MMORPGでハーレム築いてしまったので今日から俺はクラスの女子と配合(ry

@ex_legend

EpisodeⅠ 

第1話 最強のきのぼう

 近未来を舞台とした " "がモットーのMMORPG『EXE UNIVERSE(エグゼ・ユニバース)』。通称『EU』。

 

 スマホ・家庭用ゲーム機・ゲームセンターのACなどありとあらゆるプラットフォームのクロスプレイを可能とし、その自由度の高さから幅広い年齢層に遊ばれる超大型のソーシャルゲームだ。


 ギルドを作って仲間たちとモンスター討伐に精を出すもよし、

 畑を耕して農民生活を送るもよし、

 気の合うパートナーと結婚して子供NPCを育てるのだって良いだろう。

 知人を誘って交流パーティを開くためだけにプレイしている層もいるって噂だ。


 このMMORPGに出来ないことは無い。


 そう。この世界の中でなら" "。


 なんでも……ね。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「グヘヘ、今日という今日こそは、そのやらしいカラダでたっぷりご奉仕してもらうぜ、お嬢ちゃん」

「ちょ、や、やめてくださいっ、変なとこっ、触らないでッ――」

「ホントに嫌なら押しのければいいじゃねえか……ほれ、ほれほれ。なんて出来っこねえか! 課金ジョブ" グレートタンク " の俺様のパワーに敵うやつなんて居ねえ! 今日だって俺様の活躍のお陰で勝ったようなもんだからな! ガハハ!」


 大型モンスター討伐を祝した飲み会が行われている酒場の裏側。 

 顔を真っ赤にした酔っぱらいが、その巨体を若い女性に無理やり押し付けて羽交い絞めしている。

 毛むくじゃらで筋骨隆々の手は、女性の柔らかな肢体を撫でるように舐めるように擦る。その度に女性は不快感を示す声をあげ脱出を試みる。が、毎度怪力によって抑え込まれてしまう。

 酒場のウェイトレスにとっての制服ともいえる、へそ出しタンクトップにショートパンツ。いくらすぎと言えども季節は夏。密着する二人の間に伝う汗が、巨大な男の興奮を尋常ならざる速度で加速させる。


「へ、へへっ……良いよな、良いんだよなっ? 嫌がってねえし、良いんだよな? 触っても、繋がっても、良いんだよな?」

「ほ、ほんとに、やめてっ、こんなこと、さいってぇっ……」


 泥酔&うだるような暑さで判断能力が下がった男に正常な判断などできるわけもない。

 女性の声など耳に入れず、野蛮な男が女性の衣服の中に手を突っ込もうとしたその時だった。


「――よし、現行犯逮捕違反行為判定、キル容認だ、みなと!」


 耳に入ってきたGOの合図で、俺は屋根の上から飛び降りた。

 無論、巨体の男と女性の間に割って入るように。

 握りしめたを振り下ろしながら。


 しかし、俺の制裁が男の脳天に当たる直前、


『――


 巨体の男のジョブスキルが発動してしまったらしい。男は女性の拘束を解いて俺の振り下ろしを受け止め、少し退いた。


 鉄がぶつかり合う音が響き、俺の握っていた「てつのけん」は巨体の男が纏う白銀の鎧によって刃を砕かれていた。

 

「――ッ、何だテメエっ!」


「あちゃ……不意打ちで仕留めるつもりだったのに……ミスったな」


 俺はてつのけんをポイっと投げ捨てた。

 しかし自動防御スキルって、課金ジョブ様様だな。コマンド入力もタイミング察知も必要ない。つけときゃ強いの筆頭スキルだ。


 そんなことを考えながら男と正対し、驚きのあまりぺたりとしゃがみこんでいる女性に小さく声をかける。


「もう大丈夫です、怪我は無いですか?」


「お、お陰様で……ありがとうございます……って、その手に持っているのは……」


「え? あぁ、これ? これは――」


 彼女は俺が懐から引っ張り出したを指さして不安そうな顔をした。


「てめえ舐めた真似しやがって、俺様の手で直々に殺してやるッ!!!!!!!!」


 発狂する巨体の男がこちらに突撃してくるのが分かる。

 これもまたジョブ専用攻撃「超突進」。

 回避不可、グレートタンクで強化される肉体のステータスがダメージに大きく影響するこのジョブの十八番と言ってもいいだろう。

 風を斬るような大型タンクが俺の背後に迫る。


「あ、あぶないっ――」


 半分叫ぶような女性を安心させるべく、俺は微笑む。


 何の変哲も無い、きのぼうを握って、


「これは――です。とっておきの、ね」


「喰らいやがれえええええええ!!!!!!! グレートタンク、超突っし―――――――――」


 男の必殺技コールが終わる前に、俺はきのぼうを振るっていた。超突進の先端となる巨体の男の頭に、きのぼうを軽く振ってあてるだけ。


 簡単な動き。

 瞬間、全ての動きが停まる。


「――な」


 巨体の男が事態を理解する前に、バトル専用のシステムメッセージが答えを弾き出す。


『凍結スキル発動、対象が凍結状態になりました。

 麻痺スキル発動、対象が麻痺状態になりました。

 炎上スキル発動、対象が炎上状態になりました。

 抗抑(魔)スキル発動、対象が魔法弱体状態になりました。

 抗抑(物理)スキル発動、対象が物理攻撃弱体状態になりました。

 幻惑スキル発動、対象が幻惑状態になりました。

 致命スキル発動――


 対象を、即死 / 行動不能にします』


「……致命スキルだけで十分だったな」


 俺の言葉と同時に男の体がありとあらゆる状態変化による効果を受ける。

 燃え、凍え、痺れ、惑い、そして死——このゲームでいう一時リセット状態に陥る。


「ッァアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――」


 断末魔と共に、男の体が光の粒子となって消えていく。

 座り込んでいた可憐な女性はその様をポカンと口を開けて眺めていた。


「おい湊、どうして最初の不意打ちできのぼうを使わなかったんだ。無駄な危険を冒す必要があったか?」


 勝利の余韻に浸ろうとしていたところに、アイツの声が聞こえてきた。

 近くに居るわけではない。遠隔のボイスチャットで指示を出している友人——八重樫だ。


「だって、きのぼうでポコって敵倒してもかっこつかなくない?」


 きのぼうで倒してかっこつくのは青色の小型モンスターだけだろ。


「あのな、何度も言うようだが俺たちはヒーローごっこをしてるんじゃない。世のため人の為、公務に従事している自覚を持て」


 八重樫の口調はいつも通りきつめだ。


「公務に従事してる自覚っつってもねえ。今日だって俺のやったことはただのプレイヤーキル。傍から見たら害悪プレイヤースレスレだぜ?」


 俺はため息をつきながらゲーム内チャットを覗く。


『――Mがハンゾウをキルしました――』


 ほれ見ろ、全体チャットで俺が巨体の男——ハンゾウという名前らしい――をキルしたシステムログが出ている。それを見た他のプレイヤーたちが

「またプレイヤーキル? 最近治安悪くね?」

「こっわ。こいつブロックリストに入れとこ」

 などと経緯も知らない癖にわちゃわちゃ書き込みしやがるのだ。

 くそ、何だって俺がこんなことに巻き込まれないとならんのだ。


 こんなの百害あって一利なしだろ。


「あ、あの、M、さん?」


 がっくり頭を垂れる俺を呼ぶ声。

 先ほど助けた彼女である。いかん置いてけぼりにしてしまっていたな。


「あ、ああ、なんでしょう……別にお礼なんかは――」


 瞬間、かわいい顔の彼女が顔を真っ赤にしながら目を瞑ってこちらに跳びついてきていた。

 俺は、抵抗する間もなく、その抱擁に包まれる。


「ごぶっ――」


「ありがとうございますっ……怖かった……ホントに……怖かった……ありがとう、ございます……この恩は一生忘れません。私とフレンドになってください、今度一緒にお茶でもどうですか? あ、お酒のほうが良かったらぜひウチで」


 揉みくちゃ、というか荒波に揉まれながらも俺は返答する。


「ぶ、無事でよかったです……はい、お茶もぜひ……ごふぅ……」


「ほんとですか! やったー! ……その、私フレンド全然いなくて、酒場でバイトしてたのもホントは交友関係を広げるためだったんですけど、皆私のその……カラダ目当てだったというか……あ、もちろん全部断るんですけど、そういうの誘ってるように思われて、他の女性キャストさんとは距離を置かれていたと言いますか……」


 急に生々しい話だなあおい。


 とは思いつつ、これこそが、このリアル感こそが「EU」なのだと実感しながら俺は彼女の両手をぎゅっと握った。


 そして彼女の目を見て、ハッキリと言葉にする。


「ぜひ、フレンドに」


 俺の言葉に彼女は弾けるような笑みを浮かべて頷いた。

 同時に通知欄には彼女——「アンナ」からフレンド申請のメールが来ていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 その後俺は酒場の中に入り、巨大酔っぱらい男の所属するギルドのマスターに一連の事情を説明した。ギルドマスターが言うには、酔っぱらい男は課金ジョブ:グレードタンクを使うようになってから素行が良くなかったらしく、迷惑をかけてすまないと頭を下げてくれた。

 とはいえ貴重な戦力であったことも事実。キルによる経験値・アイテムの一部ロストに対する謝罪を返し、和解となった。


 帰り際、笑顔でぴょんぴょん跳ねながらこちらに手を振ってくれるアンナに俺も手を振り返す。


「……これで、良かったんだよな?」


 俺はボイスチャットで八重樫に問いかける。


「ん?」


「これで、彼女は助かるんだよなってこと」


「なんだそういう意味か。安心しろ、今日の活躍で彼女の――倉西杏の精神強度は標準値にまで引き上がった。これで異常行動が起きる懸念は消えたわけだ」


 倉西杏。飛洋学園高等部3年生、俺と同じ3-Aに通う女子生徒。


「……ちなみに倉西の異常行動って、なんだよ」


「鬱病、自傷、最悪の場合は自殺或いは社会的な死、といったところだな。――あくまで、想定の範疇を出ないが」


「……」


 俺がこんなヒーローごっこもとい世のため人のための公務に従事して居る理由。

 それは現実世界で起こる犯罪・事件を未然に防ぐため。


 ――倉西杏をこのまま放っておくと、キミの悲しむ結果になるだろう。EUでのキミの力を借りたい――


 八重樫の言葉。なんだこの誘い文句。断った後になんかあったら後味悪すぎんだろうが。つーかなんでゲームで倉西を救う必要があるんだよ。


 ……とはいえ。


 現実世界での俺は倉西と友達ではない。同じクラスではあっても俺の現実世界での有様は酷いもので、友達と呼べる存在など数えるほどしかいない。

 そんな俺がいうのも烏滸がましいが、倉西は基本一人読書をしている印象がある。ゆるふわボブヘアにメガネが特徴的で、時折ミステリアスな雰囲気を醸し出す彼女には時折よくない噂がついて回っているのを俺は知っていた。

 パパ活をしているだとか、男を漁っているだとか、根も葉もない噂が彼女に聞こえるように囁かれ、彼女はそれでも動じず本に目を落とす。

 現実世界で誰にも頼らず、一人強く生きている。

 そんな彼女にとって、EUの世界はある意味で自分をさらけ出せる世界なのかもしれない。

 接点などあるはずもない俺が、彼女を助けることが出来るのもこの世界あってこそだ。



 ――所詮ゲームでしょ、それ。何本気になってんの?



 胸に刺さる言葉を思い出す。


「……どうした?」


「んや、なんでもねえ、彼女の可愛さに心打たれただけ」


「非論理的だな。可愛いと思うならそう伝えてくれば良い。きっと彼女も喜ぶし精神強度はさらに高まるだろう。一石二鳥だ」


 いっけね。こいつ冗談通じねえんだった……。

 こいつはクソ真面目な顔でこういうことを言うから良くない。

 「可愛い子に可愛いって言える精神力」はきっと生まれる前に神様から授けられる特殊器官の有無だから。未確認器官「告白肝」とかあるに違いない。じゃないとおかしい。


「今日は止めとくわ。帰ろう、疲れた」


「それは合理的だ。僕もログアウトする。また明日学校で会お……そうだ、明日は例の件の作戦会議といこう。筆記具を忘れないように」


 言って、俺の返事を待つ前にログアウトの独特な電子音が聞こえた。


「……筆記具忘れるわけねえだろ……」


 ぼやきながら、俺はもう一度酒場の方をふり向いた。


 倉西もとい、アンナは流石に仕事に戻っているようだった。


 賑わう酒場を中心とした宿場町・ジエグルム。

 その奥に広がる広大な大陸と山々、大陸中心部に聳えたつ無限階層ダンジョン「螺旋の塔」が見える。

 螺旋の塔は、軍団対抗戦や超凶悪レイドなどこのゲームにおける

 あの場でだけ産まれる熱狂と栄光、それから後悔の思い出。

 

 心をかきむしりたくなるような感覚が俺を襲う。


「――ッ……くそっ」


 ……もういいんだ、もう、辞めたんだ。今更追いつけやしないし。


 しばらく自分の心を落ち着けるために空を眺めた。

 このゲームは空さえもリアルだ。無数の星がゲーム無い専用の星座を象る。

 夏の大三角形も「EU版」が存在するくらいだ。


「……ほんと、たかがゲームだぜ、マジで」


 そう呟いてから俺は、木の棒を強く握ったままマイルームのある河原へと歩き始めた。


 どうしてこんなことになったのか。

 そんなことを考えながら。


 俺にとっての「EU」は、「リアルになんでもできるゲーム」から「きのぼう配合ゲーム」に書き換えたはずなのになぁ……。

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