第15話「4人組始動!」



 聖アルカディア女学園内にある庭園。


 綺麗な花や手入れされた草木に囲まれたそこは、空気が澄んでいて心地のいい場所だった。


 庭園のすぐ側には、紅茶と茶菓子を売っている店がある。

 お嬢様達はそこで紅茶を買い、庭園にある席でくつろぐのだとか。


 かくいうあたし達も、それぞれが紅茶と茶菓子のバタークッキーを購入した。


 そして今、この丸机に腰かけて優雅なひと時を過ごしていた訳だ。

 なんか、あたしすげぇお嬢様してるよなぁ。


 一か月前までは金属バット持ってガラス破りまくってたのに。


 今じゃロンネフェルトとかいう高級紅茶を片手にバタークッキーだぜ?


 人生何があるか分からねぇよな。


 いや、クッキーおいしっ。紅茶も何杯でもいけるな、これ。


 ちなみに七瀬はというと、


「ふふっ、七瀬さんは可愛いですね」

「そうですわね……なんというか庇護欲をそそられるというか、守りたくなるというか」

「え〜〜そんなことないよぉ~〜でへへ」


 めちゃくちゃ打ち解けていた。


 もうホント拍子抜けするぐらいだ。


 確かに七瀬にはなんだか優しくしてあげないといけないような、優しくしたくなるような可愛らしい雰囲気はある。


「そ、それで!!! 西條さんと天宮さんはどういう関係で――むぐっ!」

「「?」」


 七瀬がいつものように暴走しかけたので、あたしは慌てて七瀬の口を塞いだ。

 その様子に琴音も金髪も首を傾げている。


「飛ばしすぎんなバカ! いきなりその話題じゃねーだろ!」

「ん、ぷはっ……そ、そうだね……ふー焦らない焦らない……」


 深呼吸をして欲望を落ち着かせた七瀬は、当たり障りのない会話から始める事を選んだようだ。


「で、でも西條さん、グレーステスト満点だなんてすごすぎるよ」


「そんな事ないですよ……きっと偶然です」

「いや、満点を偶然でとるのは無理だろ。お前の実力だって」

「逆に0点も凄いですわよ。どうやったら0点なんて取れますの?」

「うるせぇな! 寝ちまったんだからしょうがねぇだろ」

「はぁ……まったく、グレーステストで眠るなど信じられませんわ。さすがは蛮族ですわね」

「確かに、わたくしも少し驚きました」

「うっ!!」


 琴音に言われると、ちょっと胸が苦しくなるな。

 ていうかこいつにはシャーペン貸してもらったのに。その上で0点は申し訳なさすぎる。


「でも二人ともいいな〜……1位と2位だったら絶対にご褒美もらえるもんね」

「あ、そうか!! お前らイギリスの王様に会いに行けんのか!」

「別にイギリス王室に行くとは限りませんわ。それは去年の話ですもの」

「今年はどのようなご褒美なのか楽しみですね。ふふっ、天宮さん。ご褒美を一緒に楽しみましょうねっ」

「へぇあ!!? あ、も、もちろんですわ!! 私は琴音様と一緒ならなんだって……♡」


 金髪がたまらなく嬉しそうな顔で頬を紅潮させていた。

 あたしはなんとなしに左隣に座っていた七瀬に目を向ける。


 すると


「あぁ……お嬢様百合は至高……!! これぞ尊みスパイラル……ひぐっ、ぐすっ……わだじ……この学校に入れで、よがっだぁぁ……!!」


 七瀬は天を仰ぎながら涙を流していた。

 こいつはほんとぶれねぇな。


「そーいやよ。明日から授業なのか?」

「いえ、明日はスポーツテストですよ」

「……なに!? スポーツテストだと!?」


 そんな最高のイベントもちゃんとあったのか!

 運動。それはあたしがこの学校で唯一目立てる部分だ。


「わたし運動苦手だなぁ……みんなは?」

「わたくしも……あまり得意では……」


 珍しく琴音が弱気な様子だった。


「へぇ、琴音にも苦手なものとかあんだな」

「はい……昔から運動だけはどうにも苦手で…………」

「麗しいですわ琴音様!! 淑女たる者その儚き弱点も美しさには大事なんですのよ!!」


 金髪がすごい勢いで琴音をフォローする。


 こいつほんと琴音を全肯定するな。


「そー言うお前はどうなんだよ」

「ん、そうですわね……まぁ、あなた如きには負けない程度には自信ありますわよ」

「あぁ? 言うじゃねぇか。んじゃあよ、明日のスポーツテストで勝負しようぜ。どっちがいい成績を残せるか」

「……良いでしょう。ここいらで分からせてあげますわ。あなたは全てにおいて私に劣っていると」

「けっ、上等だクソパズル! ハンカチの準備してろよ、あたしに惨敗して悔し涙流しまくる事になるだろうからな!」

「私の名前は静流です!! ふんっ、こっちこそ上等ですわ!! あなたの方はバスタオルの準備をしておくことですわね! ハンカチじゃ足りないでしょうから!」


 バチバチと睨み合うあたしと金髪。


 ぜってぇ負けねぇからな……!!

 運動はあたしの唯一とも言える長所、特技だ。


 明日を楽しみにしてろ金髪……

 絶対ボコボコにして圧勝してやる!!


「あの、ミズキちゃんと天宮さんって……」

「はいっ。いつも喧嘩ばかりですけど……実はお互いを思い合っていてすごく仲がよろしいんです」

「お互いを思い合う……いつも喧嘩ばかりするけど、仲が良い…………こ、こここ、ここにも百合カプが!!!!」


 琴音と七瀬が的外れな事を言っている声がぼんやりと聞こえてきたが、反応するのも面倒なので無視した。

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