難航(テオドール視点)

「ディクソン商会も駄目です」


 自分が会長に繰り上がった影響で学生会の副会長になった侯爵令息が持ってきた報告に、テオドールは低く問い返した。


「公爵家の名前を使ってもか?」


「使いましたよ。ですが、縫製の大量発注は受けられないそうです」


「くそっ! 潰れかけたのを父上に救われたのに恩知らずな奴らめ」


「海運が本業で、輸入した東方の絹や宝石の加工のための小規模工房しか持っていないため、生徒百人以上の衣装を二ヶ月で作るのは物理的に無理、とのことでした」


 物理的に無理と言われてしまえば、さすがにゴリ押しはできない。


「後は新興の商会か……」


「学生のドレスコードを制服にしてもらうように王宮に掛け合えませんか?」


 暗い顔で書き物をしていた生徒会書記である子爵令息の顔を上げての提案をテオドールは鼻で笑った。

 彼は受験組の下位貴族で、なにも分かっていない。

 リアムが連れてきた役員で切りたいのは山々なのだが書類作成や帳簿計算が早く正確で便利なので今年度も置いてやっている。

 ただの雑用なのに、こうしてたまに身の程知らずな発言をする。


「は? 王宮の夜会にこの見窄らしい格好で参加しろと? これは作業着みたいな物だろう?」


「テオドール殿下のようにご自身で用意できる方は、夜会服でよろしいかと思います。用意できない生徒についての話です。もちろんこのままというわけにはいきませんが、例えばシャツだけ、フリルをあしらったドレスシャツを購入するならどうですか? ドレスシャツなら既製品で売っていますから必要数を一括購入すれば、オーダーよりも安く済みますし、シャツが華やかであれば見栄えがいいです。可能であれば胴衣を揃いのデザインで追加すればフォーマル感が増します。その程度ならば、どの生徒にも負担が少ないですし、学生会費から奨学生に補助を降ろしても余裕で賄える程度の金額で済みます」


 書記の発言に、副会長も自分と同じように引っ掛かりを覚えたらしい。


「王宮の格式を馬鹿にしているのか! 作業着に毛が生えた程度の服で王宮の夜会をうろつかれたら、我が国の恥だ」


 テオドールと副会長の顔を見て、書記の子爵令息は小さく息を吐いて、別の提案をしてきた。


「では、王宮の担当者に連絡して、仕立て屋なり、王宮付きの針子を派遣してもらうのは……」


 その言葉にテオドールは感情を逆撫でされた。


「僕が王に任された仕事だぞ! 王宮の文官に手柄を掻っ攫われてたまるか!」


 苛立ちのまま刺々しく返して、テオドールは頭を抱えながらも、その部屋にいる二人に命令する。


「お前ら二人とも貴族向けの仕立て屋や商会に声をかけまくれ。付き合いがないところでも構わない」


 ばたばたと走り去る彼らを見送り、その時にふと思い出した。晩餐の時にリベルタの元総督がリベルタの商会がこちらで営業をはじめたというようなことを話していたことを。

 新興の商会であれば公爵家の令息である自分の誘いを断らないのではないか。

 そう考えたテオドールはリベルタ元総督の出身国であるルブガンド公爵に手紙をしたためた。

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