第5話 アーサーの命名とマティスのパンツ

「あ~……名前ね。そういえば私があるじ? になったから付けないといけないって事だよね? えーと、うーんと……」



 あうあぁぁっ、皆が期待しているキラキラした目で私を見て来る!

 何か……カッコいい名前……、ハッ、そうだ!

 私の好きなアーサー王伝説から名前を貰おう!!



「アーサーはどう!? 聖剣エクスカリバーの持ち主で、円卓の騎士や魔術師マーリンをしたがえた伝説の王様の名前なの!」



『うむ、悪くない。これより我が名はアーサーである』



 そう宣言してアーサーはドヤァァ、と胸を張った。

 気に入ってくれたようでなにより。

 他の皆も納得したらしく、満足そうに頷いている。



「ではさっきまで使っていた客室を、このままサキ殿とアーサー様に使っていただくという事でよろしいですか? ご希望であれば新たに専用の屋敷を建てますが」



 新築!?

 いや、それよりここに定住確定されちゃってるし!!



『それはサキがこの部屋でよいなら構わぬが……、ひとつよいか?』



 子フェンリル改め、アーサーがテチテチとさっきの部屋へ向かうと、勝手にドアが開いて入って行った。

 気になって結局全員で後をついて行く。



 部屋を覗くとベッドの下へアーサーがもぐり、なにやら布を咥えて出て来たが二度見した。

 なぜならその布には見た事のないキノコが生えていたから。



「うわぁぁぁぁ!?」



 そのキノコ付きの布を見た瞬間、さっきまでキリッとしていた兄狼獣人のマティスが、電光石火の如くアーサーの口から布を奪い取った。



「こっ、これはお目汚しを……その、申し訳なく……」



 マティスは背中に布を隠すと、大きな身体を縮こまらせてモゴモゴと謝っている。

 その理由はすぐに判明した。



「今の柄はマティス兄ちゃんのパンツだよね? も~、ユーゴがダメだって言ってるのにその辺に脱ぎ散らかすせいだよ!? 洗浄魔法でほこりは取れても散らかしたパンツは片付かないんだから! どうせユーゴに見つからないようにどこかにねじ込んであったんでしょ、だから洗浄魔法が届かなくてキノコが生えたんじゃないの?」



「ん……、リアムの言う通り」



 弟達にお説教され、ますます身体を小さくするマティス。

 わ、笑っちゃいけない。

 あんなにマティスが恥ずかしそうにしているんだから、今私が笑ったら心に傷が……。



 グッと腹筋に力を入れて笑いをこらえるが、視界のすみに自分が咥えていた物がマティスのパンツだと知って前足で口元を必死に拭っているアーサーを捕らえてしまい、決壊した。



「ぶふぅっ! あはははははははは!! 洗濯物にキノコが生えてるのリアルで初めて見た! あっははははは!」



「か、片付けてくる!」



 私の大爆笑を聞いて、マティスは部屋を飛び出して行った。



「あ……っ、怒っちゃったかな。笑った事謝ってくる」



 マティスを追いかけようとしたら、アルフォンスが片手で制した。



「今のはマティスの自業自得だから気にしなくていいさ。それより今着てる服はアーサー様が洗浄魔法と修復魔法で綺麗にしてくれたらしいが、状況的にサキは異世界からやって来たみたいだし、町に行って身分証と生活用品を手に入れた方がいいのでは? 冒険者ギルドでアーサー様を従魔登録してしまえば、他から手出しされなくなるしな」



「じゃあオイラはマティス兄ちゃんに言ってくる! こういう時のためにお金は準備してあるからね!」



 さっきから何気に気にはなっていたんだよね、魔法の存在が!

 アーサーがドアを開けたのも魔法だろうか。

 さすが獣人もいるファンタジーの世界、もしかして冒険者ギルドで魔法のチートが発覚したりして……、ムフフ。



 そんな私の希望が打ち砕かれるまで、あと少し……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る