第6話 町へ行こう

 パンツ事件などなかったかのように元通りの態度になったマティスの操るほろ付き荷馬車に乗って、私達がいた森の端の集落から冒険者ギルドのある町まで移動している。

 どうやらマティス達の住んでいる集落は、フェンリルを迎えるために守られていた場所らしい。



 本来なら眷属けんぞくである狼獣人だけが住むはずだが、特例として歴史と遺跡を研究するアルフォンス達猩猩オランウータン獣人が少数住んでいるんだとか。

 そんな事を教えてもらいながら、荷台で話をしているマティス以外のメンバー。



「あががががが、お尻が割れるぅぅぅぅ!!」



「慣れてないのに喋ると舌を噛むから気を付けた方がいい。だが、馬車なら十五分も乗っていれば町に到着するからすぐさ」



 必死に荷台の枠組みにしがみついている私と違い、アルフォンスと双子は涼しい顔をしている。

 アーサーはといえば、ちゃっかりとユーゴの膝の上に座って衝撃を緩和かんわしていた。



「町に到着する前にひとつ言っておかないとな。俺達と……特に狼獣人と一緒にいると町で嫌な思いをすると思う」



「なんんんっでっ!?」



 危ない、危うく舌を噛み切るところだった!!

 なんでアルフォンスはこの振動で普通に話せるわけ!?



「さっき家で一万九千年って言っていただろう。最初の一万年はサキと同じ異世界から転生・・してきた魔女が。それから千年ごとにアーサー様達フェンリルが顕現けんげんしてこの世界を試してると伝承にはある。これまでのフェンリル様は権力者に囚われて、魔獣であるブラックフェンリルへと変貌してしまい、いくつもの国を滅ぼしたらしい。当然そんな魔獣の眷属の扱いは……な」



 な、なんか色々すごい事を聞いた気がする。

 質問したい事もいっぱいあるけど、今はお尻の痛みと口を開いたら舌を噛み切る危険があるせいで聞けない!



 とにかく後で詳しく聞こう、それまでちゃんと内容覚えていられるかな……。

 アーサーも見た目はまだ子供だけど、声だけは大人だし、もしかして色々知っているんだろうか。



 切り立った崖が視界から消え、緩やかな上り坂を少し進むと、丘の上に塀に囲まれた都市が見えた。



「うわぁ、結構大きい町だよね? ゲームに出て来る町みたい。……あれ? 普通に話せる」



 まだ振動はあるものの、さっきまでの舌を噛み切りそうな振動ではなくなっていた。



「ここはもう街道に入ってるから舗装されているのさ。ほら、向こうに海が見えるだろう、あっちには漁師町があるんだ」



 荷台と幌の隙間から覗くと、遠くにキラキラと光る水面が見えた。

 やった! もしかしてお刺身が食べられる!?

 そんな事を考えていたら馬車が停まった。



「チッ、お前らか。通行証を見せろ」



 不機嫌さを隠そうともしないおじさんの声が聞こえて振り返ると、どうやら門番のようで私に目を止めた。

 それに気付いてマティスが口を開く。



「彼女は人族だ。身分証を紛失したらしいから冒険者ギルドへ連れて行く予定だ」



 マティスはそう言って、なにやら木の札と硬貨を数枚おじさんに渡した。

 札とお金を確認したおじさんは、札だけをマティスに返してジロリと私を睨んだ。



「ふん、こんな奴らと一緒にいるようなら程度が知れるな。町で問題を起こすんじゃないぞ、俺達に捕まりたくなかったらな」



 それだけ言ってシッシと追い払うように手を振った。



『主に対して無礼な奴だな、殺すか?』



 さっきのアルフォンスの話を聞いたこともあり、物騒な事を言い出したアーサーを慌ててなだめながら私達は門をくぐった。

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