死者の影は少年を苛立たさせる(テオドール視点)
程なくしてキュステ公爵付きの王宮侍女が一着のドレスを持ってやってきた。
勿忘草色の絹地に丁寧な仕事の水色の紗を合わせた愛らしいドレスで、それを確認した父は母に言った。
「令嬢の服のサイズの記録が王宮に残っていてよかった。命じた通り、持ち出し記録は残していないね? 今日持ってきたアクセサリーの中にフェアフェルデから献上されたものはあるか?」
「ええ。いくつかは。いつも伯爵夫人は素敵なアクセサリーをプレゼントしてくださっていましたわ」
「全部持ってきてくれ」
すぐに侍女がジュエリーケースを持ってきてフェアフェルデ伯爵夫人からプレゼントされた物を並べ始める。
「そうだな。この燻金とアクアマリンの物ならば近い色味だろう。ちょうどよかった。ドレスと合わせてヴォラシア公の所にエミーリエの恋人からだと言って持って行って、メッサーシュミット令嬢に着付けをしてきてくれ。向こうがうちの名を出しても、お前は決してうちの名を口にしてはいけない。そして今着ている服は仕事の証拠品にすると言って必ず引き取ってきなさい。いいね」
父が選んだ耳飾りと首飾りはつい最近贈られ、母が喜んでいた物のはずだ。
「母上、いいのですか?」
「もちろんです。あれで済むのなら安いものです……なんなら全部押し付けたいぐらい」
気に入っていた物だったはずなのにまるでゴミでも見るように母はそれを一瞥すると、侍女に取り急ぎタウンハウスに持ち帰るように伝えた。
「いったい何が……?」
「フェアフェルデは取り潰されるだろう。運が良ければ降爵で済むかもしれないが」
言葉少なく予想する父に、テオドールはこのネックレスも、先程侍女がエミーリエに持っていったドレスの色もルドルフの薄水色の瞳やくすんだ金髪と同じ色味だと気がついた。
そのおかげで唯一引っ掛かっていた事に解決が見えて肩の力が抜ける。
「テオドール、先程も言ったが今回の件はお前の失態だ。原因は分かっているね? 真摯に反省しなさい。私生活が乱れている事も報告を受けている。全ては同じ根から発している。己の心持ちを見直して勉学に励み、エリアスのように皆に愛されて尊敬される人になりなさい」
その心根を見透かしたように、父から声がかかってテオドールは気色ばんだ。
父に限らず、大人は皆、自分にエリアス王子の面影を見てきて鬱陶しい限りだ。
残した功績から彼が有能な人物だった事は分かるし、自分に顔が似ているというのであれば見た目も優れていたのだろうが、会ったこともない自分が産まれる前に死んだ人物に重ね合わせられたくはない。
だが、今回は父に相当な迷惑がかかったと分かるだけにテオドールは反発せずに表面上はその言葉を受け入れた。
「おっしゃる通りです。ご迷惑をおかけした事を心苦しく思っていますし、生活も改めます」
「ならばいいんだ。王族というのは貴族以上に責務を負い、民のみならず貴族達を導かなくてはいけない。それを忘れてはいけないよ」
父はテオドールの上辺だけの謝罪に鷹揚に頷き、懐の懐中時計で時間を確認した。
「さて、そろそろ支度を始めよう。しっかりと威儀を正して発表を聞かなければならないからね」
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