第15話 ゴルベフ辺境伯

 そこからの会議は比較的スムーズに進んだ。

 不気味なまでにゴルベフ辺境伯が国王や王太子に従順なのだ。


 まぁゴルベフ辺境伯も教国貴族なのだから建前上国王に忠誠を誓っているから当たり前なのだが……


 盗賊団と繋がっていたり、俺を差し出そうとしたりと腹に一物ありそうなんだけどなぁ。


 なんやかんやと会議も終わり、貴族たちが戦争準備を整えるために解散したのでその流れで帰ろうと立ち上がった時、背後から声を掛けられた。


「クリード侯爵、先程は済まなかった」


 振り返ると、ゴルベフ辺境伯が軽く頭を下げていた。


「先程の私の発言、気を悪くしたと思うが許して欲しい。教国の臣として必要なことだったのだ」

「必要と言いますと?」


 まぁ別に怒ってはいない。

 ただ、賛同した貴族の顔はインプットした。それだけだ。


「私がああして発言することで侯爵の敵は浮き彫りとなった。ここだけの話、私は陛下と宰相に頼まれてな……」


 他の人に聞こえないよう隅の方へ移動して話を聞いてみると、どうやらそういうことらしい。


 盗賊団との繋がりもゴルベフ辺境伯が繋がっているのではなく、ゴルベフ辺境伯家の三男がゴルベフ辺境伯の名前を騙ってやっていたことらしい。

 ゴルベフ辺境伯本人は領内の統治や増えた盗賊の討伐に忙しく気付かなかったそうだ。


「息子と加担した家臣は斬ったよ。侯爵にも迷惑をかけた」

「いえ、特に迷惑などとは……」


 息子も斬ったのか……

 罪には罰、当然ではあるのだがまさか斬るとはね。

 貴族の身内の罪なんて、軟禁だったりなんだったりの御為倒しかと……


「それもあってライノス公爵からの要請も断れなかったのさ。私自身侯爵に対して隔意は無い」


 そうなんだ。

 てっきりゴルベフ辺境伯が旗を振ってその手下たちが揃って俺を差し出そうとしてる風に思ってたよ。


 狙いは未開地の開発利権、それと手下の盗賊団壊滅の復讐、みたいな。


 話を聞く限りでは嘘は無さそうな感じだし、もう気にしないでいいのかな?

 息子まで斬った人疑うのもなんだか怖いし。


「分かりました。私としても領地を接しているゴルベフ辺境伯とはよき関係を築きたいものです」

「そうですな」


 差し出された手を握り仲直り。

 仲直り? 特に仲違いはしてないからなんか違うな。


「クリード侯爵、少しいいかな?」


 ゴルベフ辺境伯との話を終え、今度こそ帰ろうとしたところ今度はアンドレイさんに呼び止められた。


「なんでしょう?」

「戦争のことで少し相談したいことがあるんだ」


 アンドレイさんに連れられて会議室を後にする。

 案内されたのは国王の執務室であった。


「お連れしました」

「お呼びでしょうか」


 中に入ると国王と王太子、それから閣僚たちが難しい顔をして話し合っていた。


「おお、クリード侯爵。済まないな」

「いえ、それで?」


 話し掛けてきたのは軍務大臣の人。名前は知らない。


「実はな、クリード侯爵の居た世界での戦争について話が聞きたかったのだ」

「戦争……ですか」

「ああ、クリード侯爵の居た世界での戦争はどんなものだったんだ?」


 そう言われても困る。

 日本に住んでいると戦争とか遠い世界のものみたいな感じがあるからなぁ……


「経験はありませんが……」

「構わない。見聞きした事だけでも教えて貰えるとありがたい」


 なんの参考にもならないと思うけど……


「まず、私の居た国では戦争はありませんでした。世界となると色々とあったようですが……ですので期待はしないでください」


 それから思いつくままに話をした。

 そもそも銃の無いこの世界に応用できるかは謎である。


 しばらく世界大戦の話をしていたが、やはりピンと来ないようで国王以下閣僚たちも難しい顔をしている。


 ふむ……


 やはり戦闘機とかミサイルとかは理解出来ないか。それなら……


 世界大戦の話を諦めて戦国時代の話をすることにした。

 とはいえ学校で習った内容なんてうろ覚え、1000人吹っ飛ばす爽快感のあるゲーム知識をもって話をした。


 どうやら戦争大戦よりそちらの方が理解しやすかったらしく、今度は興味深げに聞いて貰えた。


「と、このような感じですかね」

「ふむ、参考になった。感謝する」


 良かった、どうやら満足して貰えたようだ。


「やはり帝国に要請を送り挟み撃ちにするのが一番か」

「しかし帝国軍が到着するまで持ち堪えられるか……」

「陣地の整備を急がなくては」


 閣僚たちの間で議論が白熱し始める。帰っていいかな?


「そうだ、クリード侯爵はどれほど戦力を用意するつもりなのかな?」


 戦力? 諸侯軍ってやつ?


「そうですね……開発を中断すれば数千は出せますが……」

「ふむ、数は少なくても構わないから開発は続けて欲しい」


 大まかな整備はウルトが済ませているからあとは人の手で仕上げをするだけ。

 それでも国王は早く開発を進めて欲しいようだ。

 それに、俺にこれ以上の功績を積まれても困るのかもしれない。


「それでしたら……」


 100人くらい出せばいいのかな?

 この1年ほどで集まっているうちの警備部門は今どれくらいいるのかな?


 警備隊から100人ほど、それから俺とジェイド、フィリップ……あとは来れるとしたらアンナ? リンは体調次第か。


 頭の中で纏まったのでそれを伝えると、十分だと返事を貰えた。

 ならその方向で進めようか。


「では、私も準備がありますので」

「予定はまた伝える。クリード侯爵、よろしく頼む」

「はい」


 国王と軍務大臣に別れの挨拶をして城を後にする。


 マークとダニエル、それによめーずにも話をしないといけない。

 忙しいなぁ……

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