スティーブン・キース
スティーブン・キースはルービックキューブをやるとき、この箱一つ一つの中にうさぎが入っていたら彼らは乗り物酔いしてしまうな、と考え一度手を止めるがどうせすぐに餓死する(もしくは既に餓死しているだろう)と考えを改め箱をこねくり回し始めるような男だった。
「キース、僕たちは君の先見性という縄に繋がれた犬のようだ。敵わないよ。一人散歩をしているときに、そこらへんの石ころにも助けを求めてしまいそうになることがよくある。」
ロー・ヘンズ先生もよくそんなことを言っていた。そんな時キースは決まって苦笑いを浮かべていたけど、実際のところキースに縛られていたのはキース自身だったのかも知れない。そう、ルービックキューブの中の小さなウサギたちなんかより。
ある夏の日のこと。その日は学校でプールの授業があったんだ。クラスメートたちはみんな着替えてプールサイドに集まっていた。しばらくすると、キースがやってきた。なにかちっちゃい虫カゴみたいなものを持っていてみんなチラチラ見ていた。だってみんなほとんど素っ裸なのに、一人だけ道具みたいなものを持っているんだから。国語の授業に持ってくるよりも刺激的だったんだ。僕たちは警戒していたのかもしれない。本能的に危険を感じていたのかもしれない。キースはあのとき、一人だけ文明人だったのだからね。見てはいけないものを見ているような気分だったけど、みんなチラチラ見ていた。キースはスタスタとプールに近づいて、虫カゴみたいな物の中身をプールに放った。我慢できなくなった僕たちは一斉にプールの中を覗き込んだんだんだ。時計の針が飛びかかるみたいに。すると、なんだか木の枝みたいなのがスイスイ泳いでいたんだ。そう、水カマキリ。クラスのみんなは大はしゃぎ(もちろん僕もその一人だった)。だって、そのくらいの年代の子がこの世で一番好きなのは水カマキリだからね(もしかするとセックスよりも水カマキリの方が好きなんじゃないだろうか!!)。「プールに水カマキリを放すことなんて、熱々のご飯におかかふりかけをかけるようなものなのさ。」はしゃぎ回る僕たちを見て彼は澄まし顔で言っていた。だけど先生がやってきて、キースに言ったんだ。「キース、このプールには塩素が入っているから水カマキリはすぐ死んでしまうに違いないよ。」ってね。「あっ!!」キースはスイカの中身が飛び出したみたいにプールの中に頭から飛び込んだ。そして、指を三本折った。水カマキリは死んだ。キースは水カマキリを助けてあげたかったのかもしれないけど、暫くして学校に来たキースは言ったんだ。どちらにしろすぐに死んでいたのに、何をしていたんだろうって。
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