第2話 初めての食事

『よいか、我はすでにこの者と契約を交わした』



「「「「「契約を!?」」」」」



 子狼より視線が高くならないようになのか、最前列でひれ伏していた狼達が驚いて顔を上げた。

 いや、私も驚いている、契約って何!? ハンコなんて押してないよ!?



『うむ、ゆえに眷属けんぞくでなくとも、今も我の言葉を理解しておる。この者の感情は我にとって甘露かんろに等しいのだ』



「「「「「おおおぉ……!」」」」」



 狼達が一斉に私を見た、目がギラギラしてて正直言ってめっちゃ怖い。

 眷属って何!? 感情が甘露って、感情が美味しいわけ!?



『わかっておろうが、あるじの事は丁重に扱え。我が主よ、安心しろ。この者達はフェンリルである我の眷属の狼獣人ゆえ、主に危害を加えさせはせぬ』



 子狼改め、子フェンリルはそう言って再びテチテチと私の足元に来て尻尾を振っている。

 はわわ……! やっぱり可愛い!!

 色々とよくわからない事が多いけど、あまりの可愛さに抱き上げた。



 その途端に身長が百五十五センチしかいない私を、二メートル越えの狼獣人達が取り囲む。

 だから怖いんだってばぁぁぁ!!

 心の中で悲鳴を上げていると、子フェンリルが狼獣人達を一喝いっかつした。



『バカ者! 主が怯えているではないか! もそっと離れて案内あないせよ!』



「ハッ! では主殿、我らの集落へ案内しますので、こちらへどうぞ」



「アッ、ハイ」



 恐らく最初に私を発見したであろう狼獣人が話しかけてきた。

 さっきは動揺してて気づかなかったけど、このリーダーっぽい狼獣人ってば凛々しくてカッコいい。

 狼だけどドーベルマンみたいなキリッとした感じで、気軽に撫でさせてなんて言えなさそうだけど。



 無駄口を叩かない狼獣人達と共に数分ほど森の中を歩いていると、緊張の糸が切れたのか、残業と徹夜と全力疾走の疲れがドッと押し寄せる。

 あ、異世界の空も青いんだ。

 そんな考えと共に、私の意識は途絶えた。



 次に目を覚ますと、ナチュラルな木目の天井が見えた。

 私がいるのは十畳ほどのシンプルな部屋に置かれたベッドの上。

 着ていたパンツスーツはボロボロのドロドロだったはずなのに、なぜか綺麗になっている。



『目が覚めたか。ここは眷属のおさの家だ、丸一日眠っていたから翌日の朝だぞ』



 イケボが聞こえて床を見れば、ピコピコと尻尾を振っている子フェンリル。



「えぇっ!? 私、そんなに寝てたの!? 道理で頭がスッキリしてるはずだよ」



 手櫛てぐしでショートボブの髪を整えていたら、部屋のドアがいきないり開いて小さい……といっても私くらいの身長の狼獣人がコップを手に持って入って来た。

 さっきの狼獣人の集団にはいなかった気がする、この家の子だろうか。



「……ん、水。飲んで」



「え? あ、ありがとう……」



 差し出されたコップを受け取り、ひと口飲むと、そのまま一気に飲んでしまった。

 そりゃそうだよね、残業の合間に隠し持ってたおやつを食べて以降、今まで何も口にしてなかったんだから。



 ググゥ、ググググゥ~。



 水に刺激されたのか、激しく空腹を主張する私のおなか。

 内心動揺する私をよそに、小さい狼獣人はクスッと小さく笑った。



「ご飯がある。こっち」



「わぁ! ありがとう!」



 ベッドの横にはお百度参りでかかとのすり減った私のスニーカーがきちんと揃えられていたので、急いで履いて小さい狼獣人について行く。



『うむ、我も共に食すとするか』



 子フェンリルもテチテチと私のあとをついて来た。

 そして部屋を出るとすぐにテーブルとイスがあり、座るように言われて待っていると、野菜スープと丸いパンが目の前に置かれた。



 色々聞きたい事とかあるけど、さっきから悲鳴のように音で訴え続けるおなかを優先して手を合わせた。



「いただきます! あむっ…………」



 う……、薄い! スープが薄い塩味みたいな味付けで正直マズい。

 さすがに吐き出すのは失礼過ぎるよね!?

 どうする私!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る