第14話
「大佐、お待ちしていました。インテンス大尉も。……お連れ様の方もご足労頂き、ありがとうございます」
次の日、イラストリアスがミューンズブリッジ基地に着くまでの間、私達はフィオレンティーナの進展状況を見に来ました。
一瞬、シャウラが何か言いそうになったが、特に気にしないで行こう。多分、イマに見とれていたのかアルグの関係者がいたので驚いたかのどちらかでしょう。
「フィオの改造は何処まで進んでる?」
「はい、50%程です」
シャウラに案内され、格納庫内を歩きます。
大型空母と言うだけにイラストリアスの格納庫も広く、機動兵器以外の兵器も沢山あります。
「大佐、こちらです」
シャウラが案内した所にあったのは、外見は殆ど変わらないフィオレンティーナがあります。
「見た感じは何も変わってないんだね」
「アルグの方の修理が完璧でしたから。ですが、ソフトウェアの方は出来る人がいなかったのか、手付かずでした。大佐、機体動かしにくくなかったですか?」
「そう言われればそうかも」
「原因はソフトウェアに問題ありました」
「成る程ね、直せるの?」
「可能です。それで大佐、ご相談なんですがせっかく改良するので、武装と装甲の色はどうしましょうか?」
「色?んー」
前のフィオレンティーナはダークブルーだったが、それは由華音が好きな色だった。折角色を変えれるなら今の私の好きな色にしてしまえばいい。
「じゃあ、ダークレッドで」
「かしこまりました、武装はどうします?」
「そうね…」
私は少し考えます。フィオレンティーナはジェネレータ出力の割には高火力の武装が少ない。その分、機動力に使えるのだがそれでも半分近くもて余している。
「えっとね、後でも良いかな?私なりのプランを出したいのけれど」
「かしこまりました、では、進めるだけ進めておきます」
「ありがと、シャウラ」
フィオレンティーナの状況が分かった所でイマは用があるからとウィンダムへ戻っていきました。私はアヤに案内された部屋へ入る。
「ここが、ヴァンテールさんの専用の部屋となります」
「あ、ありがと」
ウィンダムでは雛子と相部屋だったがここでは個室のようだ。しかもアーク・ロイヤル並に広い。
「はい、ここは指揮官専用の部屋となります」
「ありがと。そう言えば、ラマース艦長は?」
「殉職しています」
アヤのその言葉でアーク・ロイヤルと運命を共にしたのが理解できた。
「そっか、ラマース艦長、良い人だったな」
ラマース艦長、自分の方が階級が下と言うだけで年下の私の命令を忠実に聞いてくれたっけ。
「えぇ、惜しい人を亡くしました。ですが、ダンフリーズ艦長も出来る人なので問題はありません」
「いや、そう言う問題では…」
アヤは効率重視なので、誰が戦死しようと、一切顔に出なかったので感情が無いのかと思ってたが久し振りに会った時や敵になった時、激高してたりしてるので感情が無い訳では無い。無関心なだけで。
「ところでアヤ、前の指揮官は誰だったの?」
私が来る前まで誰が指揮官が居ただろうし。
「引き継ぎでしょうか?それなら問題ありません。前の指揮官は私ですから」
「え?アヤが?」
採用時から優秀だとは思っていたが皆をまとめる程の腕があったとは、意外でした。
「はい、ヴァンテージさんの側近でしたので私がヴァンテージさんが来るまでやる事になりました。極端に言えば出来る人が他にいないと言うのもありますが」
「そ、そうなのね」
アヤもただの成り行きでやっていたのに文句一つ言わない辺り、私が戻ってくると信じていたのだろうか。それはそれで嬉しいが、何だか複雑だ。
「それでは、私は隣の部屋にいますので何かあったら内線でお呼びください」
「あ、うん、分かった」
アヤはそう言うと部屋を出て行く。さすがにプライベートの空間は守るようだ。
私はフィオレンティーナのプランを考える為に机にあるPCを使う事にしました。初めて見るがこの体が使い方を覚えているらしく、そして何の迷い無く、電源を入れるとプランを黙々と作り始めます。
数時間後。
「っ!私、寝てた?」
いつの間にか寝ていたのか私は机に伏せていました。部屋の気温が快適なのと、椅子の座り心地が良すぎたのが原因だろうと、勝手に解釈します。
フィオレンティーナの改良プランはほぼ出来ていたので問題無いでしょう。後はこれをシャウラの端末に送っておけば問題ない。
身体を起こすと背中から毛布が肩から落ちる。恐らく様子を見に来たアヤが毛布を掛けてくれたのでしょう。私はアヤに感謝しつつ、飲み物を取りに行こうと部屋を出て気付く。
「あれ?どっちだっけ?」
まだ覚えきれていないイラストリアスの艦内を見渡すが右も左も似たような通路である為、何処に何があるか把握していません。
私は仕方なく自室に戻り内線でアヤを呼び出すとすぐにやってきました。
「お呼びでしょうか?ヴァンテージさん」
「うん、あのねアヤ、お茶が欲しいの」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
そう言うとアヤは部屋を出て行きます。暫く待つとアヤが湯呑みにお茶を持ってきて机に置きました。この艦に湯呑みがあるのは誰かの趣味だろうか。だとしたらなかなかセンスある人だと思います。
「ヴァンテージさん、お持ちいたしました」
「ありがと」
私は持ってきてくれたお茶を啜るとアヤから今後の予定を聞かれます。
「私が指揮官だから私がこの部隊の方針決めるのよね」
「はい、私の時はヴァンテージさんとの合流、引き継ぎを目標としていまので私の目標は達成したと判断しています」
私は考え込む。目標は特に無く、平和に過ごせればいいと思うぐらいだ。しかし、過激派に狙われる可能性もあるし、そうなると穏便には行かないだろう。
「私的には平和に過ごしたいんだけど…まぁ、さっき言った通りアルグの穏健派に入る事かな」
「それが懸命かと。既に知っているかもしれませんが反対する者はいません。ですが、今一度、クルー全員には報告お願いします」
「分かったわ」
クルー全員をブリーフィングルームへ集めて説明したが、事前の報告通り誰一人反対をする者はいなかった。理由を聞くと軍では無く、私に忠誠を誓っているので従うとの事。
そしてそれを伝える為、私とアヤはイラストリアスの甲板に停泊しているウィンダムのブリッジへと向かう。ブリッジに入るとラストフィート姉妹とヴァルカン艦長の他に、イマがいました。
「あれ?イマさんどうしてここに?」
「今は用あってブリッジにいるけど私だってウィンダムのクルーだし、おかしくはないけど。由華音こそ何か用かしら?」
今さらだが、イマって名前が名前だけに文字が無いと自分の名前を言っているようで可愛い時がある。更に外見は眼鏡をかけたお姉さん系だから、ギャップがあるがそれはそれで余計に可愛く見える。
「ゆかみん、さっきイマっちが自分の事を名前で言ってた風に見えたのが可愛いって」
「ちょっ!イレア!」
私は恐る恐るイマを見ます。イマは無表情で此方を見つめていたがその視線には並々ならぬ威圧感があったように見える。
「あ、えっと、その…」
「それよりヴァンテージ大佐殿、何か用があるのじゃないかな?」
「そ、そうです!ヴァルカン艦長」
私が冷や汗をかいているとヴァルカン艦長が助け船をしてくれます。
「それでですね、イラストリアスクルー全員の理解を得られましたので、我が隊はアルグの穏健派に入りたいと思いまして」
「ほっほ。ヴァンテージ大佐、そんなにかしこまらなくてもいいんじゃよ。穏健派は来るもの拒まずだから問題ないじゃろ。ワシからも一言言っておこう」
「ありがとうございます、では!」
「よろしく頼む」
私とヴァルカン艦長は握手をします。
ヴァルカン艦長との話を終えた私とアヤはイラストリアスに戻るとブリッジへ行きます。イラストリアスのブリッジはウィンダムと違い、3倍近くの人数がいます。それぞれ必要だと分かっていますがウィンダムを見た後だと、多いと感じてしまいます。
「ヴァンテージさんの席はこちらです」
「ありがと、アヤ」
私はアヤに案内された席へ座る。アヤは傍らの席へ座っていた。
「戻られましたか、ヴァンテージ大佐。準備は完了しております」
「それじゃ、出発!」
「了解。第一戦速!進路を南へ!目的地はミューンズブリッジ基地!」
「了解!」
ダンフリーズ艦長が命令すると、クルーが返事し、イラストリアスがゆっくりと前進します。
「ふぅ」
私は椅子に深く腰かける。航行は他のクルーがするので到着するか、敵機と出会うまで暇になります。
航行する事、数日、特に敵襲も無く、アルグのミューンズブリッジ基地周辺海域へとたどり着きました。
[由華音さん、そちらの艦の入港許可書を貰って来ますのでここでお待ち下さい]
「わかったわ」
シレアの通信を切ると、イラストリアスは海上で待機し、波間に揺れる。
「襲撃も無く、無事に着きましたね。お姉様」
「えぇ、そうね」
数十分間、アヤ、クルーの皆と話しているとフェルテが通信を聞き、伝達します。
「ヴァンテージ大佐、アルグのミューンズブリッジ基地代表アブレイズ大将から入港許可書が届きました」
「ありがと、それじゃ、行きましょ」
イラストリアスがゆっくりと前進し、湾の中に入ります。湾にはアルグだけではなく、ラツィオの戦艦もいました。
「穏健派って本当に来るもの拒まずって感じね」
「そうですね。戦後行方不明になった戦艦も見受けられます」
「そうなんだ」
イラストリアスは誘導された位置へ停泊させる。入港許可書は貰ったが乗務員の上陸許可書は代表者が行かなければ貰えないとの事なので私とアヤが行くことに。
「私とアヤで上陸許可貰って来るから、待っててね!」
「待ってます、ヴァンテージ大佐」
タラップを降りて地面に立つと私は思いっきり背筋を伸ばします。
「んー!やっぱ、地上の空気っていいね!」
「ヴァンテージさん、目的を忘れないで下さい」
「わかってるわよぅ。で、アヤ、どっちに行けば良いかな?」
「ヴァンテージさん知っているのではないのですか?」
あまり表情の変えないアヤが一瞬、きょとんとした顔が可愛くて珍しいと思ったが、そんな事をしている場合では無く、上陸許可書を貰うために基地の事務所へと向かわなければならない。
「アヤ、周囲に知り合いは、いないの?」
「いません。そもそも元敵勢力に知り合いがいると思いでしょうか?それならシグネットさんを連れてきた方が…」
「…それは確かにそうだけど。イマさんとヴァルカン艦長は何処?」
周囲を見渡すが、姿が見えません。
「困ったわね。アヤ、ウィンダムに連絡出来る?」
「かしこまりました、してみます」
アヤは通信端末を取り出して通話をし始めました。私はその間、周辺を見渡します。
建物は沢山ありますがどの建物かは分かりにくい。待ちぼうけしているとアヤの通話が終わったらしく、通信端末を胸のポケットに入れました。そこに入れると窮屈そうだが、アヤは気にしてないようです。
「ヴァンテージさん、場所が分かりました。案内します。…ヴァンテージさん?何を見ているんですか?通信端末が欲しいんですか?」
「え?あ、ううん。行こうか」
不思議そうな顔をして此方を見ていたので、私は慌てて視線を逸らしました。
そして、アヤの案内で事務所へ行き、上陸許可書を受けとりました。
「よし!これでいいね。でも意外ね。直ぐに発行されるなんて」
「ヴァンテージさんの日頃の行いがいいからでしょう」
「アヤったら、いつの間に冗談を言うようになったのかしら」
「いえ、冗談では…」
アヤが何か言っていたが私は上機嫌で歌を歌っていたので聞いていなかった。イラストリアスに戻り、クルーに上陸許可を出すと、私は雛子とアヤを連れてウィンダム内部を歩きます。ミナとサリナも誘いますが、サリナの診察があるらしく、後で合流する予定です。
アヤは現在はラツィオの制服を着ているが、これからはアルグの制服にするようにと指示した。
ですが街中では制服では目立つのでアヤの私服を見繕いに来ていたが本人は拒否するので、最終手段で私が命令すると渋々従う事に。そしてウィンダムの私と雛子の部屋に入り、アヤに似合う服を見繕う。
「アヤってスタイルいいからこういうのもいいじゃない?」
「そうですね、これなんかもいいですね」
「…………」
アヤは無表情で黙っていたが嫌がるような仕草はしなかった。結局、元のアヤのイメージを崩さないよう、シンプルな黒のスラックスに白のカッターシャツに黒のジャケットと秘書をイメージした私服にしました。因みにこの服は私が前に買った物なのでプレゼントすることに。
「うん!似合ってるよ、アヤ」
「アヤさん、格好いいです!」
「あ、ありがとう…ございます」
アヤに服を着せた後、私と雛子も私服へと着替える。
「よし、食事へ行こうか」
「はい!ってお姉様、行きつけとかあるんですか?」
「無い。と、言うわけでアヤ、どこかある?」
「そうですね、駅前の川上ビルにお勧めの店があります。まずはバスに乗ってミューンズブリッジ駅へ行きましょう。案内します」
私と雛子はアヤに付いていき、バスターミナルへと向かうのだった。
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