第17話

イラストリアスに帰艦しアルテミューナから降ります。降りて初めて気付きましたがアルテミューナは純白の機体です。それが全体的にグレーになる程汚れてしまっている。そして演習とは言え、叩きつけれたり、蹴りをしているので凹みや傷も目立ちます。

「ちょっと派手にやり過ぎたかなぁ…」

怒られはしないだろうが修理費が高くつきそうです。私がそう思っていると、いつの間にかアヤがいました。

「ヴァンテージさん、お疲れ様です。ヴァンテージさんなら勝つと信じていました」

「ありがと、アヤ」

私はアヤと一緒に艦内を歩き、必要な物を確認していきます。

「随分多いね」

「ブルーフォレスト基地が突然襲撃受けて十分に補充が出来ないまま活動していましたから」

「そうだったのね。あと、これ、全部通るか分からないけど、一応請求してみるね」

私は今までリーダー等をやったことがないのでこれで合ってるか分からないが、アヤがサポートしてくれているので何ら問題無く行けている、はずです。

しかし、私は今、迷っている事があります。それはウィンダム一隻で行くか、イラストリアスも使うかです。

ウィンダム一隻で行くとコストは低いが、戦力としては低下、イラストリアスも使うとなると、戦力は多くなるが物資の消費が多くなる。ウィンダムが失った機体と人員を補充するのかはまだ分かりませんが、イレアの援護射撃は強力だ。イラストリアスのクルーを鍛えてイレア以上は厳しいが、少し劣る位には出来そうかな。そもそも、ラストフィート姉妹が規格外なだけで軽く援護射撃出来れば良いかと思う。そうなるとイラストリアスメインでウィンダムは必要に応じて行動した方が効率は良いでしょう。幸い、イラストリアスは大きいのでウィンダムを格納庫してもスペースには余裕があります。ラストフィート姉妹には普段はイラストリアスのブリッジに居て貰って、ウィンダムが必要な時に移動してもらう用、お願いしましょう。考えが纏まるとヴァルカン艦長とアブレイズに提案しに行きます。

私とアヤは艦を降りて、アブレイズに補給とその事を相談しに行きます。そして以前入った部屋で再び、アブレイズと対峙しました。

「ウィンダムと一緒に行動するんだね。良いんじゃない?じぃには僕から言っておくよ。それより…」

「ありがとうございます!私はこれで!」

アブレイズが何か言ったようだが、私は早々に繰り上げこれで安心して、アルグの穏健派から支援が受けられるようになりました。次は物資の補給とやることがいっぱい。

「指揮官って大変ね」

前世は学生だったし、ウィンダムではヴァルカンやラストフィート姉妹がやっていたので自分で一通りやるのは大変です。

さらにイラストリアスはウィンダムより、3倍以上の人数がいるので足りない物を把握するのも一苦労します。

「ウィンダムみたいにブリッジクルーに分担すればいいのか」

そうすれば少しは、負担が軽減できると思ったので今度の会議で提案してみましょう。

そしてまもなくしてイラストリアスに物資が運び込まれる。私はイラストリアスの物資搬入出入口で指示を出しつつ、搬入される物を確認していると、雛子がやってきました。

「お姉様、お疲れ様です!」

「雛子、お疲れ様。部屋は整理した?」

「はい!」

ウィンダムが、必要に応じて動く、輸送機兼戦闘機になったのでウィンダムのクルーはイラストリアスに移動となっています。その為、雛子は私の部屋の隣に私物を運び込んでいた。

今はそれが終わってここにやって来たのでしょう。雛子は一応、フィオレンティーナのサブパイロットと言う扱いなのでイラストリアスの所属は当然と言えば当然ですが。

尚、イラストリアスは新たな人員と機体が補充されたと、ヴァルカン艦長から連絡がありました。

近いうちにパイロット全員で演習を提案してみるのもいいかもしれません。

「ヴァンテージさん、そろそろユイットさんの面会しに行く時間です」

「あ、うん、分かった」

そう言うと自分の服装を確認します。今、私はアルグの制服を着用してい。ます。

「えーっと、このままでもいっか」

ケイは現在、病院で入院中であり、先程、容態が安定したようです。

「それじゃ、雛子とイマさんを連れて行こっか」

自室にいた雛子とイマを連れてミューンズブリッジ基地の病院へ行きます。

受付を済ましてケイがいる病室へ向かい、中に入るとそこには以前と変わらず、上体を起こした元気なケイがいました。

「ケイさん、元気そうね」

「おう!皆も元気そうだな!」

見た感じ、どこも不自由が無いように見えます。

「ケイ、体調はよさそうね」

「あぁ。だが、イマ、両足を失ってしまったからもう、アルマスには乗れない…すまないな」

ケイは布団を捲って見せてくれました。そこには、右足は付け根から、左足は膝から無くなっていました。

「そう、でも、簡単に諦めるの?」

「だが!」

「義足でも操縦できるようすればいいのよ」

「イマ…」

「しっかりリハビリするのよ、ケイ」

「あぁ!待ってろよ!イマ!」

二人は拳を付き合わせました。その後も、会話をし、時間になったので帰ります。

「じゃあ、ケイさん、私達は帰るね」

「あぁ!また来いよ!」

病院を出て、イラストリアスへ帰ります。イラストリアスはまだ物質を搬入中でした。

「ケイさん、元気そうでよかったです」

「えぇ、そうね」

雛子と会話しつつも私は一つの疑問がありました。それは敵機とは言え、人を殺しても何も思わない所です。

前世の私はただの学生だったので当たり前だが殺人なんてしたことなんてありません。

てか、そんな事したら、私はこんな穏やかな性格じゃないでしょう。今の身体が軍人の由華音だから、そう言う感情が無いのか分からないが、今の私にとっては好都合。罪悪感が残らないので、皆を守れる事が出来ます。

しかし、何かの反動で感情が溢れだしたら私の精神が持たないでしょう。そうならないよう気を付けなければなりません。私としてはこのまま平和に過ごせれば何ら問題ないのだが、アルグが穏健派と過激派が争っている今、穏便に行かないでしょう。

「お姉様?」

「ん?」

「お姉様、何か考え事ですかね?」

「あー、うん、そんな所ね。それで何か用かしら?」

「いえ、突然黙ってしまったので、どうしたのかなって」

「私は大丈夫よ」

私はそう言って雛子の頭を撫でます。雛子は嬉しそうな顔をするので、私はついつい見てしまう。私はこの顔を見れただけでも満足だ。

「ヴァンテージさん、取り込み中すみません、物資搬入が終わりました」

「わぁぁ!あ、アヤ。ほ、報告ありがと」

私は慌てて撫でるのを止めてアヤから報告書を受けとります。その時、アヤの顔見ると相変わらず無表情ですが、何だか誉めて欲しそうな感じがしたので私は自然と手が動き、アヤの頭を撫でる。

「あ…」

「あ、ごめん、アヤ」

私は慌てて手を引っ込めます。

「いえ、大丈夫です」

アヤはそう言うと踵返して何処かへと向かっていった。

「あー、怒らせちゃったかなぁ?」

「大丈夫ですよ、お姉様。きっと照れ隠しです」

「雛子がそう言うなら、そう信じとこうかな。さて、搬入も終わったし、部屋に戻ろっか」

「はい!お姉様」

私と雛子はイラストリアスの自室へと向かうのでした。

次の日。

「んぅ…もう朝?」

遠くでアラームが鳴っています。私は身体を起こすと目の前で雛子が寝ていました。

「そうだ、雛子と遊んでいたら寝ちゃったんだっけ」

私達は知らずに机で寝てしまったようです。私の部屋には机は2個あり、1つはパソコンなど置いている事務用、もう1つは来客用の低い机。私と雛子は来客用の机で折り紙をしつつ、会話していたら寝落ちしてしまったようです。

「今のうちに着替えちゃお」

言うが早く、着替えて雛子を起こします。

「雛子、起きて、朝だよ」

「んぅ?お姉様?あれ、私…」

少々寝惚けている雛子が可愛いので見つめます。

「可愛いなぁ、雛子は」

私がそう思っていると唐突ノックの音がしました。

「ヴァンテージさん、朝です。起きてますか?」

「わぁ!あ、アヤ?!起きてるよ!あっ!やば!」

「え、あ!お姉様!?」

慌てて立ち上がったせいでバランスを崩し、机に足を引っかけて倒れてしまった。

「ヴァンテージさん!大丈夫ですか!開けますよ!」

大きな音に驚いたのでしょう、アヤが扉を開けて中に入ってきます。私は向かいに居た雛子を押し倒す形となってしまった。しかも寝起きの雛子は服装が少し乱れていて、私の左手は雛子の胸部に乗っている上に、雛子は恍惚な表情をしています。アヤはその光景を見るなり、静かに後退していきます。

「…えっと、お取り込み中…でしたね。申し訳ありませんでした。私にお構い無くどうぞ」

アヤはそう言って部屋を出て、扉をゆっくり閉めていく。アヤが出てって我に返った私は咄嗟に起き上がってアヤを追いかける。

「待ってアヤ!誤解だよ!」

私は通路に出たが、既にアヤは姿を消していた。

「あぁぁ…」

私は通路の真ん中で項垂れる。そこへ着替えた雛子がやって来ます。

「お、お姉様、私は、その、悪い気はしなかったです」

雛子が顔を赤らめて言うから周囲に更に誤解を生みそうだが幸い、周囲には誰も居なかった。私は安堵し、雛子の頭を撫でます。

「はぁ、よかった。雛子、朝食に行こ」

「はい!」

私と雛子は食堂へ向かう。以前はイラストリアス艦内で迷ったが今はアヤが書いてくれた地図のお陰で迷う事無くたどり着きます。食堂に入り、食事を受け取って空いている席に座ると対面にアヤが座っていました。

「あ、ヴァンテージさん、おはようございます」

「お、おはよう、アヤ」

朝の出来事でアヤとは少々気まずい。見たところ、アヤは気にしていない様に見えるが、性格的に考えると忘れられないだろう。しかし、ここで言うのも恥ずかしいので二人っきりの時に誤解を解いておきましょう。

「えーっと、アヤ、今日の予定は?」

「はい、今日はヴァルカン艦長と会談後、イラストリアスの全員での訓練があります」

「訓練?私、そんな約束したっけ?」

「アブレイズ大将から連絡がありイマさんも了承しているとの事です」

「あー、そう言う事ね」

私は今、通信端末を持っていないので私に用がある場合、アヤに言うか私に直接言うしかない。

「分かったわ」

朝食を終え、私と雛子とアヤは格納庫へと向かう。

イラストリアスはアルグにより、ブリッジクルーとパイロットの増員されている。

ブリッジの方はラストフィート姉妹とアヤが担当するので私は機動兵器をイマと担当します。

フィオレンティーナはまだ最終調整が終わっていないので私はアルテミューナに乗り込み、甲板へ出ます。そして、全て機体が集まりました。

「えーっと皆集まったかな?」

総勢、55機が揃いました。アヤの乗っている偵察機以外は出てます。つまり、イラストリアスとウィンダムにある全機にパイロットが補充されました。

「人数多いし、部隊を2つに分けよっか。それじゃあ、誰かチームリーダーを…」

[由華音、私がやるわ]

「ありがとうございます、イマさん」

イマが名乗り上げました。

部隊は私とイマで部隊を分けます。

「副隊長は…ボーセルさんにしましょうか。ボーセルさん、いいですか?」

[おう!了解だ!]

[由華音、こっちは準備いいわよ。そうだ、紹介するわ。私の副官を担当するフェルディルト・ナルシェよ]

[は、はじめまして!ご紹介にありましたフェルディルト・ナルシェです!フェルと気軽に呼んでください!]

「由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージよ。よろしく」

声だけを聞くと新米っぽい明るいイメージの少女みたいですが、イマが副官にするあたり、相当な実力者なのでしょう。しかし、アルグは女性クルーやパイロットが多い気がします。対するイラストリアスに関しては2割しかいません。女性クルーの多くはイラストリアス内部の家事全般の他、ブリッジの一部を担当しています。なら、今度の会議の時、皆にやりたい担当を聞いてみようと私は考えますが、それより今は演習に集中です。

[それじゃあ、由華音、始めましょ]

「はい!」

私の部隊とイマの部隊で模擬戦することになり、結果は私の部隊が僅かな差で勝利した。

私は機体性能あるため、主に指示を出していた。他にもエストがちゃっかり私の方に混じってたのも勝因の一つです。サリナが理解してなかったって言うのもありますが、ミナもうっかりしていたようです。

ラツィオの機体は、アルマスとは違い、機体名の通り、それぞれに特化しています。なのでパイロットが得意な機体を選ぶので個々の戦闘力が高い。その反面、苦手な距離では無力化してしまうので、基本は3機で組む事が定番です。

対してアルマスは遠近出来るので、単機でも運用可能ですが、ラツィオの特化してる機体と比べると、性能が劣ります。なので複数で行動するのが基本です。

[やるじゃない、由華音]

「僅差じゃないですか、イマさん」

私は機体を降りて既に降りているイマさんの元へ向かいます。傍らに見慣れない金髪の少女がいる。彼女がおそらくフェルでしょう。

「ヴァンテージさん!ナルシェです!実際に会うのは初めてですね!」

「こんにちは、フェルちゃん」

ナルシェが手を出してきたので握手します。

「フェル、若いけど実力は確かよ」

確かに、エスト相手に複数とは言え、互角に戦っていました。

「期待していいんだね?」

「えぇ」

暫く会話をした後、私は気晴らしにとイマとフェルに別れを告げて一人で基地内の港を歩きます。そして、海風を受けながら夕陽を見ました。

「んー、一人は久し振りかも」

今までは雛子やアヤが一緒だったが二人共今はイラストリアスでお留守番してるはず。

「そう言えば、この後どうなったっけ?」

確かゲーム内のストーリーではラツィオの支配から解放された国が次第に増大化していき、戦争を起こすのでそれをアルグが鎮圧していくが終盤にて疲弊し、最終的には新たに各国の政府が資金等を出した治安維持部隊に吸収されてアルグは消滅した記憶がある。勿論、由華音は前大戦時に戦死しているので関わらないのだが…。

「あれ?そう言えばゲームではアルグ内の内部抗争は無かったはず…」

そもそも由華音が生きている時点でゲーム内歴史は正常に辿っていない。それを考えると既にイレギュラーだらけなので今さら驚かないが。

「ヴァンテージさんですね?」

「はい、そうですが」

ふと、声を掛けられ、振り向くと、突然、頭部に強い衝撃を受け、意識を失う。

「あぅ!」

そして次に、気がついた時には、私は椅子に座らされて、両手を後ろに縛られ、両足も縛られていた。

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