【書籍化】魔眼の悪役に転生したので推しキャラを見守るモブを目指します

瀧岡くるじ

第一章 少年編

第1話 プロローグ

※注意

書籍版・コミカライズ版とは設定、ストーリーが異なります。


***

***

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 ある日、自分が恋愛ゲームの世界の悪役キャラに転生していると気付いた。


 蝋燭が照らす薄暗い部屋でふと意識が覚醒する。


 悪趣味なオブジェクトが並ぶ部屋の中央には魔法陣が描かれ、中央には身動きができないように縛られた女の子が横たわっている。

 見たところ9歳10歳くらいでメイド服を着ている。


 え……何こいつ? それよりここはどこなんだ?


 さっきまで部屋でゲームをしてたいたはずなのに、いつの間にこんなところに?


 改めて部屋を見渡して、隅に置かれた鏡に映った姿を見て驚く。


「なんだコイツ……」


 思わずそんな言葉が口から漏れた。

 目の前の鏡には子供の姿が写っていた。一目で高級とわかる服。金色の髪。


 そして血のように恐ろしい赤色に染まった瞳。


 確か自分は二十歳の大学生だったはずだ。

 だから子供の姿をしているのはおかしい。


「リュクス様? どうされたのですか?」


 縛られていた女の子がこちらを見つめながら心配そうに声をかけてきた。

 まぁ心配とは言っても俺の身を案じてのことではなく「頭大丈夫かお前?」的なニュアンスの心配だが。


「ああ大丈夫……ん? ちょっと待って、俺の事リュクスって呼んだ?」

「はい……あなた様はリュクス様ですので。え、本当に大丈夫ですか?」


 リュクスといえば、俺がさっきまでプレイしていたゲームに出てくる敵キャラの貴族の名前である。

 どうやらゲームのキャラクターになってしまったらしい。


 しかしリュクス……リュクスか……。


 そこは普通に主人公がよかったな。


***


***


***


『ブレイズファンタジー』という恋愛アクションRPGがある。


 攻略対象の女の子たちの親密度を上げてハッピーエンドを目指す学園パートと、攻略対象や頼れる学友たちと協力して魔物を倒すRPGパートを繰り返しながら、最終的に復活した魔王を倒す。


 自由度の高い戦闘、魅力的なヒロイン、種類豊富なイベントとサブストーリー。


 ヒロインたちと甘々な日々を過ごすも良し。戦闘を極めて最強チームを作るも良し。


 多くの楽しみ方ができるブレイズファンタジー略してブレファンはかなりのヒット作として世に広まっていった。


 かくいう俺もその魅力に取り憑かれた男の一人だ。


 特に俺はキャラとストーリーが大好きだ。各ヒロインたちとのハッピーエンドや隠しイベントを見るためにゲームを何周も遊んでいた。


 だが一人だけ、嫌いなキャラがいた。


 いや、俺だけじゃない。


 このキャラはブレファンをプレイした人ほぼ全員から嫌われたキャラクターだ。


 リュクス・ゼルディア。

 御三家と呼ばれる公爵家の生まれながら、その目に宿した魔眼の力のせいで多くの人たちから嫌われ、蔑まれ生きてきた。

 生い立ちには同情するがそのねじ曲がった性格には心底苛立ちを覚える。


 リュクスは魔眼を隠すように伸ばしたボサボサの髪が非常に不気味で、背が高いのにガリガリに痩せたその姿は悪魔を連想させる。

 歯ぎしりをしたり頭を常にボリボリ掻いていたり、しまいには「ひょひょひょ」と笑ったり。

 おおよそ人が不快に感じる要素を詰め込んだようなキャラクターだった。


 だがリュクスが嫌われているのは何も容姿のせいだけではない。


 ブレファンには5人の攻略対象……ヒロインがいるのだが、その5人のシナリオ全てで中ボスとしてプレイヤーの前に立ちはだかるのだ。

 ヒロインを精神的に追い詰め泣かせたり、選択肢によっては殺害することもある。


 そのやり口は卑劣で見ていて不快になるものばかりだ。


 そんな中で戦闘になれば、プレイヤーは容赦なくリュクスをぶっ殺す。


 それは制作側の想定通りなのだろう。

 制作側から「こいつは殺していいクズなので気持ちよくぶっ殺しましょう!」というお墨付きを貰ったキャラといえる。


 だがリュクスを殺せばスカッとするかというとそうではない。


 リュクスが死ぬことによって魔王が復活し、こいつの死体から魔眼を奪いパワーアップするのだ。


 死してなおラスボスの強化パーツとなりプレイヤーを苦しめる厄介なやつ。


 それがリュクス・ゼルディアなのである。


 で、そんなキャラに転生してしまった俺は、将来学園で主人公とヒロインにぶっ殺された挙句、魔王の強化パーツになることが確定している訳だが……。


「主人公やヒロインには会いたい……是非一目お会いしたい。何故なら俺はブレファンが大好きだから。でもぶっ殺されるのは普通に嫌だし魔王に眼球をあげるなんてもっと嫌だ」


 さてどうしよう。


 そもそもリュクスがクズになったのは、幼少期に親や兄弟からの愛情を全く注がれなかったことが原因だ。

 そしてそれは何故かというと、リュクスが魔眼を持っていたからである。


 その愛されなかった反動から主人公やヒロインたちに嫉妬や羨望など重い感情を抱き、ちょっかいをかけ破滅したのがゲームでのリュクスである。


 だが、俺は違う。俺は元の日本で普通に育ってきたから、いまさら親兄弟の愛情なんて必要としない。


 このまま真っ当に育ち、真っ当に学園へ進学すれば……普通のクラスメイトAとして、主人公やヒロインたちが恋愛しているところを楽しみながら見ていられるのでは?


 うん、いいんじゃないか?


 そもそも敵対しなければぶっ殺されることもないんだし。


 よし。方針は決まった。

 とにかく主人公やヒロインと敵対せず、彼らの日常を楽しく眺める。

 困っていたら陰から手を貸す。


 それでいこうじゃないか。


「あの~リュクス様? 本当にお頭は大丈夫ですか?」


 俺が一人納得したところで、縛られたままの少女が再び声をかけてきた。

 そういえば忘れていたぜ。


「ああ、心配かけたね。もう大丈夫だよ」

「それはよかったです。リュクス様の身に何かあったのではないかと心配で」

「心配かけてすまなかったね。ところで君はこんな気味の悪い部屋で一体何をやっているの? 大丈夫? その体勢辛くない?」

「あ……あ……」


 俺の質問に、少女はピクリと固まった。


 そして。


「あなたがやったんでしょおおおおおおお!!!」


 めっちゃキレた。


「え? 俺?」

「そうです! 『悪魔召喚をやるぜぇ~生け贄お前な!』って言って私の体を縛ったんです!」


 話を聞いてみると、この少女の名前はモルガで年齢は10歳。(ちなみに俺の年齢は9歳だった)

 このゼルディア家でメイド見習いをしているらしい。


 ゼルディア家では魔物の被害によって家族を失った子供たちを積極的に雇っているらしく、この屋敷にはモルガ以外にも同年代のメイド見習いがたくさんいるのだとか。


 リュクスは数日に一回のペースで自室で『悪魔召喚の儀式』を行っているらしく、その度にメイド見習いを「生け贄」と言いながら縛っているらしかった。

 最初はおびえていたメイド見習いたちだったが悪魔が呼び出されることは一切なかったため、今では子供のごっこ遊びに付き合うくらいのノリで生け贄をやってくれているらしい。


 おお……完全にイタい奴だと思われてるじゃねーか。


 俺のことじゃないのに、すごい恥ずかしいぞ?


 このままじゃまずいな。


「えっと……リュクス様。悪魔が呼び出せず、残念でしたね? 次はきっとうまくいきますよ!」


 滅茶苦茶気を使われてるじゃねーか。

 幼少期のリュクス、滅茶苦茶残念な奴だったんだな。


「いや、悪魔はもう止めだ。モルガも、今までこんな危険なことに付き合わせてすまなかった」


 モルガの幼い体を縛っていた紐をほどく。


「いえ、儀式中は仕事をサボれるのでそれほど嫌ではありませんでしたよ?」


 いやメッチャ舐められてるやんけリュクスおい。


「なのでたまには悪魔召喚の儀式をしてもいいですよ? 生け贄ならやってあげますので」

「いや、本当にもうやらないから」


 本当にやらない。

 何故なら幼少期からこのお遊びを繰り返し続けたリュクスは14歳のとき……本当に悪魔召喚を成功させてしまうからだ。


 しかも只の悪魔ではない。数百年前に封印された魔王の魂を呼び起こしてしまう。


 そしてその魔王の魂に利用され、さんざん主人公やヒロインと戦わされ利用された挙句、最後には死に、眼球を奪われるのだ。


 その一番の原因である悪魔召喚の儀式は今日でお終いだ。


 これで破滅ルートの一つは潰した。


 だが油断はできない。


 ラスボスである魔王復活はどのルートでも確実に起きるが、復活方法はひとつではないからだ。

 死んでなるものか。もっともっと強くなって、必ず生き残ってやる。


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