正体

7.

 居ないんだ、彼女は。

 俺の側にもう居ないとかじゃなくて、そもそも実在しないんだ。

 だから、さっきまで話した物は全部俺の妄想に過ぎないし、幻覚に過ぎない。

 何ならさっきまで笑って見せていたのはその彼女のおかげだ。


8.

 幻覚を見続けなきゃいけない、幻聴を聴き続けなきゃいけない。

 だから俺はこうやって、溺れていく。何度でも溺れていく。

 アンタからしたらおかしいだろう?俺からしてもおかしい。

 だけど、それでも、俺はこれを選んだ。自分の為に。


9.

 ――ありがとう、そうだ。正しいのはアンタだ。

 そう、俺のやり方が間違っていて、それでいて。

 やれやれ、どうやら今年の夏も最高の夏にはならないらしい。

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