通い妻と同棲彼女
◯◯ちゃん
2人の結婚生活
生まれて32年、大体のことは要領を得て上手くやってきたと思う。
きっとこうなるから、今のうちにああしておこうなんて風に、予想を立てて行動してきた。
外れたことの方が少ない。
なのに、なのに。
これが青天の霹靂というやつか。
夫の
3年目の浮気くらい大目に見ろよ、なんて歌もあるが時代は令和だ。
浮気でもない、突然のYouTuberになる宣言。どう受け止めろというのだ。
「おーい、
夫の声で我に返った。
「最近してるオンラインゲームあるだろう?あれで仲良くなって結婚した女の子がいてさ。その子、インフルエンサー?なんだって。で、その子に一緒にYouTubeやらないかって誘われてさ」
「けっ、結婚……?」
もう何がなんだかわからない。
大好物なはずの、彼の作るしらすパスタも喉を通らない。
フォークを置き、パスタに浮かぶ大葉を眺めながらひと言放って、自室にこもった。
「日本では重婚は認められていません!」
まずい、一睡もできなかった。
商談が上手くまとまらなかった夜も、結婚を考えていた彼にフラれた夜も、想定外のことが起きた夜でも眠れることが私の長所だったのに。
自室を出ると、キッチンには凝った朝ごはんにラップがかけられていた。
レンジでチンしてありがたくいただく。
食べながら昨夜のことを思い返す。
私と婚姻関係にありながら、よそでも結婚をしているっていうのはどういうことだろう。
事実婚?内縁の夫というやつだろうか。
そもそも、相手の女性は私の存在を知っているのだろうか。
朝食をやっとの思いで平らげ、意を決して彼の自室の扉をノックしようとしたそのとき、微かに話し声がした。
誰かと話していることは分かるが、さすがに内容までは聞こえない。
内縁の妻(仮)さんだったらどうしようと、手はノックをする形のまま固まってしまっている。
こんなことは初めてだ。
彼に女性の影がちらついたことは一度もない。
私の勘が鈍いだけかもしれないが、彼は誠実で不器用な人だ。
私が繫忙期でろくに食事も摂れない時期は、軽くつまめるひと口サイズのサンドウィッチを用意してくれていたり、後輩の育成に頭を悩ませていたときには、私の大好きな昔ながらの固めのプリンを冷蔵庫にそっと入れておいてくれたり。
そういうことができる優しい人なのだ。
お互いに心地良く生活できていると思っていた。
彼は私に尽くしてくれている。そうしたいと思えるくらいには、私も彼に何かしらを提供できていると思っていた。
だからこそ、彼の口から「好きな人がいる」でもなく、いきなり"結婚"というフレーズが出てきたのが衝撃だった。
しばらく部屋の前で呆然としていると、突然扉が開いた。
「わっ」
出てきた彼は驚きの声をあげた。
驚いていたのはほんの一瞬で、何事もなかったかのように続けた。
「何してるのそんなところで。まあいいや、今少しいい?」
そう言って差し出された右手にはスマートフォン。
「ひなが沙英香と話したいんだって」
私は眉ひとつ動かさず、スマートフォンを受け取った。
「はい、お電話代わりました、祐二の妻です」
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