第6話

第??話


「……じゃあ、なんでお前は覚えているんだ。

今までの500回分を」


俺は冷や汗をかきながら彼女に尋ねた。


だが、返ってきたのは分からないという呟き。


「分からないのだよ。

ボクだって覚えていたくないのだ。

……それでも、繰り返す前に夢術が暴走するのだよ」


彼女は自分の手を握った。


___かんじる


それが彼女の能力名だったか。


「時間が巻き戻る前に、それまでの感覚を全て引き継いじゃうんだと思うのだよ。

……だから、ボクだけが覚えていられる」


覚えていられるという言葉は、どこか皮肉っぽく響いた。


「ボクからしたら、なんで先輩が覚えているかの方が不思議なのだよ。

確かにカマを掛けたのはボクなのだけど……意味なんて求めてなかったのだ」


「そ、れは……」


キッカケは、姉からの手紙だった。


___ならば、それはどうやって今俺の手の中にあるんだ?


時間が巻き戻っているのなら、手紙がここにあるはずがない。


「俺だって、分かんねぇよ」


吐き捨てるように言ってしまう。


「……残念なのだよ」


ゆっくりと言った彼女は、意外と残念そうには見えない。


落胆というよりも諦めた雰囲気の方が強かった。


「まぁとにかく」


彼女は俺の横をすり抜けていく。


「……ボクは先生を信じるのだよ。

だから先輩も早く忘れた方がいい」


廊下を歩く彼女の背中が遠くなる。


彼女の歩いていく方向は、彼女の教室とは逆方向だった。

その先にあるのは、部室棟。


……向かうつもりなのか。


“先生を信じる”などと口では言っていても、それでも不安なのだろう。


500回分の1週間を、その人生を信じていたいのだろうけれど。



俺は彼女の名前を呼んだ。


彼女はほんの少し肩を揺らしただけで、歩みを止めることはしない。


俺は構わず続けた。


「___烏羽盛春って知ってるか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る