拝啓、無責任な大人な君へ

輝波明

前編

 ある日の蒐集院しゅうしゅういん学園の漫画研究部の部室に異様な光景が広がっていた。

 両側に磁石がびっしりくっついたミニ四躯のレーンと消化器の泡でいっぱいのゴミ箱。部室の中では火災報知器の警報音が鳴っている。

「一体何事だ!」

 漫研部の顧問白石しらいし大貴だいきが飛び込んできた。

「あっ、あの…… これは………… えっと……」

 一年生の一条いちじょう美琴みことが狼狽えている。

「ゆ、夕張ゆうばり部長……」

 美琴が部長に状況を説明させようと辺りを見渡すがそこにいたのは鉄道研究部の國有くにあり哲子てつこと科学部の和戸わどあいの二人だけだった。その頃、正門から2人の3年生が走って出てきた。

「やばいやばいやばい!」

「ちょっと朝日あさひ! どこ行くのよ!」

「見りゃわかるでしょ夕子ゆうこ! 逃げてんの!」

 この2人こそ漫研部の部長夕張朝日と副部長朝来あさご夕子である。2人は学生鞄を小脇に抱えて正門南の神姫しんき電鉄でんてつ東平とうへい駅方向に向かって走り去って行った。

 翌日、当然二人は生徒指導室に呼び出された。

 学校の制服である黒ネクタイと黒いダブルボタンのブレザーに加えて銀色の3本線の入った肩章型の学年章に同じく銀色の飾緒しょくしょを着けた風紀委員長が待ち構えていた。

「君たちはなぜ呼び出されたか流石に理解しているな?」

「……昨日のリニアモーターカーの件ですか?」

 夕子は恐る恐る答えた。

「そうだ。 その件について昨日のうちに君たちの処罰について結論が出た。」

 そういうと風紀委員長は椅子から立ち上がって後ろを向き2本指を立てた。

「2週間、活動停止だ。」

 今思えば昨日の事件において本来漫研部に非はなかったのである。全ての始まりは2週間前の漫研部が主催する文化部連盟の総会であった。


「えー、これで第63回文化部連盟総会を終わります。 何か連絡事項のある代表がいれば挙手願います。」

 朝日が総会の閉会を宣言した時、哲子が手を挙げた。

「あのー、鉄道研究部と科学部から1点お願いがあるんですけど…… 今度科学系の展示会でウチと科学部合同でリニアモーターカーの模型を出すことになったんですが、今両方の部室がにスペースがなく試運転ができていないんです。 できれば部室を貸していただげると助かるんですが……」

 会場は静まり返った。軽音部やジャズ研究部、新聞部などは余分なスペースがなく茶道部や天文学同好会に至っては迂闊にそのようなものを設置すれば畳や天体望遠鏡などを傷める恐れがあったのだ。

 哲子の発言から数10秒後、朝日が口を開いた。「それならウチの部室を使ってください。ある程度のスペースなら使えますから」

 次の日から早速模型の組み立てが開始された。遠隔操作用のコントローラーやレーンに電気を流すためのコードや制御用のコンピューターが次々に持ち込まれ、わずか3日で組み立てが終了した。その後制御装置やレーンの調整にかなりの時間を要し科学部の部員は毎日下校時間ギリギリまで調整に追われていた。

 そして漫研部部室貸与の決議から2週間後リニアモーターカー本体の組み立てが完了し早速放課後に試運転が行われることになった。 

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