死が隣合う世界で銃声を

ハルマサ

プロローグ


 長きに渡り続いた戦争は、およそ劇的とは言い難い結末を持って終わりを迎えた。

 第二十一次人魔大戦。巷ではそのような名で呼ばれた戦争の結末は両陣営のトップ──つまり人類の全ての国の王と魔族の全ての種の王の自決に終わった。

 戦争が終わったことが全世界に伝えられたのはその直後だ。直後とは言っても辺境の地にその吉報が届いたのは終戦から二年が経ったくらいだろう。

 それでも十分に早かったと言える。何せ幾度も繰り返された大規模な戦闘のせいで地形はデタラメ、空気の汚染も起こり馬を走らせるにしても短時間のうちに数回の休憩を挟まないとならないという始末。

 この有様で二年のうちに世界中に終戦が伝えられたのは速すぎると言っていいだろう。

 もっともそうなったのはそれほどまでに人類も魔族も戦争の終わりを待ち望んでいたからに他ならない。

 何せ、終戦の報告は馬による報告ではなく、隣国からの口伝で伝わったのだ。

 人の口はよく回ると言うが、まさか馬が走るよりも速いとは。

 とまあそんなわけで戦争は終わった。

 しかし、戦争が残した傷跡は決して小さいとは言えないだろう。

 先程も述べたように地形はぐちゃぐちゃで、空気は汚染されている。その他にも昔は何百とあった国々も今や数十にまで減っており、その国々も国王の消失によって混迷を極めていることだろう。

 ほとんどの国は無法地帯と化し、戦争が終わったにも関わらず小さないざこざは後を絶えない。

 食糧不足も問題だ。環境汚染によって温室育ちの家畜どもはまとめて死滅、植物もろくなものが育たず、他所からの支援も望めない。

 戦争が終わったからと言って、平和になる訳では無い。

 しかし、これはひとつの時代の終わりを意味し、ひとつの物語の終わりを意味する。

 つまり、ここからは別の時代、別の物語が始まるのだ。

 さて、ここまでこの世界の歴史について表層をサラリと撫でる程度の説明をしたが、理解は深められただろうか。

 まだピントは来ないだろう。

 しかし、これ以上の説明はあまり意味をなさない。

 それはここから先に綴られる物語を読めばわかる事だからだ。

 戦争の時代が終わり、世界中が新たなる激動の時代を迎えた時。

 これはその新しい時代の物語。

 ある少年少女が故郷へ帰る物語である。

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