超不良の女番長が日本一のお嬢様学校に通うお話

@sirasu-satou310

第1話「女番長ミズキ、お嬢様と出会う!」

 


「ミズキ姐さんっ! これからどうするつもりなんですか!?」


「うるせぇ!! あたしが聞きてぇよ!!!」


 舎弟の物言いに、あたしは逆ギレ気味に言葉を返した。


 ここは東京にある北橋中学校。

 日本一不良が多いとされる最悪の中学校である。


 あたしこと、神田ミズキは今日この学校を卒業した。


 数多の強敵をぶちのめし、この不良の巣窟で最強の女番長となったあたしは、大量の舎弟を抱えて不良の一時代を築き上げたのだ。


そんなあたしは高校に入り、新たな青春を送るつもりだった。


 また喧嘩に明け暮れてもいい。恋をしたっていい。

 屋上で昼飯食ったり、放課後はダチとゲーセン行って。

 体育祭とか学園祭に全力で打ち込む。


 そんな自由で楽しい高校生活を謳歌するつもりだったのに。


 でも……


「姐さん、高校全部落ちたって冗談きつすぎますよ!!」

「そうっすよ! このままじゃ中卒ニートですよ!?」


「うぅ! だって、まさか全部落ちるとは思ってなかったからよ……」


 あたしは腰まで伸ばした赤髪を触りながら、いじけたように言葉を返した。


 そう、あたしは入学試験に全て落ちてしまったのだ。


 名前を書けば受かる高校だって受けた。でも落ちた。


「何で落ちたんだよっ! 名前を書けば受かるんじゃねぇのか!?」って高校に問い詰めたら、「だって君、名前を書いていなかったから」って言われた。


 あたし、テストで名前を書くのを忘れていたんだ。


 もちろん不良のあたしに学力なんてあるはずもなく、並の高校はシンプルに落ちた。


「あー! マジでどうしよう! どっか拾ってくれねぇかなぁ? 喧嘩で入れる高校とかねぇのかな?」


「そんな高校があればミズキは主席入学だね」


 と、あたしが落とした言葉に返すように女の子の声が聞こえた。

 その次の瞬間、10数人いた舎弟達が一斉に頭を下げる。


「「「カナさん!! お疲れ様です!!!!」」」


「んー。おつぴー」


 気だるげに手を振りながら、ゆったりした声で返したのは黒髪ショートカットがよく似合う美少女だ。


 クールだけど少し気だるげな雰囲気で、すごく整った顔立ちをしている。

 制服の上着を着崩していて、右耳には銀色のピアスが光っていた。


 こいつの名前は三沢カナ。


 あたしと一緒にこの中学校を征服した、世界で一番信頼できるあたしの相棒だ。

 

 まぁ度を超えた女好きで、しかもやるだけやったらすぐ捨てるというド級のクズ野郎ではあるが。


 そんなカナが小さく息を吐いた。


「まぁ冗談はさておいて。ほんとに高校どーすんの?」

「うぐあぁぁぁぁぁぁああああ!! それが問題なんだよぉぉぉぉおお!!!」


 そう。

 あたしの進路が最大の問題だ。

 そもそも今から取ってくれる高校とかあるのか?


 いや無理だろ。

 喧嘩の強さしか誇れるものがない女番長なんて、どこの高校が入れてくれるって言うんだ。


 ちなみにカナは普通に受験して合格しやがった。

 しかも偏差値60以上の高校に。

 元々かなり頭がキレるやつだし、勉強は得意なのは知ってたけど……女番長の相方が賢いはねぇだろ。


 お前もアホであれ。


 カナがあたしの肩に手を置き、そして微笑みを携えて言う。


「まーでもだいじょぶだいじょぶ。人生なるようになる。おそらく多分わかんないけどひょっとすると?」

「脊髄で喋んなボケ!! 他人事だと思ってよぉ……!!!」

「他人事なんて思ってないよ。付き合いで分かるでしょ? いつも通り私にできる事があれば何でも協力するから。何か手伝おうか?」


 カナがあたしの目を真っ直ぐ見て告げる。

 今度は真剣な眼差しだ。


 昔からそうだった。


 いつでもカナはあたしに献身的で、あたしが困ってたら全力で助けてくれた。

 この中学校の頂点に立てたのも、カナが側でサポートしてくれたからだ。

 もう何年もずっとお世話になってる。


 正直なぜあたしにここまで肩入れしてくれるのか分からないが、これ以上頼る訳にはいかない。


 もうこれ以上カナに迷惑かけちゃダメだよな。


 あたしはカナにハッキリとした声で告げる。


「……いや、大丈夫。とりあえず色々調べてみるわ。ありがとな」

「そっか。分かった」


 カナの返事を聞いてから、周りで心配そうな顔を浮かべる舎弟達に視線を向ける。


 こいつらもあたしを慕って、色々と尽くしてくれたんだ。


 まぁ基本的には飯代とかスイーツ代、ゲーセン代とか、金銭面を支払わせてた感じだけど。


 それでもあたしの日常を彩ってくれた。


「お前らにも長い間お世話になったな。高校は……何とかする。だから心配すんな。今までありがとうなっ!」


 みんなを安心させるように笑顔を浮かべて、あたしは中学校を卒業したのだった。



 ※ ※ ※



「はぁ、にしても高校どうすっかなぁ~」


 家に向かいながら考えていたのは高校の事だ。


 みんなに勢いよく言ったはいいが、正直高校に入る方法なんて全く思いついていない。


 確かに高校に入らなくても生きていくことは出来る。


 だけど中卒ってのは、このご時世良くないだろうし、何よりあたしは楽しい高校生活を送りたいんだ。


 だけど高校に落ちてちゃどうしようもねぇよなぁ……はぁ、マジでどうしよ。


「ん?」


 憂いを抱えながら歩いていると、目の前から一人の男が走って来るのに気が付いた。


 その男の後ろを、一人の女の子が必死そうに追いかけている。

 女の子は純白のワンピースに高級そうなハットを被っていた。


 すんげぇ清楚な格好だな。

 あんな姿じゃ走りづらいだろ。


 ていうかなんで走ってるんだ? 街中で追いかけっこ?


 だがその疑問は、女の子の叫び声によって解消される事になる。


「ど、どなたか! そちらの男性を止めて下さい! 窃盗ですっ!!」


 その声で状況に納得がいった。


 つまり、今あたしの方に向かってきている奴が窃盗犯って訳だ。


 男には不相応な可愛らしいバッグを、男が右手に持っている事からも間違いないだろう。


 まぁ、別にあたしに関係する話じゃない。


 第一何かを奪われる方が悪いんだし。

 知らない奴を助ける義理も無い。


 窃盗犯を止める気も無く、そのまま歩みを進めていく。


 だが窃盗犯はあたしが止めに来ていると認識したらしい。


 男が威圧する様な形相で声を張り上げる。


「おい邪魔だ!! どけッ、クソアマッ!!!」


「…………あぁ? 今、なんて言った?」


「え――――ふがぁぁっ!!!!」


 瞬間。

 あたしは反射的に腰を捻って、窃盗犯に回し蹴りを炸裂させていた。


 回し蹴りは窃盗犯のあご先にヒットし、男はそのまま吹き飛んで行く。


 それと同時に、可愛らしいバッグが宙を舞い、道端へと落ちていった。そしてそのまま倒れ伏す窃盗犯の元に歩いて行って、そいつの首元を掴み上げる。


「てめぇ、今あたしの事クソアマって言ったよな? よ〜く覚えとけ。あたしの名前は神田ミズキだ。今度あたしをバカにするような事言いやがったら、全治6ヶ月じゃ済まさねぇからな!!!!!」

「ヒ、ヒィーー!」

「警察に連れてくのもダリィし今日は見逃してやる。分かったら鼻の骨をへし折られねぇ前に消えろ」

「す、すんませんでしたー!」


 窃盗犯は急いで起き上がると、すたこらと逃げるように走り出して行ったのだった。


「けっ、ザコが調子乗ってんじゃねーよ」

「あ、あの、ありがとうございました」

「ん?」


 背後で穏やかな声が鳴る。

 後ろを振り向くと、そこには一人の女の子が立っていた。


 長く伸ばした綺麗な白髪に、クリッとした碧眼が見事に調和している。前髪はパッツンと綺麗に揃えられていて、なんともお淑やかで高貴な雰囲気を醸し出していた。


 お人形さんみたいに可愛らしく、綺麗な女の子だ。

 一言で言うならザ・お嬢様って感じ。


「気にすんな。ほら」


 あたしは道端に落ちていた鞄を拾い上げて、その女の子に手渡してあげた。


 にしてもなんだろう。鞄を触った時のあの感触。

 すごく高そうな革の材質だ。いや分からんけど。


「ありがとうございます。あの、お名前を聞いてもよろしいですか?」

「ん、神田ミズキ」

「わたくしは西條さいじょう琴音ことねと申します」


 お嬢様が丁寧に頭を下げる。


 わ、わたくしだって……? 

 こいつ今わたくしって言ったぞ、


 まじもんのお嬢様だ。

 まぁ確かに服とか、あたしが一生着ないようなの着てるもんな。


「そうか。んじゃあ今後は気を付けろよ」

「あ、待ってください!」

「んだよ?」


 歩き出そうとしたあたしの手をお嬢様が掴んだ。


 とっさに腕を掴まれてしまい、いつもの癖でお嬢様を睨み付けてしまう。

 が、彼女が怯んだ様子は少しもない。


「何かお礼をさせてください! わたくしに出来る事なら何でもしますからっ!」

「お礼……?」

「はいっ。その鞄にはすごく大事なものが入っていて……だから取り戻してくれて本当に助かったんです。ですから、お礼をさせてくれませんか? 本当になんでも大丈夫ですよ!」

「なんでもって……お前なぁ……」


 お嬢様はあたしの目つきが元に戻った事を受けたのか、ゆっくりと手を離してくれた。


 にしてもお嬢様からのお礼か。


 見た感じこの子は相当のお嬢様だ。

 おそらく『なんでも大丈夫です』と言うのも、本当になんでも大丈夫なのだろう。

 だから1億円をちょうだいと言っても、多分くれそうな雰囲気がある。


 1億円もすごく魅力的だけど、今のあたしにとってはもっと大事な事がある。


 どうしても叶えたい願い事が。

 それが無理だったら1億円にしよう。


 いや100億円にするわやっぱ。


 最優先のお礼を決めたあたしは、それをお嬢様に告げた。



「あのさ…………。あたし高校受験に失敗しちまって。だからどっかの高校に行きたいな~〜〜なんて……さ、さすがにそれは無理か?」



 家族でも無い他人を高校に行かせるなんてできる訳が無い。


 分かってはいる。ダメ元で聞いただけだ。

 でもお嬢様はあたしの言葉に、あっさり頷いて見せた。


「大丈夫ですよ。わたくしが春から通う高校にいらっしゃればいいんですよ」


「……へ?」

「だから、わたくしが春から通う高校に招待して差し上げますっ」


 お嬢様の快諾にあたしは目を点にしてしまう。


「……」


 ま、まじで?

 そんな事できるの? 

お嬢様だからって権力あり過ぎじゃない?


 で、でも高校に通わせてくれるなら願ったり叶ったりだ。


 ていうかお嬢様あたしとタメ年だったんだ。


「それは嬉しいけどさ。招待なんてできるのか?」

「はい、だってわたくし。理事長の娘ですから」


 お嬢様は笑顔で告げるとスマホで誰かに電話をかけた。


 理事長の娘……?


 あたしはその単語に悪寒を感じざるを得なかった。

 いやそもそもだ。よく考えれば分かるだろう。


 このお嬢様が通う学校が普通の学校な訳ないって事くらい。


「あっ、お父様。実はこれこれこういう事情で、神田ミズキさんという方を入学させたいのですが……はいっ! ありがとうございます!」


 電話を済ませたお嬢様は、こちらを向いて微笑んだ。


「お父様が許可してくれましたっ。そういう事情ならぜひお礼をさせて欲しいと!」

「ま、まじか…………ところでさ、お前が通う高校って」

「ああ、それを言っていませんでしたね。わたくしが4月から通うのは、【聖アルカディア女学園】という高校ですよ」

「せ、聖アルカディアってまさか……!」


 その名前はあたしでも聞いた事がある。


 偏差値75を誇り、しかも業界トップの娘しか入学できないという日本一のバケモンお嬢様学校。


 偏差値30の高校に落ちて、女番長をしていた不良が入れる道理が存在しない学校。


 でも、あたしが4月からそこに通うってのか……。


 正直身の丈に合っていなさ過ぎて断りたい。

 でもこの機会を逃せばいつ高校に入れるか分からないし……だから断ることなんて出来ないわ。



 これは革命的な出来事だな。


 超不良の女番長は、どうやら日本一のお嬢様学校に通う事になったらしい。

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