のらねこをいじめてやった!

あゝ

とあるあめのひ


「…ゃ──」

 

「へ、へへ。

 いい感じに溜まったきたぞー!」


 雨が降って少しじめじめするが、なんでもない日。

 

 少年は傘をひっくり返し、雨水を溜めていた。

 

 それはなんとなくの行動である。

 今日は公園で遊べないから、暇を持て余しているのだ。

 

「ふふーん♪」

 

 少年は愉快なステップを踏みながら、水溜まりを飛び越す。

 

 これもまた無意味な行動。

 なんでそんなことをするの? と聞いても『ほよよ?』としか返されないだろう。少年はそれほどまでに──


「…………にゃー」

 

 雨音にかき消されそうなほどに小さく、だが確かに少年の耳へと猫の鳴き声が、突然聞こえてきた。

 

「ほよ?」


 少年は猫の声が聞こえてきた方へと、引き寄せられるように向かっていった。好奇心が、少年の体を突き動かしたのだ。

  

 少し歩くと、少年は足を止めた。

 

 視線の先にはやせ細った子猫がいた。

 少年よりも遥かに小さく、両手に収まるほどである。

 

「むむー?」

 

 少年は首を傾げた。


「……にゃ」


 衰弱しきった声で子猫が鳴いた。

 

「ははーん」

 

 少年はにへらと笑い、傘を元に戻した。

 今まで溜めていた雨のことなど忘れて。


 バシャ。

 

 頭から雨水を被ったが、そんなこと気にも留めず、傘と猫を器用に持った。

 まるで玩具を見つけたと言わんばかりに瞳を輝かし、少年は悪だくみしているようだった。


 ※



 あめの日、猫をみつけた。

 毛むくじゃらで気持ちわるい。

 きたないし、くさい。

 

 だから、と思った!



 まずは家に猫を入れた。

 猫は外にいる生き物、中にいるだけでも嫌がることだ。

 へへ、僕に見つかったことを後悔するんだな!

 

 続いて、飯をあげた。飯をあげたといっても、ただの飯じゃないぜ。

 ぐちょぐちょした変な奴だ。きっとやばいに違いない。ばあばがくれたものだし。あの猫はバカなのかばくばく食ってて面白かった。

 

 これだけじゃ終わらない。


 ままが帰ってきたら、風呂に入れてやった。猫は水を嫌うからな。だけど、なぜか全く抵抗しなくてつまらなかった。こいつはエムM? というやつかも……。


 今度は、その辺に生えてる草に見立てたおもちゃで走らせてやった。

 息をあげて弱ったのか、すぐ眠りについた。明日以降もこの地獄が続くと知らずにな。へへ、明日はもっと……──



 ぺちゃ。

 


「にゃー」


 子猫の鳴き声と共に、少年は目を開く。

 

「へへー」

 

 少年は寝ぼけているのか、夢でも見ているのか、流れるようにまた眠りにつこうとしていた。そんな少年に目を覚ませとでも言いたいのか、子猫は少年の顔を舐める。ざらざらとした気持ち悪い感触が頬のあたりから感じられる。


「ん……?」


 ぺちゃ。ぺちゃ。


「あー!こんにゃろー!」


 目が覚め、状況を理解した少年は飛び起き、子猫を抱きかかえた。

 

「にゃー!」

 

 前脚を伸ばし、可愛らしい声で子猫は鳴いた。

 昨日とは違い、活発で可愛らしい鳴き声。

 そんな子猫を見て、まだ寝ぼけ眼の少年は微かに笑い、


「今日もぜったい、ぜーったいいじめてやるからな!」


 またいじわるな顔をするのだった。

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