蓮の花
梅林 冬実
蓮の花
薄墨色の煙がすぅっとたち
つと空間で歪む
香炉に真っ直ぐ挿された香は
ほんのり甘い香りがして
少し近付いてみる
年老いた祖母は仏壇相手に
何やら必死に拝んでいる
何を拝んでいるのかと聞けば
「あんたのこと」
と教えてくれる
僕の将来と幸せを
祈ってくれているそうだ
じいちゃん相手に
ちょっと照れくさい
夢を見た
神妙な顔で語る
蓮の花に真っ直ぐ挿された香の先
真赭に染まって
細い煙が立ち上っていたのだそうだ
「ありがたい」
「じきお迎えが来る」
祖母は言う
なんでそんなこと言うのかな
僕は思う
いつお迎えが来てもいい
言いながら
夜は刺身が食べたいという
いつでも死んでいいなら
食べ物なんて何でもいいんじゃないの
なんて言ったら
母にぴしゃりはねられ
僕は首を傾げる
いつお迎えが来てもいいって言ってたよ
黙れと怒鳴られる
ばあちゃんが大事なら
ばあちゃんの願いが叶うよう
思っていいんじゃないの
やっぱり黙れと怒鳴られる
祖母はゆるりと
泉下の客になりたいのだと僕は思う
自分のペースで
誰にも邪魔されることなく
祖父が待つ天上へ旅立ちたいと
山あり谷ありの人生だった言っていた
いつお迎えが来てもいいと言っていた
十分生きたとも
でも刺身が食べたいと言い
僕の幸せを祈るという
僕ばあちゃんのこと好きだよ
そう伝えたら
にこにこ笑って
ありがとねと言う
だからあんまり
お迎えがなんて言わないで
そうお願いすると
にこにこ笑って
そうだねと頷く
蓮の花は綺麗だけどさ
ちょっと甘い香りがするらしいけどさ
まだしばらくはじいちゃん相手に
僕の幸せを拝んでいてほしいんだよね
頑張って幸せになるから
蓮の花 梅林 冬実 @umemomosakura333
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