第19話「みんなとお昼ご飯!」

 

 4時間目が終了すると同時、あたしは吸い込まれるように机へと突っ伏した。


 もう、無理…………。

 授業を真面目に受けるの、しんどい……。


 授業開始2日目にしてあたしの心は既に限界を迎えていた。

 だが真面目に授業に出るのなんて小学生ぶりなのだから仕方がないだろう。


 くぅぅ…………勉強って辛いなぁ……。


 あたしが唯一避けて通ってきた道。

 それが勉強だ。


 あたしにとって最も苦痛を感じる行為と言って良い。


 はぁ……あんま弱気になる事とかねぇけど。

 こればっかは自分を信頼できねぇ……。


 これから頑張っていけんのかな……………。



「ミズキさん」


 不意に頭上から声が落ちてきた。


 あたしがゆっくり顔を上げるとそこには。



「ミズキちゃんお疲れ様だねー……分かるよぉ、ここの勉強難しいよね……」


「七瀬さん、この蛮族を甘やかしてはいけませんわ。ま、しょせん蛮族に知的活動は無理だという事でしょうが」



 琴音と金髪、そして七瀬がそれぞれ弁当の包みを持って、あたしの席に集まっていた。


「……っ」


 ただ黙って3人を見つめるあたしに、金髪が怪訝そうな表情を浮かべていた。


「な、なんで何も言い返してこないんですの……? はぁ、調子が狂いますわね……ほら、さっさと昼食の準備をなさい。というか琴音様の昼食時間を遅らせるんじゃありませんわ!!」


「ふふっ、わたくしは大丈夫ですよ。さぁ、ミズキさん昼食を食べに行きましょう」


 琴音が明るい笑顔で告げた。


 勉強は辛い。

 多分この学校は『今の』あたしには全然向いてない学校なんだろう。


 これからどうなるかだって分からないけど。


 こいつらが昼飯に誘ってくれるなら。


 頑張ってみても良いかなって。

 簡単に励まされている自分がいる。


 あたしもまだまだ……子供だな。


 あたしは両頬を強くビンタすると、スクールバッグの中から寮母こと子供マザーが作ってくれた弁当の包みを取り出した。


 そして席を立ち上がって3人を見つめる。


「わりぃな……昨日ちょっと夜更かししちまってよ。あと金髪!!!! てめぇ息を吐くようにあたしを罵倒してんじゃねぇよ!! クソパズルの分際で生意気だぞ!!」

「だから私の名前は静流だと何度言えば!!! あなた良い加減に覚えなさい!!」

「覚えねぇよーだ! べー!!」

「なんですのこいつ!!?」


 金髪といつものように言葉の弾丸を撃ち合いながら。


 それを微笑ましく見ていた七瀬と琴音と。


 あたし達は昼食を取るための教室を出て行った。



 ※  ※   ※



 やって来たのは学園内にある食堂だ。

 もちろん食堂といっても、一般的な学校のそれとは比べ物にならない。


 例えるなら高級レストランの内装そのまま。

 それが食堂という名称で呼ばれているだけ。


 みたいな感じだ。


 大きな食堂の中には優雅な音楽が流れていて、ピシッとしたスーツを着たウェイター達が何人も歩いている。


 入り口のところにはスーツを着込んだ受付の女性がいる。

 この食堂は予約制だ。もちろんかなり広いし、食堂も学園内に2つあるらしいので予約待ちになることはほぼないそうだ。ただし利用するには必ず前日までに予約をしておく必要があるらしい


「お名前をどうぞ」


 受付の言葉に琴音が返す。


「西條琴音です」

「西條様ですね。4人がけのテラス席でお間違えないでしょうか」

「はい」

「かしこまりました。では担当の者が案内致します」


 受付がそう言うと食堂(もう見た目が超高級レストランだからこれから【食堂レストラン】って呼ぶ)の奥から、一人のウェイターが出てくる。


 そいつはあたしらに一度礼をした後


「こちらです」


 と言って食堂レストランの外にあるテラス席へと、あたし達を連れて行ってくれる。

 室内でも屋内でもお嬢様達が優雅に昼食をとっていた。


 少し歩くとあたしたちが予約していた席に到着する。


 テラス席は優雅というに相応しい様相を示していた。


 埃やゴミ一つない4人がけの白い丸テーブルに、豪華でロイヤルな装飾がついた椅子が4つ。目の前には小さな池と色とりどりの花が咲き誇る自然景観が広がっており、お嬢様達の秘密の会食場、そう呼んでも決して過言ではない非日常的で幻想的な光景がそこにあった。


「…………」


 なぁ、もう一回、改めて言っていいか……?



 お嬢様学校……やっっべぇええええぇぇぇ!!!!!



 いやもう何度も何度もさ!

 いろんなとこで驚いてたけど!!

 やっぱ改めてすげぇわ!!


 これ学校だろ? なんで学校の食堂利用すんのに予約がいるんだ? なんでウェイターがいるんだ? テラス席とかあるか? 高校生がこんな美しい景色を前に昼飯を食って良いのか?


 昨日は予約をしていなかった為、昼食は教室で食べたのだ。

 だからこの食堂レストランに来るのは初めてなのだが……。


 半端ねぇ…………。


 あたしが呆然と立ち尽くしている内に、琴音達はなんて事のないように椅子に腰掛けていた。


「ミズキちゃーん、座らないのー?」

「あ、す、座る!」


 七瀬に呼ばれてあたしは七瀬の隣に座る。

こいつらやっぱ慣れてやがんな。お嬢様にとっちゃこういうのが日常なんだろうな。


 ちなみに席順は

 七瀬、あたし、琴音、金髪。これを円形にしたものだ。


 あたしら4人は机に座ると、各々が持って来ていた弁当の包みを開き始める。

 そのタイミングでウェイターが透明のグラスに入った水を持って来てくれる。


 どうせこの水も山奥で取れた超天然水とかそんなとこだろう。


 この食堂レストランはもちろん料理をオーダーする事もできるが、こうやって料理の持ち込みも許可してくれている。


 あたしも二段になっていた弁当を開くと、一段目には色とりどりのおかず、二段目にはピカピカの白米が敷き詰められていた。


 子供マザーの料理だ。

 明らかに高級食材の天然鰻が使われたおかずがあったり、かと言ったら可愛らしいタコさんウインナーとかもあったり。


 あいつの弁当……昨日も思ったけどすげぇ手が込んでる。


 ちなみに昨日は神戸牛の料理が入っていた。

 高校生の昼飯に出す食材じゃねーだろまじで。


 全員が昼食を摂れる状態になり、3人の視線があたしに向いていた。


「よし、んじゃあ食うか! いただきます!」


「「「いただきます」」」


 あたしの合掌に合わせて、他の3人も手を合わせた。 


 それから優雅に昼食をとり始めるあたし達。


 自然の景観を楽しみながら食事を進めていく。


「ねぇねぇ、みんなは犬派? 猫派?」

「わたくしは猫派ですね。家でも飼っているんですよ」

「えーそうなんだ! わたしも猫派なんだぁ」

「こ、琴音様は猫派なのですね……くぅ、私は犬派ですわ……ッ!!!」

「ちっ、てめぇもかよ。あたしもわんちゃん派だ」

「あなたと同じですって……!! なんか複雑ですわ!」

「そりゃこっちのセリフだ!」

「ふふっ、やはりお二人は仲良しですね」

「うんうん……喧嘩ばっかりのライバル百合は愛おしいなぁ」にこにこ


「「仲良くなんかない(ですわ)!!!」」


 いつものように談笑しつつ。


 金髪が琴音に媚びるために必死の言い訳をしていた。

「猫も好きなんですのよ!? ほんのちょっぴり犬の方が好きなだけで……!!」


 それを見て七瀬がニッコニコ笑顔を浮かべる。


 なんだか見慣れつつあるその光景にあたしは、小さく微笑みをこぼしていた。


 なんかこういう昼飯も良いもんだな。

 女子っぽいつーか。


 今までは校舎裏でコンビニのパン食うとか、学校抜け出してサイゼ行くとか、そんなんばっかだったからな。


 こいつらとの優雅な食事を良いって感じるのは、あたしにもちゃんと女の子な部分があるって事だろうか。


 なんて、らしくない事を考えながら。


「そういや、お前らさぁ――」


 あたしは3人との食事を楽しむのであった。

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