帰宅
@Gpokiu
エビの尻尾
エビの尻尾は、ゴキブリの羽と成分が同じらしい。
もともとエビの尻尾を食べる派ではないが、その話を聞いて、もっと食べる気がなくなった。
なんなら、エビも食べづらくなった。
しかし、なんなのだろうこの男は。
タッチパネルで、エビを注文したかと思えば、いきなり
「エビの尻尾って、ゴキブリの羽食ってるのとおんなじらしいよ。」
と言った。
そして今、目の前でエビを食べている。尻尾も一緒に。
この男は、サイコパスなのだろうか。
「何?食わないのぉ?」
この男はサイコパスだ。
食わないの?じゃないよ。お前が変な話をしたんだろう。
「あ?あぁ、エビの話?別に変な話じゃないだろ。ただ事実を言っただけだよ〜ん。」
今まで散々この男に振り回されてきたが、まさか寿司屋に来てまで、翻弄されるとは思っていなかった。
まぁ、確かに、食わないとここにきた意味がないので、とりあえずレーンから卵を取る。
「はぁ、たまごねぇ〜。」
なんなんだこの男は。
卵、美味しいからいいだろ。
「いや、美味しいかおいしくないかじゃなくてね、ちょ〜っとお子ちゃますぎるかなって。」
そう思ってるお前の方がお子ちゃまだよ。
続けて、マグロを取る。
……喋らない。
てっきり何か喋ると思っていたので、喋らないのは、逆に変な気分だ。
「……なんか言うと思った?ねぇ、思ったでしょ?」
喋らないことに、違和感を持っているのがバレたのだろう。
まぁ別に、この煽りに答える必要はない。
無視、徹底的に無視だ。
「ほらほら、なんか言えよ。このこの〜。」
一言で言うと不愉快だ。
ただ別に、寿司屋に喧嘩をしにきてるわけじゃないので、抑える。
目の前の男を無視し続けながら、イカ、納豆、軍艦を注文する。
「お〜、食うね〜。いいやんいいやん。」
この、手持ちの寿司を食べ尽くして、注文した寿司を待っている時間が、一番もどかしい。
「だよねぇ、手持ち無沙汰って感じ。」
そんなことを話していると、寿司が届く。
「それ食べ終わったら、出よっか。」
どうやらこの男はもう食べ終わっているようだ。
コイツに気を遣われるのは屈辱なので、急いで食べる。
「おうおう、そんな焦んなさんな。」
ふぅ、ごちそうさまでした。
食事を終えると、トイレに行きたくなった。
「あぁ、いってらっしゃい。」
食事終わりにトイレに行くと言う、奢られ待ちの女のようなムーブをしてしまったが、生理現象なのだから、仕方ない。
トイレから戻ると、男はまだ席に座っていた。
別に、奢られるのを期待していたわけではない。
ただ、気が利かないな、と思った。
「ああ、おかえり。じゃあいこか。」
男が席を立ち上がる。
立ち上がって、そのまま外に出ていく。
「じゃ、払っといて!」
……落ち着くんだ。こういうやつだと言うのは、わかっていた。
わかっていたことなのだ。
落ち着いて、レジに向かう。
え?支払いはもう済んでる?
「引っかかったね〜。」
もう、今後一生、コイツの言動に振り回されることはない。
今はただ、美味しかった寿司と、コイツを殴るためについている右腕に感謝。
「いって〜!何も殴ることないじゃーん。」
どうしようもなく減らず口だな。
「それが俺のチャームポイントなんでね。」
コイツの喋ることに、いちいち返しているととんでもないエネルギーを使うので、基本的に無視か、一言返事だが、今日はとことん付き合う気分だ。
「お、今日はノリいいね。今後も、その調子で頼むよ〜。」
鼻で笑う。
「え?何それ、俺なんかおもろいこと言った?」
足を止める。
「あぁ、もうついたのね。」
目を合わせる。
「お前といると、一瞬に感じるよ。」
口角を上げる。
「おいおい、顔、引き攣ってるよ。」
声が震える。
「なぁ……、また遊ぼうな。」
頷く。
「じゃあ、バイバイ。」
一歩、踏み出す。
帰ろう。
帰宅 @Gpokiu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます