鉱山のカナリア2

「なあ、カナリア。これ読んでくれよ」

 看守の目を盗んで近づいてきた囚人仲間がテオドールの手にくしゃくしゃの紙をねじ込んできた。

「だれがカナリアだ」

「食いぶち削って小鳥に餌をやるマヌケにお似合いだろ? 髪の色だって揃いだしよ」

「くそっ。見張ってろ」

 ここには文字が読めるような人間はほぼいない。来ても水が合わずにすぐに責め殺される。

 だがうまく暴力的な男達に合わせることさえできれば、こうやって重宝される。

 皮肉にもここに送られる前日にエリアスからうけた助言や、苦しかった赤狼団での雑用が、彼をここの異分子にしなかった。

 しゃがみこんだテオドールは、カンテラを地面において暗い中で矯めつ眇めつしながら手紙を一読し、歯の抜けた顔で笑う囚人仲間に突き返した。

「看守のゴミ箱から漁ってきたのか」

「どうだ? 良い事書いてあったか?」

 期待に満ちた顔をする男に親指を立てて見せ、周りにいる他の囚人達をハンドサインで呼ぶ。

 看守の目を盗んで寄ってきた同班の皆にテオドールは咳払いをしてみせた。

「もったいぶるなよ。学者さま」

 せっつかれて自分ほどではないが古参にあたる男達にいいニュースを伝えてやる。

「慈悲深い陛下から、今晩ここにいる全員に肉と酒を振る舞われるそうだ」

「そりゃ、いいニュースだ」

「ついてるな。他の班の奴らより早く並べりゃデカい肉が食える」

「なんでだ?」

「また子供が産まれたんだと」

「おいおい何人目だ?」

「よっぽど具合がいいんだろうよ」

「恩赦もあるかもしんねぇな」

 誰かの発したはしゃいだ言葉にテオドールの顔は苦く歪んだ。

 この十二年、新王の即位に結婚、子供の誕生など、この短期間に重なった慶事への寿ぎとして出された恩赦で、この地獄の釜から抜け出た者は多い。

 だがテオドールにそれが与えられる事は当然なかった。



⬛︎⬛︎⬛︎

短め更新で申し訳ありません。普段ならばもう少し多めに更新するのですが、12日間毎日更新のために少なめの更新となっています。

カクヨムコンに以下出展中です。お読みいただき星で応援いただけるとありがたいです。


欲望ダダ漏れの理由はこちら

肉エッセイ

https://kakuyomu.jp/works/822139841917695879/episodes/822139841917908408


リアムの息子が主人公の短編。リアムも出るよ。

モブ王子のミシェラングルメガイド

https://kakuyomu.jp/works/822139841745717466


昔書いた小説の改稿前と改稿後、それを作例に手作業修正のやり方を書きました。創作論で週刊ランキング1位いただいています。

リトルキング新旧+創作論(コレクション)

https://kakuyomu.jp/users/olizet/collections/822139840634761091




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