのかな? それとも何かいつもと違うけど、それが何なのか分からないパターンとか?)


 祐介が洗顔から戻ってくる。


 食事を再開するが、彼はまだ難しい顔をしている。


「何か、気づきませんか?」


 少しだけ神崎はアタックしてみる。


 メイド服をピンク→水色に変えたといっても、服の色は白と水色なので、全部が水色では無い。白の方が比率的には多い。それはピンクのメイド服も同様。リボンやレース等の所々が水色なだけだ。


(メイド服がピンクから水色になってる?)


 ようやくその答えに気づいた祐介。


 けど、その答えを当てるのは気恥ずかしかったので、適当にぼかす事にした。祐介はそこまで鈍感ではなかった。寧ろ、敏感なほうだった。


「な、何ていうか、今日の神崎、いつもより可愛い、な……」


 緊張の余り、しどろもどろになりながらも彼はそう告げた。


「かっ、可愛――ぶしゅっ」


 そうなると思ったよ。


 祐介は何枚かティッシュを差し出す。


 その後も食事中、何度も目が合った。


「な、何ですか?」


(いつもより可愛い。それってどういう意味だろう……いつもと違う事には気づいてる?)


「いや、何でも?」


 祐介は舐め回すように、じっくりと念入りに彼女のことを見た。


「そんなにじろじろ見られると、恥ずかしい、です」


「ごめん」


 食事が済み、神崎は皿洗いへと移る。


 後ろ姿の神崎に対し、祐介はこう問う。


「その……メイド服って全部で何種類あるんだ?」


「!」


「ピンク、水色、紫色の三種類です」


(これは気づいてるよね? でも何ではっきり言ってくれないんだろう……言ってくれるの、待ってるのに……)


「……そうか」


 祐介は恥ずかしくて、なかなか言えないのだ。


 神崎の皿洗いが終わるといつものトランプタイムになった。毎日、学校に行く前に彼女とトランプをするのがルーティンになっているのだ。


 今日はどう考えても勝てないババ抜き。


「それじゃ、トランプ取りに行きますね」


 神崎はトランプを取りに行く為に立ち上がる。


 ――刹那、神崎のメイド服の下が少しだけ見えてしまった。どこまでも続く、太ももの肌色。そして――。


 彼は見てはいけないモノを見てしまった。途端、顔が赤くなる。


(こ、これは、履いてない!?)

(いやいや、まさかそんな……)

(見間違いだろう)


 変なタイミングで神崎が戻ってくる。


「祐介様、お顔が赤いですがどうされました?」


「……」


「祐介様?」


「ト、トランプしようか。うんうん、そうしよう」


 童貞の祐介にはあまりにも刺激が強すぎた。


 その後のババ抜きも祐介は集中できず、ボロ負けだった。


「そろそろ行く時間ですね」


 弁当箱を神崎から渡される。


 時刻は七時過ぎ。そろそろ行かないといけない。


 でも彼は迷っていた。

 今日の神崎の変化に気づいている事を伝えるべきか否か。流石にノーパンということに関しては触れてはいけないと思った。だって祐介が「今日、パンツ履くの忘れてない?」って言ったら、変態と思われるだけ。どこ見てるの? って話だ。それに本当にノーパンだった、という確信には至っていない。だからモヤモヤするのだ。


 迷っているうちに『いってらっしゃいのハグ』をさせられていた。そしていつものように、彼女は盗聴器を仕掛ける。


「神崎」


「何でしょう?」


「神崎のメイド服がピンクから水色になってる事くらい、気づいてるって。似合ってる。次は紫も見せてくれ」


「……!」


 神崎は息を呑んだ。


「は、はいっ。ありがとうございます。今度は紫も着てみますね」


 バタン、と玄関の扉が閉まる。


(ずるいです。祐介様。気づいてくれたら、ハグでもしてあげようと思ったのに。言いたい事だけ言って逃げるなんて)


 彼女の思うハグは『いってらっしゃいのハグ』とは別物だ。でもカウント的には二回することになる。


(さっきから気づいていたのに、らしてきてたのも、ずるい)


(でも、ノーパンだった事はバレてないよね?)


 バレてます。


 流石に外行くのにノーパンはやばいから、パンツを履いてから神崎はストーキングに出掛けた。







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