オラストラン①『GRID』

第1話『GRID』


「おっはよぉ~~!!」


 朝から騒々しい声が教室中に響く。このものすごく元気の良さそうな女の子の名前は、山吹 奏。高校二年生にして陸上界期待の新星。今日も今日とて、彼女ほどポニーテールが似合う奴はそういないだろう。


「おはよう……」


 そう言って愛想笑いを返した僕は、懐 陽彩。これといった特徴のないごく普通の男子高校生。ただ一つだけ普通じゃないところがあるとすればそれは――――いや、なんでもない。


 キーンコーンカーンコーン♪


 チャイムが鳴ると同時に担任の教師が入ってくる。いつも通り朝のホームルームが始まったかと思いきや、どうしたわけか突然教壇に立った教師の顔が曇った。


「えーっと……みんなに伝えなければいけないことがあるのだが……」


 何事だろうとクラスの全員が耳を傾けている中、先生はおもむろに口を開いた。


「なんと!うちの学校に転校生が来ることになった! しかも女子!」


 先生はぱっと目を見開いて、今までの薄暗い顔が全部演技だったと分からされる満面の笑みを浮かべて言った。


(うわぁマジかよ!! こんな時期に?し かも女子!? これはもう運命的な何かを感じるぜ!!! ……というか先生が「しかも女子!」とか言って大丈夫なのか⁉ まあいいや!)


 ……みたいな感じに心の中で歓喜の声を上げる僕。


「じゃあそろそろ入って来てくれ」


 ガラガラガラ……。ゆっくりと繊細にドアを開ける音が数秒聞こえたかと思うと、そこには一人の少女が立っていた。


 肩まで伸びた髪は艶やかな漆黒で、瞳の色もまた同じく黒い。肌の色は透けるような白さで、まるで人形を3Dめがねでみたような……たとえがうまく思いつかなかった。身長は高くもなく低くもないちょうどよい高さである。


 で、今まで物凄くグッドなポイントを挙げてきたが…………さらにも~っとグッドなポイントがあるのだった。そう、彼女を説明するとなれば、特筆すべきはやはりそのスタイルであろう。胸は大きくはないが程よく膨らんでいて腰回りはくびれており脚は長くすらりと伸びている俺の理想的人民。どストライク。一言で表すならモデル体型って感じだな。うん、控えめに言って最高です……!


「初めまして。私は雪村 真冬と言います。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げる彼女の姿はとても礼儀正しく、育ちが良いことがうかがえる。そして自己紹介が終わると同時に再び顔を持ち上げると、今度は僕たちの方に視線を向けた。


「あっ」


 思わず声が出てしまう。明らかに俺と目が合ったのだ。彼女は一瞬微笑んだ。ただそれだけなのに見惚れてしまった。天使のような笑顔だった。


 彼女はその後、先生に誘導された席へと向かう。窓側の、一番後ろの席。俺の席の――真後ろである。

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