鉱山のカナリア1

 鉱山で道行を共にするカナリアの囀りは、ただひたすら辛いだけで変わり映えのしない日々の小さな癒しだった。

「ほら、今日の分だ」

 男はどのカナリアにたいしても同じ名をつけ、毎日自分のパンを分け与えていた。

 だが、代替わりして日の浅い新顔はいまだ懐いてはくれない。

 胸の痛みと共によく懐いてくれた先代を思い出していると、新顔は鳥籠に入れた小さなパンのかけらの周りを警戒するように飛び跳ねた後につつき、ピピッと愛らしい囀りをあげた。

 その無邪気な様子を見つめて唇を歪めた男は首元に巻いたボロ布を鼻まで引き上げて顔の半分を覆い、今日の作業を始める。

 看守の目を避けて地に顔を伏せ、煤と埃で肌を黒く染めてただひたすら地中深くに潜って鉱脈を掘り進め、重い原石をトロッコに乗せて運び出す。


 二四六〇一番。


 メルシア連合王国において死刑の次に重い重犯罪者の送られる鉱山に送られ、この番号を焼きつけられて十二年。

 かつてテオドールという名で呼ばれていたが、今、その名で呼ばれる事はない。

 看守から番号で呼ばれ、囚人仲間からはあだ名で呼ばれ、過去の栄光からははるかに遠い南溟の山奥で彼は自分の犯した罪を贖う毎日を過ごしている。

 死を考えるほどの辛い毎日でも、それを選ぶ勇気を出すことも出来なかった。

 本来ならば輝きに満ちていたはずの十代後半から二十代全てを穴掘りだけですり潰し、三十の誕生日をなんとか越えた。

 だが四十は難しいだろうと、過酷な環境で弱った眼や痛む肺が告げていた。



肉が欲しくてカクヨムコン11に再挑戦します。2週間毎日更新チャレンジです。自信はない/(^o^)\文字数少ないのはお許しください。


リアムの子供の話です。こちらは短編に入れています。併せて応援いただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/822139841745717466

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