第23話 最硬のベビーベッド

「おめでとう、レオくん」

「御館様、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 一緒に待ってくれていた2人に祝福を受ける。これで俺も父親か……

 まだ対面もしてないのに泣きそうだ。


 ガチャり、と扉が開き助産婦が顔を出す。


「お生まれになりました」

「入っていいのか?」

「はい。まずはクリード侯爵様のみとなりますが……」


 2人を見ると、笑顔で頷いてくれたので中へと入る。


「侯爵様、元気な男の子です」

「お……おお……」


 女医がお包みに包まれた赤ん坊を俺へと差し出してくる。

 壊れないように大切に赤ん坊を受け取り顔を覗き込む。


「金髪……目の色は分からないな」


 赤ん坊の目は閉じられており、瞳の色は伺えない。


「鼻と口は侯爵様にそっくりですね」

「そうかな? 俺はサーシャに似てると思ったけど……」


 赤ん坊を女医に渡してサーシャに近付く。


「サーシャ、ありがとう」

「レオ様……」


 俺を呼びに来た助産婦がサーシャの額の汗を拭いている。

 俺もベッド脇の椅子に腰掛けサーシャに回復魔法を掛けてやる。


「ありがとうございます」

「これくらい当たり前だよ。ありがとうサーシャ。元気な男の子だ」

「レオ様……こういう時は『よくやった』ですよ?」

「いいじゃないそんなの。俺がお礼を言いたいから言うだけだよ」


 少し乱れた彼女の髪を整えるように頭を撫でる。


「くすぐったいです……男の子で安心しました」


 クリード家は侯爵位の貴族だからな、跡取りというのは大切だ。

 正妻であり、男の子を生んだサーシャの顔はやり切ったような表情を浮かべていた。

 俺としてはどちらでも元気に生まれてくれれば良かったんだけどね。


「レオ様、この子の名前はどうしますか?」

「名前ね……」


 名付けというのは親から子への最初の贈り物だ。

 俺も色々考えたし、相談しようかとも思ったのだがこういうのは当主が決めるものだから1人で考えろと言われてしまった。


 この国の高貴な身分な方の名前はアから始まる名前が多い。という事でアから始まる名前で知り合いとは被らない名前を考えた。


 適当だと思うだろ? でも名前の意味とか分からんからこうするしかないのだよ。


「アルス。アルス。クリードなんてどうだろう?」

「アルス……素敵な響きですね」


 こうしてクリード侯爵家次期当主、アルス・クリードが誕生した。


「おお……利発そうな子だ。サーシャ、よくやったね」

「お父様、ありがとうございます」


 しばらくして、アンドレイさんにも入室の許可が出たらしくアンドレイさんも部屋に入ってきた。


「うんうん。これでクリード侯爵家も安泰だな」

「もう……お父様ったら気が早いですよ」

「そんなことは無いさ」


 それからよめーずも入室してきて口々に労いと祝福の言葉が俺とサーシャに掛けられた。


 最後に、ジェイドも入ってきてアルスを見てうんうん頷いている。


「おめでとうございます御館様、奥様」

「ありがとうジェイド」

「ありがとうございます」


 ジェイドの言葉に2人でお礼を返す。


「若様に戦士の才能があれば……儂が責任を持って最強の戦士に育てましょうぞ!」

「いや……気が早いから」


 そういうのはアルスが望んだらね?


 しかし生まれたな……無事に生まれてくれてよかった。

 父親かぁ……親父も俺が生まれた時こんな気持ちだったのかな?

 今となっては確認する術も無いけど、ちょっと気になるな。

 孫見せてやりたい気持ちくらいは俺にもあるし。


 まぁいくら考えても仕方ない、この世界には親父もお袋も居ないのだから。

 そんなことを考えるよりも……


「可愛いなぁ……」


 真っ赤で猿みたいだ。

 テレビや写真で生まれたての赤ん坊を見たことはあるがその時にはあまり可愛いとは思わなかった。

 けど、自分の子となると話は別だ。可愛い。


 デレデレとアルスを眺めていると、後片付けがあるとの事で部屋を追い出されたのでよめーず、義父2人とともにリビングへと移動した。


 孫が生まれてデレデレのアンドレイさん、爺と呼ばせたいらしいジェイドが熱く語りあい、よめーずはキャッキャと赤ちゃん可愛いねと話し合っている。

 温度差……


 俺もどちらに混じろうかと考えたがよめーず一択だな。

 みんなでワイワイ騒いで、夕食を食べて風呂に入る。


「いやー、良かった良かった。私も安心したよ」

「良かったですな。これでクリード侯爵家も安泰、儂も老骨に鞭打って仕えさせて頂こう」

「ジェイド殿程の方が仕えてくれるとなると私も安心です」

「……」


 なんで一緒に入ってるんだろ?

 気付けばこの2人、酒を飲み交わして仲良くなってやがる。

 いや、仲良きことは美しきかなとも言うけど、義父同士で仲良くなって俺が話の輪に入れないのは如何なものか。


 湯船に浸かりながらさらに酒を飲む2人に付き合わされて俺も飲む。

 普段は全く飲まないがこういう時くらいは付き合うよ。


 酒は勧めてくるくせに話は振って貰えない……


 まぁ話題の中心はアルスのことなので、俺も聞いているだけで楽しいのも間違いない。

 1時間ほど付き合った後、アンドレイさんは外泊は不味いと言うので転移で送り届けておいた。


 その時にアレクセイにも伝えたかったのだが会えなかった。

 アイツタイミング悪いわ。


「ただいまー」


 アンドレイさんを送り届けてリビングへと戻ると、よめーずが何かを囲んでお喋りに興じていた。


「おかえりなさいッス!」

「レオ様おかえり。ごはんにする? お風呂にする? それともア・ル・ス?」


 ん?


「じゃあ……アルスで」

「一名様ごあんなーい」


 謎の選択肢を与えてきたイリアーナが少しズレると、そこにはベビーベッドに寝かされているアルスの姿があった。

 もう母親から離して大丈夫なのか?


「レオ殿、おかえりなさいませ。アルス様はぐっすり眠っておられます」

「かわいいですわ……まるで天使のよう」


 ソフィアは普段のキリッとした表情ではなく蕩けたような表情を浮かべている。


 ベラは今にもヨダレを垂らしそうな勢いでニマニマしながらアルスのほっぺをつんつんしたいる。

 羨ましい、変われ。


『マスター、おかえりなさいませ』

「ただいま……ん?」


 ウルトの声が聞こえたが姿が見えない。


『下です』

「下?」


 言われて視線を落とすが目に入るのはすやすや眠るアルスの姿……


「なんでお前がベビーベッドになってるんだよ……」


 どこにいるのかと見てみると、アルスが乗せられているのがベビーベッドではなくウルトなことに気が付いた。

 コイツ……ちゃんと落下防止の柵まで設置してやがる……


『マスターのお子であれば私の子も同然。私が抱いていてもなんら不思議はありません』

「不思議しかねーよ」


 なんでお前の子なんだよ。俺とサーシャの子だよ。

 子供欲しいなら軽四でも買ってきてやるからアルスの親は諦めなさい。


『アルス様の安全は私が保証します』

「それは頼む」


 なんだかよく分からないけどそのまま盛り上がり、夜も更けたので休むことにする。


 ウルトはアルスを乗せてサーシャの寝室へ、俺も行こうかと思ったのだがイリアーナに捕まって寝室へと引きずり込まれた。


「レオ様、女の子がいい」

「それは生まれてみないとわからないよ」


 その日もせっせと4人目作りに精を出した。

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