私達は落ちこぼれだけど、エリートな幼馴染達に好きって言いたいし好きって言われたい!

燈外町 猶

第1話・私達はただ、私達でありたいだけなのに。

 昔はしょっちゅう手を繋いでいたのに、いつからだろう、離れている方が当たり前になっていたのは。

「美智花はさ、好きな人いるの?」

 小学校の卒業式の帰り道、そう問うた私に深い意図はない。

 会話のネタが尽きたのが寂しくて、クラスの女子がこんなんで盛り上がってたなぁと、ただ、何気なく口にした。

「ん? ……んーっとねぇ……」

 それまでテンポよく交わされていた会話にぎこちなさが生まれ、快活な彼女にしては珍しくしばらくモジモジしてから、目をそらしつつモゴモゴと——

「……いるよ。大好きな人。だけど…………内緒」

 ——美智花は泣き出しそうになりながら、そう答えた。

「そう、なんだ。……なんか雨降りそうだね」

 突然ものすごく残酷な質問をした気分になり、慌てて強引に話題を変えた私。

 たぶん、その日からだ。

 中学でも高校でも、登校中も下校中も、私達はどこか、今まで通りではいられなかった。

 確かに、ぐんぐんと成長してエリート街道を邁進する美智花に私は引け目を感じていた。劣っている私が彼女の傍にいいのか悩む日を何度も過ごした。けれど変わったのは、私だけではないはずだ。

 知りたい。美智花の気持ちを。

 私に向けてくれる笑顔は、その他大勢に向けるそれらと、同じものなのかを。


×


「岡猫コンビ、あんた達、要注意リストに入ってるから」

 終業式も終わり、いよいよ待ちに待った夏休みが始まる。

 やりたいことがあるかと言われれば微妙だが、堅苦しい学校からの開放感はたまらない。

 しかし、そんな浮かれ気分は担任からの呼び出しによって水を差されてしまった。

「「要注意リスト?」」

 私と一緒に呼び出されていた岡島沙幸さゆきと返答がハモる。

「遅刻早退数はもちろん、制服のだらしない着こなし、髪色明る過ぎるしネイルも派手過ぎ、放課後の寄り道禁止エリアで目撃情報多数、それにほら、ゴールデンウィークにバイトしたでしょ、あれでも悪目立ちしてるから」

 汐入しおいり先生は呆れながら私達の悪行——と評されるらしい行為——を列挙した。

「入学して三ヶ月でよくここまでやりたい放題できるわね。学園始まっての問題児が一学年に二人も揃っちゃって先生みんな頭抱えてるわよ」

 生徒が自主性を持って活動してるんだから諸手を挙げて喜んどけばいいのに。本当大人って面倒くさいな。

「それほどでも~」

「褒めとらんわ」

 沙幸がスマホをいじりながら何の感情も込めずに言うと、汐入先生はため息をつき、私達を交互に見ながら言い聞かせる。

「ともかく、夏休みは慎ましく過ごしなさいよ。私が庇うにも限度があるし……なにより、校則はあんた達を守るためにあるんだからね」

「「はーい」」

 先生の真摯な言葉が沁みてこないのは、もちろん納得できなかったからだ。私達を校則でがんじがらめにしているのは教師を面倒事から守るためなのではと、最近思ってしまう。きちんと論破してくれたらきっと、きちんと従うのに。

「「失礼しましたー」」

 職員室を出て、蒸し暑い廊下を歩く。肌に纏わりつく不快な湿気に苛立ちは募り、大人や世間への漠然とした不満や絶望と相まって、夏休みへの楽しい期待はすっかり消沈してしまった。

「はー……だる」

「ね。可愛い格好したらダメとかわけわからん。髪色だってみんなそれぞれでよくない? 寄り道禁止エリアってゲーセン行っただけだし、バイトもインスタでちょっとモデルやっただけじゃん。そんで要注意リストって。もっと注意することあんでしょ」

「例えば?」

「明らかエロい目で見てくるクソ教師とか」

「それなー」

 授業中も説教中でもケダモノみたいな目で私達を見てくる連中は少なからずいる。自制できない自分の弱さを私達に押し付けてくるな。自衛という言葉を都合よく振りかざすな。

 私達はただ、私達でありたいだけなのに。

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