目に見えるものがそのままだとは限らない(レジーナ視点)
閉まる寸前の時間にレジーナは食堂に駆け込んだ。
食堂が開くなり食事をとっているソフィアにも、人の多い時間に食事をしているアネットとも顔を合わせづらく、かといって行かなければアレックスに報告されてしまうからだ。
ソフィアはもとより、リアムが飾り紐をユルゲンに渡してからなんとなくギクシャクしていたアネットとの関係は、レジーナが学生会を辞めてしまったせいでさらに気まずくなった。
アネットはそれでも授業の時は声をかけてくれたが、彼女の友人達にそれを断って欲しいと陰で頭を下げられた。
レジーナと付き合いがあるせいで、反感がある貴族とつきあいが難しくなっている。
アネットは説得できなかったので、申し訳ないが、落ち着くまでしばらくはレジーナの方から断ってもらえないかと必死に頭を下げられたら頷くしかない。
そうしているうちに、教師達やレジーナの味方になりそうな人間の耳に入らないように、狡猾に静かに自分の悪評は拡大した。
王女の立場と教師の指導の賜物か、あからさまに虐められることだけはないものの、生徒達に遠巻きにされて孤立が深まって、気がつけば話しかけてくるのは、謝肉祭の時に引き合わされたノーザンバラ帝国の手先、マルファだけになった。
「ねえ、なんで学生会辞めちゃったわけ?」
「………」
今日も今日とて、普段なら人がまばらなこの時間、マルファはしっかりとそこにいた。
他の生徒から少し離れたテーブルで食事を取るレジーナにわざわざ近づいて不躾に接してくるマルファを睨みつけて、元々食欲がなくほとんど手をつけていなかった食事のトレイを持って立ち上がった。
「レジーナ殿下、見た目が気に入らないからと言って、手もつけずに残すのは作ってくれた方に失礼じゃないですか?」
聞こえよがしな大声を出したマルファの声に、他の生徒の視線が刺さる。
「体調が、よくないの」
「そんなに急に体調が悪くなるなんて。あっ、私みたいな下級貴族が讒言したらご不快ですし、体調も悪くなるってことですか……」
一転、皆に聞こえるか聞こえないかの声で、ショックを受けたかのように俯いて涙を落とす。嘘泣きでも本当に泣いているのだ。
耳を側立たせて探られていたのだろう。非難めいた視線が強くなったと感じて、レジーナはいたたまれなくなった。
「ちがうわ。それは誤解よ」
「誤解なら、お友達として仲良くしてくれますよね」
亡母の親族というのは本当なのだろう。
害意のなさそうな可愛らしい顔に、桃色に見えるふわふわのストロベリーブロンドの少女は薄ぼんやりとしか記憶に残っていない母の顔に似ている気がする。
その姿は小動物めいて庇護欲をそそり、涙をこらえてみせる笑みは邪気がないように見える。
どう見ても自分が悪役だ。
これ以上注目されたくなくて、ぐっと唇を噛み締めて椅子に座りなおすと、レジーナは目の前の少女と対峙した。
「やーっと座った。学生会は特別ガードが硬くてほとんど探れないのよね。あんたが戻って情報をあつめつつ、ついでに私も役員になれるように紹介してくんない? 二年生は少ないから上手く潜り込めると思うの」
表情はなごやかで、まるで仲のいい友達同士が雑談しているように見えているのだろう。
もしくは頑なで性格の悪い悪役令嬢とそれに健気に声をかける優しい少女か。
「……無理よ。喧嘩別れしたの。もう戻れないわ」
「頼み込みなさい。リアム殿下って、下々にもやさしい、お人好しのお坊ちゃんみたいじゃないの。妹のあんたが殊勝な顔して謝れば許してくれるわよ」
「……自分から辞めさせてくれと頼んだのよ。テオとのこともあるから無理だわ」
「その
握り込んだ爪が手のひらを傷つける。
自分が駒として動かなければテオドールを死ぬよりも辛い目にあわせると脅されている。
いまだに過去に苦しんでいるアレックスの虚ろな瞳にテオドールの未来を重ねてレジーナはおののいた。
※家人が緊急入院したため、更新頻度がゆっくりになります。詳しくは近況ノートをお読みください。申し訳ありません。
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