第160話 同じ星を

「――スロウ」


 魔眼は既に起動済み。

 俺はこの眼でヤツを捕らえる。

 だが。


「効くかよ卑怯者リュクス!」

「クソが……やはり」


 レオンも習得していたか。

 光のヴェールを纏って魔眼による直視を防ぐ補助魔法。


 これで魔眼による直接デバフ付与と動きの観察が不可能になった。


「さぁその眼は封じたぜ。どうする?」

「こうなったら……」


 俺は剣を構える。


 そんな俺を鼻で笑うと、偽物は華麗なステップで距離を詰め、剣を振るう。


 一振り、二振り。


 繰り出される剣撃を、俺は全て受け流し。


 ――ここだ。


「ぐはっ」


 24連撃目を防いだ後に、敵に蹴りを入れる。

 思った通り。


「く……何故だ。何故お前がこれほどの剣捌きを……」

「どうした? もう終わりか?」

「い、いや。これはきっと何かの間違いだ。剣を握っているところなんて見たことがない。お前の付け焼き刃などに」


 生憎、剣なら毎日握っているよ。


「くっ……この……はああああああああ」


 このみがわり人形、肉体のスペックはこの世界のレオン準拠だが……攻撃モーションがそのまんまゲーム版だ。


 それなら俺が負ける道理はない。


 俺はゲームをプレイしている間、ずっと後ろからその攻撃を見ていたのだから。


 バリエーションもゲーム通りのコンボ攻撃。


 なら12撃目と13撃目の間にある大きな隙を狙う。


「くっ……せいっ」

「そこだあああああ!」

「何!?」


 ここから形成逆転。

 今度は俺の剣を打ち込み続ける。


 だが流石はレオンの複製体、必死に対応してくる。


「なんだ……なんだこれは!? この戦い方、まるでクレアの……」

「悪いな。そのリアクションはちょっと遅いぜ」


 俺たちはお前の知るクレアの剣技を五年前に超越している。


「これを機に上方修正しておけよ――」

「ぐっ……あああああああ」


 胴体に思いっきり剣を叩き込む。


 斬撃耐性のある制服を着ているため切れはしなかったが、体内に確実にダメージを与えた。


「――ダークライトニング!」

「――フォトンプロテクション!」


 木にぶつかって倒れたところに追撃の魔法を放ったが、闇魔法によるダメージを完全に無効にする防御魔法を発動。


 そのダメージを無効にした。


 フォトンプロテクションのダメージ無効時間はほんの一瞬。

 ゲームでは敵の攻撃に対してタイミングよく発動する必要があり、「だったら避けた方が早い」と言われていた魔法。

 本当に最後の最後に使うような魔法だったが、やはり使ってきたか。


「ははは……悪いがお前レベルの闇魔法は俺には通用しない。フォトンプロテクションは全ての闇のダメージを無効化する」


「だが……追加効果は受けてもらうぜ」


「なっ……何!? 体が動かない!?」


「悪いな。10パー程度は雷魔法が含まれているんだ」


 大ボス、マスマテラ・マルケニスの動きすら封じたとっておきの魔法だぜ。


「ということは……これはスタンか!? くっ……その剣技といい、魔法といい、お前は本当にリュクス・ゼルディアなのか!?」


「さぁな」


 少なくともお前の知るリュクスではない。


 俺だけじゃない。


 レオンも。リィラも。クレアも。エリザも。イブリスも。みんなお前の知っているキャラとは別人になっている。


 だからもうお前は休め。


 俺は右手を偽物に向ける。


「はっ。聞いてなかったのか? 俺に闇魔法は通用しない。このスタンが解除されたときがお前の最後だ」


「悪いがその時は訪れない。一枚……炎属性解放――バーニングブラスター!」


 俺の人差し指の先……正確には爪に炎の魔法が宿る。


「ば、馬鹿な……リュクス・ゼルディアが炎の魔法を!?」


 無論、これは俺の魔法じゃない。


 友人であるモエールの魔法だ。


 俺はあの屋上で、みんなの魔法を付与したつけ爪をラトラに作ってもらっていた。

 この勝負は、この学園でレオンが培ったもので決着をつけたかった。


「二枚目……水属性解放――アビスフォース。三枚目……風属性解放――トッドトルネード。四枚目……土属性解放――ガイアブラスト!」


 つけ爪がすべて砕け散る。


 俺の手の中には四つの魔法属性。


 リィラのように器用に属性融合なんてできない。


 だから俺は、これをただ敵にぶつける。


 四つの魔法が渦となって、みがわり人形に襲い掛かる。


 闇の魔法が効かなくても……これならば。


「お前すごく強いな……次は負けないぜ!」


 レオンの顔をしたみがわりは急に笑顔を作ると、最後にそう呟いて。

 そして、四属性の魔法の中に消えていった。


「はは……なんだよ最後の」


 アイツが最後に放った台詞は、ゲーム版レオンの台詞だ。

 主に学生キャラとのバトルでHPが0になった時の汎用台詞で、思わず笑ってしまった。

 ゲームを始めた頃は、よく聞いていた台詞だ。


 俺はリュクスに負けたことがなかったので知らなかったのだが、おそらく学生キャラということで、このセリフが割り振られているのだろう。


「ふぅ……なんとかなったな。魔法の打ち合いに持ち込まれていたら危なかった」


 イブリスの姿にしたみがわり人形がやられた時点で、光の攻撃魔法に対する有効な解答が俺にはなかった。


 だからこそ剣を呼びだし、剣による戦いへと奴の動きを誘導した。


 奴の中にある俺の情報がゲーム版のリュクスだったから、剣による戦いが有利と乗ってきてくれたが……もし本当のレオンとガチバトルだったら、こんな結果にはならないだろう。


 魔眼を封じた時点で勝ちを確信していたみがわりと違い、本物はこちらの土俵には決して乗ってこず、距離をとってハイパーフォトンノヴァを連発してくるはずだ。

 とはいえ……本物のレオンと殺し合いをするなんて、あり得ない話なのだが。


「それにしても……一枚余ったな」


 俺は右手の小指に残ったつけ爪を眺める。

 一応別の魔法を付与しておいたのだが、使う機会はなかった。


 まぁ、便だし、いつか使うこともあるだろう。


「さて、そろそろ帰るか。……うん?」


 ふと、空を見上げる。

 思ったよりも時間が経ち、すっかり夜になっていた。

 

 そこには、いつか見た星よりも数倍美しい星空が広がっていた。


「星空っていうか……もはや宇宙? 凄いな……」


 そいうえば今日は13日だったと思い出す。


 レオンも寮の屋上からこの夜空を見上げているのだろうか?


 それとも。「学園なんてくだらない」と、もう王都を出てしまっただろうか?


 ラトラたちに側にいてあげて欲しいと頼んでおいたが、レオンが本気を出せば、みんなを撒くことくらい容易いだろう。


 でも。


「一人で見るのもいいけど。やっぱお前と一緒に星を見たい」


 次の13日もその次も。


 俺はお前と並んで星を見たい。


 だから、明日もちゃんと学園に来てくれよ、レオン。


 同じ空を見上げているレオンに届くように、満天の星空に祈った。


***

***

***

あとがき


書籍版第一巻、店舗特典が公開されましたのでご報告です。

各ヒロインのSSまたは兄と親父のSSとなっておりますので、興味のある方は是非こちらよりご確認ください。

https://kakuyomu.jp/users/KurujiTakioka/news/16818093079994588796

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