自分の部屋が牢屋に見える

秋 四月

01.自分の部屋が牢屋に見える

自分の部屋が牢屋に見える。


上京して1年と4ヶ月ほど経った。

実家からは絶対に出たかった。それは実家の居心地があまりにも良すぎるから。


僕が実家に住みながら社会人になっていたら、

間違いなく、すぐニートになっている。


親に甘えて、社会から逃げて、自室でDSと漫画と自慰行為を行ったり来たり。

そんな未来が容易く見えた。だからどうしても実家は出たかった。




地元を離れ、東京で一人暮らしを始めた。

僕は3日に1日くらいのペースで、死にたいなんて考えてしまっている。

でも自殺なんて勇気ある行動はできない。絶対に苦しいからだ。


そんな病み期アピールの面倒な女子中学生のような戯言を繰り返し、

社会に対して「仕方ねぇな」なんて思いながら仕事しているのだが、

自分は最近、こんなことを思ってしまう。


自分の部屋が牢屋に見える。




自分の部屋が牢屋に見える。

自分の部屋が牢屋に見える。

自分の部屋が牢屋に見える。


木造アパートの1階。1Kの狭い部屋。収納の少ない部屋。

壁紙だけはオシャレな部屋。(少しでも人生のモチベーションを上げるため)


そんな自分の部屋がなぜか最近牢屋に見えて仕方がない。


僕の全てがここで完結している。

仕事は在宅勤務が多い。ベッドの上でPCを触って、やる気のあるフリをして

ほんとはただ時間が過ぎるのを待っている。


東京に友達がほとんどいないので、平日も休日もここにいる。

面倒くさがり屋なので、この現状を変えようという気もなく、

ネガティブにネガティブが混ざり、快晴の日も曇りに感じる。


ずっとここにいる。ここから出られない。

今もこの暗い部屋でこんな戯言をツラツラと書いている。


そんな自分と対極な存在が、僕の身近にいる。


兄だ。




僕の兄は子供の頃からスターだった。

いつも兄の周りには楽しそうな人が沢山いた。

僕もその中の1人で兄を眺めていた。


兄も東京に住んでいる。僕の身近な存在で、最も尊敬できる人だ。


兄には度々、本音を話している。


自殺願望があるわけではないが、子供の頃から生活が辛くて仕方がない。

ご飯を食べる、お風呂に入る、トイレをする、その1つ1つが辛くて仕方ない。


自殺がしたいわけではないが、苦しまず寝てる間にスッと死ねるなら最高だなんて考えている。


兄は、そんな僕の本音を笑って聞いている。

お前は自殺はしないと言って笑っている。


この日も僕は、兄の部屋を出て自分の部屋に帰るとき、

「あぁ、あの部屋に帰るのか」と思ってしまった。


自分の部屋が牢屋に見える。



もう興味のあることは全てできた。

人生に悔いがない。本当にない。別に明日死んでもいい。

やりたくもない仕事をして、年金と税金を納める日々が続く。


結婚願望もない。子供も欲しくない。

そのどちらも怖くて仕方がない。


僕はこの牢屋で一生を終えていい。



なんて考え事をしていると、インターホンが鳴った。(ような気がした)

モニターを見てみると、そこには小6の僕が立っていた。(ような気がした)






夜遅くに子供を外で立たせるわけにいかないので、とりあえず中に入れる。


小6の僕は、僕の顔を見るなり

「僕とそっくりだね」なんて冷笑してきた。


外では明るいフリをして、本当は暗い。

吃音症という発話障害を持っていて、上手く話せないことがある。


相変わらず吃りながら、小6の僕は話を続ける。


僕は大人のふりをして、彼にオレンジジュースを淹れてあげて

「うんうん」なんて話を聞いている。


小6の僕はずっと小さな自慢話をしていた。

僕はそれを馬鹿にしながらも聞いている。


15分ほど話を聞いたところで、

小6の僕は

「お前本当は人に構ってほしいだけなんだろ」

と核心を突いてきやがった。


僕は小6の僕を殴り飛ばして馬乗りになる。


まだガキのお前になにが分かるんだ。

大人になれば、力のあるものしか構ってもらえない。

ガキの頃は力がなくても周りの大人が構ってくれるが、

社会はそうじゃないんだよ。誰からも見られなくなるんだよ。


顔を殴り続け、もう小6の僕の顔は原型がなくなってきている。

ごめんなさいなんてテキトーな言葉を並べてくるが関係なかった。


完全に息の根が止まり、そいつは死んだ。

僕は清々しい気持ちで眠りにつく。




小一時間眠って目が覚めると、牢屋にいた。

そこは牢屋のように見える僕の部屋だった。


僕はここから出られない。


明日は月曜日。


僕たちは将来への漠然とした不安を抱えながら

社会の歯車になって、時が過ぎるのを待つのだ。

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