3-6 蒐集倶楽部への勧誘
「おい、
「いいじゃないか、厚海」
雪平。それがこの少年の名前のようだ。雪平はじれたような声を上げる厚海に微笑を返し、それから重友に向き直ると改めて名前を名乗った。
「おれは雪平。こっちが厚海で、それから澄清と
背の高い少年、細面の少年、それから最後まで黙っていた小柄でおとなしそうな少年を順々に指差す。秋風が重友に向かって小さく会釈した。澄清も重友ににこりと笑いかけてくる。厚海だけは、渋面をつくったままだ。
「……重友です」
名乗らないわけにもいかなくなり、重友はそう自己紹介をした。
雪平はここが
「蒐集倶楽部ということは、何かを蒐集しているっていうことですよね」
「文字どおりね」
「何を集めるんですか」
「何でもいいんだ。興味のあるものなら、何でも。極端に言えば、気に入れば道端に転がっている石ころだってかまわない。それを見映えがするようにきちんとケースに入れて、日付と説明書きをつけてそこの棚に飾る」
雪平は壁際を指差す。
部屋のなかにあるのは机と椅子だけだと思っていたが、言われてよく見てみれば室内の壁際にはずらりと戸棚が並んでいた。壁と同化して見えてまるで意識していなかった。頑強で上等そうな戸棚だ。
そこに雪平が説明したように、個別にケースに入れられた蒐集品が日付と説明書きを添えて所狭しと並んでいた。相当数ある。高価そうな装飾品のようなものもあれば、まるでがらくたとしか思えないぼろ布まであった。
これらすべて、蒐集倶楽部で集めた品なのだろう。
蒐集倶楽部は雪平が立ち上げた同好会なのだという。雪平は今二年生だから、一年でこれだけの量を集めたのだ。
自分の好きなものを集めて飾る倶楽部というのは自由気儘で悪くはなさそうだ。しかしそれでも重友はすぐに倶楽部への入部を決断することはできなかった。
重友の迷いを察したのだろう。雪平はかたちのよい眉をわずかに下げ、ふっと小さく息を吐いた。
「急に勧誘されても困るよね」
「はあ、いえ、その」
「でもおれは、どうしても重友にこの倶楽部に入部してもらいたいと思ってる。それでものは提案なんだけれど、しばらくお試しで倶楽部に参加してみるというのはどうだろう。仮入部というやつだ。入部を決めるのは、それからでいい」
熱っぽい視線で見つめられ、重友はまたどぎまぎする。雪平が重友の何をそんなに気に入ったのかはわからないが、その視線を前に
「……それくらいなら」
「ありがとう。よろしく、重友」
雪平は嬉しそうに重友に右手を差しだした。重友はその手を握る。思いのほか冷えた手で、少々驚いた。
ほかの面々にも挨拶をしておくべきだろうかと考え、重友は雪平の傍に立つ厚海にも握手を求めたが、厚海はぷいと横を向いてそれを拒絶した。露骨なその態度に泣き笑いのような顔になる。
雪平以外にはあまり歓迎されていないのかもしれない。
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