【不在】
るなち
祭囃子に踊らされ
1.
なあ、聴いてくれ、俺の彼女の話だ。
まあ、とびきりキュートかと言われたら色眼鏡を外す必要があるかもしれないし、キュートすぎて他の目を引いても俺からしたら困るんだが。
そんなことはどうでもいい。俺の彼女の話を聴いて欲しい。
2.
浴衣でデートするんだ、今度。
俺は甚平を着ててさ、彼女は淡い青の浴衣を着てるんだ。
二人して着付けをしたことがないもんだから動画を見ながら三十分は苦労して着付けることになるだろうね。
そこで少し早めに出て、テキ屋を彷徨く。目に入ったものは全部遠慮なしだ、とことん食らっていく。
そうしてりんご飴のデカさにようやく気付くんだろうな。小さい頃だから大きく見えたんじゃなくて、元々そうだったんだって。
3.
そこからふらふらと祭り会場を手を繋ぎながら、鼻歌交じりに上機嫌に回るんだ。
そして暗くなっていくに連れて祭り会場から離れて都会の喧騒に紛れていく、なぜだかわかるか?
花火大会は俺達には人が多すぎるんだよ、あぁ今から考えたら嫌になってくるね。
4.
だからして、少し遠目の花火が見えるか見えないか、音が聴こえるかもしれないみたいな所まで逃げるんだ俺達は。
なんせ人が怖いんだお互い様。花火の音の中じゃ意思疎通すらできなくなって、溺れてしまうだろうさ。
だから、逃げるんだ。お互いのために逃げるんだ。そうしてビルの屋上で風を待つ。
5.
ぴゅう、っと。音が鳴る。それは花火の音でもあるし風を切る音でもあるだろう。
ただひたすらに俺と彼女の間には会話は無くて良く、ただ物音だけがしていればいい。
それでいて、たまに目を合わせるとニコっと笑ってくるに違いない、そうだ。そうに違いないさ。
6.
そうしてひとしきり喧騒から逃げた後、こっそりと帰るんだ。
街外れ、喧騒の外れ、見当外れな浴衣と甚平でさ。ゆっくりと歩いて帰るんだ。
これほど完璧なプランはないだろう?だけど、一つだけ欠陥があるんだ、このプランには。
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