ヴァイスハイト戦記~エルヴィンの章~終章

 Side エルヴィン・シュターゼス


 イスズ市にある学校。


 そこがイスズ市の敵兵の本拠地だった。


 もしかすると他にも拠点があるかもしれない。


 僕のクリーガーⅢは敵に奪われた。


 その変わり運動場に幾つも置かれたプレハブ小屋に放り込まれて想像よりも快適な衣食住を提供してくれた。


 それよりも驚いたのは――


「ミシェル、生きていたのか!?」


「そっちもね・・・・・・」


 ミシェル・カーチス。

 僕と同期のフリスト隊で勝ち気な少女。

 ブラウンの長いツインテールが特徴の女の子だ。

 

「エルヴィン、生きてたんだ・・・・・・」


 他にも同期で同じ隊の灰色髪の不思議な雰囲気を身に纏う少女、ブリジット・シュラウなどもいた。

  

「他にも何人か捕虜として捕まってるわ」


「酷いことはされなかったのか?」


 そう言われてミシェルは「うんうん」と首を横に振る。


「あんまりシャワーとか浴びれないだけでよくしてもらっている。反抗的な子とかもいたんだけどね――どうにか区切り付けてやっていってるみたい」 


「そうか・・・・・・」


 ここまで心を擦り削るような激戦が続いた中で思わぬ喜びだった。





 心にある程度ゆとりが出来たせいか復讐心のような物が湧いたが、徐々にだがおかしい部分があることに気づいた。


 学校を拠点としている兵士達の殆どは年齢は僕や同期の人間と変わらない。


 中には年齢が低い女の子もいた。


 どう言う事か分からなかった。


 少年少女の兵士達に囲まれ、手錠をかけられ、上等な部屋に運びこまれて、


「どうも、尋問を担当する谷村 亮太郎です。階級は曹長です」


 と名乗る少年が尋問してきた。


 とっぴつするべき特徴や体格はない。


 軍服を着ていることから僕と同じ応軍人らしい。


 他にも付き添いで何人か軍人がいるが彼達も歳は変わらない。


 黒髪でやや身長が高めな典型的なニホン人少年の姿だ。


「ヴァイスハイト軍フリスト隊所属エルヴィン・シュターゼス曹長です」

 

「どうもご丁寧にありがとうイスズ市の――まあ本隊から見捨てられた愚連隊だな。ヴァイスハイト軍の勢力圏内で死んだと思われてるのか、それとも死んだ方が都合が良いのかと思われてるのか」


 そう言ってその場に居合わせたニホン兵は笑った。


 敵の事が分からなかったがどうやら僕とは違ってエリートコースとは逆の人間らしい。


「君達が――イスズ市の敵兵なのか?」


「俺達以外にもいたら教えて欲しいね――たぶん俺達だろう」


「・・・・・・」


「顔が恐いぞ? 俺達に身内でも殺されたのか?」


 そう言われて僕は否定せずに「そうだ」と返した。

 目の前の連中に仲間を殺されたのだ。

 差し違えてでも殺すべきかと悩み始めている。 


「もうこの際、恨むなとは言わないからヘタな真似はするなよ。折角生き延びたんだ。五体満足で故郷の地を踏む権利ぐらいはあるだろう」


「それで納得しろと言うのか?」


「納得しろ、しないの問題じゃない。俺達は戦争してるんだ。銃口を向けられたら撃たれる前にやらなきゃこっちが殺されるんだ」


「・・・・・・だが」


 そう言われて動揺した。

 怒りと理性が頭の中でせめぎ合う。


 暫くして、落ち着いた後に再び尋問は開始された。


「理性的な人間だな君は。殴りかかられるぐらいは覚悟してたんだけどね」


「・・・・・・」


「悪い。何か喋りたいことがあったら言って。一応捕虜収容所に送るぐらいの手配はするから」


「君達は平気なのか? 敵兵が目の前にいるのに」


「言ったろ。戦争してるんだよ。俺達――正直俺も戦争に参加したくはなかった」


「どうして戦争に?」


 自然と尋ねた。


「愛する家族を守りたかったし楽させたかったと言うのもあるがな・・・・・・ぶっちゃけヴァイスハイトの統治が完璧な物なら傭兵としてあんたらに加勢する事も考えたかもしれないな」


「なっ!?」


 家族を守りたいと言う気持ちは分かる。

 だが条件次第では自分達に加勢したかもしれない?

 それはどう言うことだろう。


 その気持ちを知ってか目の前の少年は「少し歴史の授業をしようか――」と語ってくれた。


 そう言って彼はニホンの歴史の授業を教えてくれた。


 一応僕達はニホン進行の際に、ある程度ニホン軍のことについて教えられていたが――


 まずこの国は戦争を仕掛ける以前から既に経済的、政治的に末期の状態だったらしい。


 徴兵制もこの国では嘗ては信じられないことだったそうだ。


「民主主義の成れの果てと言う奴だ。ジャーナリズムを盾にして利益だけを追求するマスメディア、権力を後ろ盾にして甘い汁を啜る事しか考えてない政治官僚、そんな連中をお行儀良く眺めて反対の声をロクに挙げなくなった国民――そうなった時点でこの国の未来は決まっていたんだよ」


「じゃあ君は国が滅んでもいいと考えてるのか?」


「正直言うとNOだが、滅んでも仕方のない国だとは思っている」


 その言葉の他のニホン兵士も言葉を発さなかった。

 ただ、どこか寂しそうな表情をしていた。

 

「愚痴を吐いて悪かったな――戻ってもいいぞ」


「情報とか聞き出さないのか?」


「聞き出して欲しかったか? 生憎俺達は友軍から見捨てられてんだよ。だからと言って古今東西敵に捕まったらどうなるか分かりはしない――そう言うことだ」


「そうか」


 これがイスズ市の部隊と本格的に言葉を交わした時のことだった。


 初めて僕はこの戦争に対して疑問を感じた。



 Side エルヴィン・シュターゼス



 イスズ市の部隊には一応何名か大人がいるらしい。

 

 だがやる事が多くて手が回らず、僕と同い年ぐらいの子が前線指揮を執っているようだ。


 とても小さな口の悪い女の子がそう教えてくれた。


 僕の見張り番は交代制らしく、色んな少年少女の兵士や時折大人の兵士がくる。


 ミシェルは仲良くなっているらしい。


「仲良くなれたんだな――」


「うん。私も最初は色々と思うところがあったけど、戦争だもん。私達が競うように殺した兵士にもそれぞれの人生があった――ただ一方的に殺しておいて自分の番がきたら文句を言うのも筋違いって奴なんでしょうね」


「それ、あの口の悪い女の子に教えられた言葉か?」


 言葉の感じからして、ミシェルの言葉はそれの受け売りではないかなと思った。


 ミシェルは否定せず「やっぱり分かる?」と返した。


「まあ、実はと言うとね――ここって一応監視付きだけどテニスコートとかで運動できたりするのよ。そこに移動する途中に見たのよ」


「なにを見たんだ」


「お墓だよ」


 話に割って入るようにブリジットが言った。


「正確には共同墓地。ここで死んだ人達が埋葬されてるの。私達の部隊の人達も埋葬されてる」


「そう・・・・・・か・・・・・・」


「頼めばお墓参りは許して貰えると思う」


「分かった。そうしよう」


 そう心に決めたのであった。



 それから少しの時が経ち、僕の戦争は唐突に終わりを告げた。


 そして戦いは逃避行に移った。


 敵味方を巻き込んだ核兵器の使用。


 そしてイスズ市の人間の国家反逆罪と討伐隊の編成。


 正直ワケが分からなかった。


 だがイスズ市の隊長は「とうとうこの日が来たか」と落ち着いた様子だった。


 更に驚いたのは僕達の愛機を整備が万全の状態で、更に武装も施した状態で返してくれたことだ。


「どうしてここまで……」


「戦争は終わった。俺達もすぐにこの地を立ち去る」


「どうしてそんな冷静なんですか!? そもそもどうして国家反逆罪に!?」

 

「俺達は――元々はただの平凡な学生だ。それを無理矢理、前線送りにさせられて――お偉方は復讐される前に殺しておこうと考えたんだろう」


 僕は「……狂ってる」と呟くが、


「ああ、この国は狂ってるんだよ」と即答された。


 話を変えて僕は、


「行くアテはあるのか?」


 と、尋ねる。


「まあ幾つかはな――他人の心配より自分の心配をしろ。早く行った方がいい」


 最後の最後まで素っ気ない対応だった。


 僕は思わず苦笑する。



 イスズ市を出て、味方部隊との合流を目指す。

 ご丁寧に敵である僕達の味方部隊の推定位置、行動予測範囲まで教えてくれた。

 

 だから容易に味方部隊に合流し、日本軍の追撃を交わしながら僕達は撤退して行った。


 それから色々な事が起きた。


 日本の内乱の激化。


 アイン・ミレニアの出現。


 日本国内で起きたクーデター。


 我がヴァイスハイト帝国も戦線を縮小し、部隊を撤退させていく。


 そしてヴァイスハイト帝国は暫く大きな軍事行動は出来ないまでに国力が低下した。


 更に言えば国内世論が平和主義に傾きつつあるため、以前の帝国のように軍事侵攻をするのは何時の日になるのやらと言う状態だ。


 だがこれで良かったのだろうとも思う。


 こうして僕の戦争は幕を閉じた。

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