弐【人の九十九神と出会いし事】・1
僕と玄海さんは、持ち場へと向かう前に僕のアパートへと来ていた。
ドアを開ける手前、一瞬不安がよぎる。
彼女に任せていて、部屋は大丈夫なんだろうか。
玄関を抜け、リビングへと向かう。
すると、彼女は下着姿で床に横たわっていた。
周りには食べ物のゴミと昨日まで着ていた服が散らかっている。
昨日までの片付いた状況から、一日でここまでになるとは凄まじい変化量である。
「おい。お前、どういうつもりだ……」
「ううん? もう夜なん?」
僕はアゲハが持ってきていた荷物の中から、女性ものの服をテキトーにひっつかんで彼女に投げる。
「まずは服を着ろ」
「とか言って、こっちのが嬉しいでしょ?」
「うるさい」
「はいはい」
彼女は、服を持ってシャワールームへと走っていった。
「覗いちゃダメだよ」
「うるさいっ! さっさとシャワー浴びるなりして着替えてこいって。玄海さんも、ボーっとしてないで、片付けるの手伝ってください」
「お、おぅ」
室内であられもない姿を見てから、茫然としている。
照れているというわけではないが、カルチャーショックみたいなものに当たられたようだった。あれは結構な例外中の例外だとは思うが。
「なんで、お前はあんな平然としてるんだよ」
「妹がいるんですよ。あれよりはもう何段階かマシなほうですが」
「……」
食べ物の袋やらをゴミ袋に入れ、昨日着ていた盗んだであろう制服は本人の身分証だけ抜いてあとは処分することにした。
少し無駄のような気もしたが、玄海さんは、
「盗まれた服をまた来たいと思うか?」
と言われ、そうだなと納得する。
シャワー室から出てきた彼女は、黒いタートルネックのニットのままで下はまだ下着のままだった。
「いや、これから外で『あれ』を探すっていうのに、スカートってどうなの?」
と言いながら、デニムに着がえていた。
はいはい。ごめんなさいね。
彼女が着替えて、満足げに微笑んだところでようやく本題に入る。
「さてと、これから外に行くが、俺たちの持ち場は今日もここらへんだ。だが、『あれ』が今日もこの辺に出るかどうかは分からん。そもそもどういう行動パターンを取っているかもわかってないと来ている。結局は、運ってやつだ」
玄海さんは、そう言いながら都の地図を床に広げた。
「俺たちは、まあ、持ち場を離れたところで大きな問題はないだろう。うまく報告すればな。だから、もうお前が行きたいところに行くか……または、こうする」
彼は地図の上にペンで線を引いていく。
四角い都を縦に六等分、横に六等分。
そして、赤と白の色の違うサイコロを二つ取り出した。
「縦の列が赤、横の列が白、これで決めてみようぜ」
「すごいことを言いますね……」
確かに、『あれ』の行動がどうなるか分からない以上は運に賭けるしかないが。
彼女は何も言わずサイコロを握る。
手の中でコロコロと何度か転がすと、振るのかと思いきや「うーん」と悩みだした。
「縦が赤で、横が白か……逆がいいな」
「それはどっちでもいいんだが」
「じゃあ、逆で。縦が白、横が赤。ほっ!」
地図の上にサイコロが落ち、三十六個のマス目から一つを選び出す。
白が四、赤が一。それは帝のいる御所の東側に当たる。
僕と玄海さんは顔を見合わせた。
お互いに「御所の警護の部隊と鉢合わせるのが心配だ」という目で会話する。
「なあ、別のところにしないか……元の通りなら――」
「サイコロに選ばせるって言ったのは、そっちじゃん」
「そうだけど……」
「じゃあ、もっかい投げる?」
とサイコロを手に取る。
また両手で包み込んで何度か降ると、地図の上に落とす。
今度は赤が四、白が一を示した。
「いえーい!」
喜ぶ彼女を僕が説得をしようとするが、言うことを聞いてくれない。
「いや、もう、行くぞ」と玄海さんはもう腹を決めたという顔で言う。
「だが、俺たちの言うとおりに動いて、基本外では静かにしろよ」
「本気ですか?」
「ああ。それに運次第なのは一緒だ」
「ええ……」
「よし、行こう」
「いこー」
葉子は、飛び上がっていった。
僕はまだ心を決めかねていた。
が、二人は揚々と外に出ていく。
「おいてくぞ!」
「はあ、行きますよ……」
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