おまえのスーツ

めいゆ

おまえのスーツ

「あの先生、ちょっとやっつけてみる……?」


 昨日の夜中にリビングで、こんな時間だけど甘いもの食べちゃう?と聞いてきた時と同じトーンでくゆりはそう言った。


「どうやって?」


 今日買ったシュークリームいっちゃう?と答えた時と同じトーンで私はそう答える。背中を丸めて前屈みになっていたくゆりが肩越しにゆっくりと振り返る。日にあたっていつもより明るい栗色につやめく、少しウェーブのかかった柔らかな髪が肩からこぼれ落ちた。



「あのね、また葦原先生に放課後に資料室おいでって誘われた」

「またぁ?葦原マジでキモいね」


 学校からの帰り道。

 背中から聞こえてきたぼやきに、私は自転車を漕ぎながらそう言った。葦原は日本史の教師で、くゆりのクラスの担任でもある。自分のお気に入りの生徒を見つけてはほぼ私物化された日本史資料室に誘い込もうとする不届きな教師だ。くゆりは学級委員でもあるのでクラスの課題の回収等で先生との接点も多く、これまでも何度かこういうちょっかいを出された話を聞いている。


「あいつ自分が生徒に人気あると思って調子に乗ってると思わない?」

「まぁ実際先生のこと好きな子多いしなぁ」

「それね、うちが女子校だからチヤホヤしてもらえてるってだけだと思うのよ」

「ひづる手厳しいなぁ」

「ねぇ、日本史の授業の時だけノートの回収別の人にやってもらったらいいんじゃない?長瀬さんとかに頼んでみなよ、あの人葦原のこと好きじゃん」

「え、そうなの?今度お願いしてみようかな」


 腰に回された腕にきゅっと力が入り、というかひづるなんでそんなこと知ってるのぉ?と、くゆりがくすくす笑う振動が背中に響く。

 学校から家まで続く一本道。両脇に植えられた桜の木は、今は青々とした葉っぱを茂らせ地面に木漏れ日を落としている。淡く漂うひなたの熱気を吹き流す向かい風が心地良い。


「あ、ひづる。途中でスーパー寄ってもらってもいい?今日ママ遅くなるから買い物して帰らないと」

「了解、じゃあ今日はそっちいこうかな。晩ごはんのメニューは?」

「ナスとトマトの揚げ浸しと、豚肉の梅ポン酢焼きと、あとオクラとちくわの醤油マヨ炒めです」

「わ、最高!」


 くゆりの家は母子家庭でお母さんの帰りが遅くなることが多いので、小学校の頃からごはんを作るのはくゆりの仕事だ。うちとは徒歩3分くらいの距離なので、昔からくゆりママの帰りが遅くなる日は、くゆりがうちにごはんを食べに来るか私がくゆりの家に食べに行くのが習慣になっている。


「私が自転車に乗れないばっかりに……いーつもすまないねぇ、ひづるちゃん」

「くゆりってさ、たまにそういうおじいちゃんみたいなこと言うよね」

「ひど!なによぉ、今日はひづるの好きなシュークリーム買ってあげようと思ってたのに。やっぱりやめようかな」

「え!……ありがとねぇ、くゆりちゃん」

「あはは、そういう素直なとこすきよ」


 くゆりは笑いながらそう言って、私の背中におでこをこつん、とぶつけてくる。少し汗ばんだ手でハンドルを握り直しながら、私も一緒になって笑う。




 買い物を終えた私たちは、スーパーの脇にある小さな公園で一休みしてから帰ることにした。さっき買ったばかりのカルピス味のパピコを揉みながら、ブランコに揺られているくゆりを眺め、また少し痩せたかな、とぼんやり考える。バッグからハンドタオルを取り出して、くゆりの元へ向かう。


「ほい」

「ありがと」


 パピコにタオルを巻き渡してあげると、くゆりは冷たくなった手をグーパーしながら受け取る。ほのかに赤くなっている色白の細い指先にはぁはぁと息をかけながら「そういえば、そろそろ受験説明会じゃなかったっけ」と呟くくゆりの言葉に、そんなイベントもあったなと思い出す。

 私たちが通う中高一貫の私立女子校では、毎年6月の頭に受験生やその保護者に向けた学校紹介のイベントを催す慣習がある。学校行事の紹介コーナーや生徒による学校案内などがメインで、新学期が始まって最初のイベント事というのもあり比較的力を入れて参加する生徒が多い。

 在校生の間では、普段はラフな格好をしている先生たちがここぞとばかりにしっかりとしたスーツで決めてくるのが密かな楽しみにもなっている。


「やっぱりさ、スーツ着てる人ってかっこよく見えるよねぇ」

「間違いないね、物理の山岡先生だっていつもよりちょっといい感じに見えるもん」


 私は、最近生徒に指摘されて生え際の後退を気にし始めたらしい中年教師の名前をあげる。普段からやや天然でマイペースな先生だが、スーツを着るとやはりパリッとして見える。


「今年もまた葦原に騙される生徒が生まれちゃうのかなぁ」

「もしときめいてそうな子がいたら、あの先生はやめておいた方がいいよってこっそり教えてあげようね」


 少し声を落としてそう言うくゆりと額を寄せ合ってくすくすと笑う。

 去年同じクラスだった浅木さんは、受験説明会で見かけた葦原目当てで他の学校を蹴ってうちに進学したらしい。当時は外面に騙されてしまったが、入学後にあれはただの女たらしだったと気がついた、と嘆いていた。


「葦原が保護者向けの学校説明してる時にさ、先生ぇ資料室に連れ込みたい生徒いましたかー、って聞いてみる?」

「えぇ、何それ!」

「さすがに意地悪すぎ?」

「ううん、ちょっと面白い」


 ゆっくりとブランコを揺らしていたくゆりは、ふと屈んでローファーに落ちたパピコの水滴を拭う。


「ねぇ、ひづる」


 くゆりがぽそっと呟く。


「あの先生、ちょっとやっつけてみる……?」


 背中を丸めて前屈みになっていたくゆりが肩越しにゆっくりと振り返る。いつもの柔らかいトーンでなんてことない事のように、不穏な言葉をこぼす。


「どうやって?」


 私は尋ねる。

 長いまつ毛に飾られた大きな目をふっと細めて、白い頬に小さいえくぼを作る。

こうして時々悪いことを言い出す時のくゆりは、この世で一番きれいだ。


「たとえばね、受験説明会の日に先生がきてくるスーツを盗んでみる、とかどう?」

「スーツ?」

「そう、あの人いつも結構いいスーツ着てるけど、外部の人がくる時に着てるスーツって特に高そうじゃない?」

「そんなのまじまじと見たことなかったよ」


 嫌いな人間の服装を観察しようなどと思ったこともないし、そもそもスーツの良し悪しなんて見ても分からない。くゆりはよくわかるな、と感心してしまう。


「特に受験説明会はうちの学校をアピールしたいわけだから、先生方って大体みんないい服着てることが多いのよ。かっこつけようと着てきたいいスーツを無くしたら、絶対ダメージ受けると思う」

「精神的にも金銭的にも?」

「そうそう」


 たしかに、直接本人に制裁を与えるのは気がひけるが、持ち物にダメージを与えるくらいであればなんだか出来る気がした。言葉通り「ちょっとだけ」やっつけるのに適しているように思う。


「いいじゃん、じゃああいつのスーツをやっつけてやろうよ」

「盗んだあとどうしよう?ゴミ箱とかに捨てる?」

「せっかくならもっと汚いところに捨てたくない?プールの脇の木が植ってるとことか」

「なるほど。あのじめじめした土のところか……ていうか埋めちゃう?もはや」

「え!面白そう、埋めてみようかスーツ」


 かくしてくゆりと私はセクハラ教師のいいスーツをやっつけてやることにした。

 私はじっとくゆりを見つめる。


「くゆりってたまにこう、ぶっ飛ぶよね」

「……ぶっ飛んでる、のかな」

「だいぶね」

「え、引いてる?」

「引いてはない」


 うそ本当は引いてる?ねぇひづるー、とシャツの裾を引っ張るくゆりに笑いながら、私はゴミ箱にパピコのゴミを投げ入れた。




 受験説明会当日。私たちは説明会が行われる多目的ホールへ向かった。

 葦原と山岡先生が保護者用の椅子を並べている。動きづらさからか暑さからか、二人ともジャケットを脱いで近くの椅子にかけていた。


「私がとってくるから、くゆりは葦原に話しかけて気を引いておいて」

「わかった」


 山岡先生が追加の椅子をとりに行った隙を見て、くゆりが葦原に近づいてゆく。



「……えっ」


 初夏の熱気が澱む学校のプール裏。

 体育倉庫から拝借して来たシャベルで穴を掘り出した私は、ふと先程からずっと静かなくゆりの方へ目をやり、思わず言葉を漏らした。


「どうしたの?」

「なんでたたんでるの?スーツ」

「ぐちゃぐちゃのままだと気になるかなと思って」

「今から埋めるのに?」

「うーん、言われてみればたしかに。癖でたたんじゃった」

「そんなことある……?!」


 難なくくすねて来れた葦原のスーツのジャケットはスクールバックと一緒にくゆりに預けていたが、何故かそれが今、くゆりの手元にきっちりと折りたたまれた状態で鎮座していた。

 こんなところで持ち前の丁寧さを発揮してしまい、恥ずかしそうにふにゃりと笑うくゆりに思わず胸がきゅっとする。私はシャベルに片手をかけたまま屈む。


「はぁー、きっといいお嫁さんになるね。くゆりは」

「えぇ?なってあげないこともないよ」


 そう言いながら私の元までやってきて、私の頭をちょんちょんと指先でつまむように撫でながら笑う。幼稚園の頃からのくゆりのクセだ。


「エルメネジルドゼニア、ってとこのだって。このスーツ」


 今しがた掘ったばかりの穴の底に折り畳んだジャケットをそっと置きながら、くゆりがそう呟いた。


「へぇ、いくら?」


 なんだか異国の植物のような複雑な単語を聞き流し、何の気なしに聞いてみる。


「平均価格で40万だって」

「たっか!てことはジャケットだけで20万くらいか」


 思っていたより高価な金額が飛び出し一瞬動揺しかけたが、思い直して地面に突き刺しておいたシャベルを引き抜き、私は20万にばっさばっさと土をかけていく。真新しく見えるネイビーの高級スーツは、土をかぶる度にその重みでわずかに揺れ、穴の中でツヤツヤと嫌味ったらしく光沢を放っていた。私は更にテンポアップしたリズムで土をかけてそれを埋めていく。

 大型犬くらいは余裕で埋葬できそうなサイズの穴だなぁ、と不穏なことを考えながら、おでこに滲んできた汗を腕で拭う。穴を掘った時点で、両手はすでに限界を迎えている。いくら運動部とはいえ女子高生の力と体力ではなかなかの重労働だった。


「くゆりぃ、ちょっと交代…!」


 最初は意気込んでいたものの、シャベルを地面に刺すこともままならず穴を掘り始めて早々にリタイアしてしまったくゆりに声をかける。


「まかせて!」


 近くでしゃがんでいたくゆりは立ち上がって袖を捲り、埋めるくらいなら私にだって、と意気揚々とシャベルを握る。


「ふっ……ん……んんん……」

「……。まぁ、うん、ここは私が頑張るね」


 シャベルで土をすくおうとしたところまではよかったものの、土の重みでシャベルが持ち上がらず悩ましい呻き声を上げ始めたのを見て、思わずくゆりの肩をポンと叩く。


「うぅ、役に立たなくてごめん……」

「いや、くゆりにはまだ大事な役割があるよ!さ、穴を埋める私を全力で応援して」

「はぁい」


がんばれ、がんばれ、とリズミカルなくゆりの声援を受けながら、私はシャベルを握り直す。




 途中休みながら、結局20分ほどかけて穴を埋めた。くゆりがコンビニで買ってきた冷たいお茶に口をつけ、プールに続く階段に腰をかける。新緑の香りを含んだ風が、滞留した空気をさらってゆく。

先程かぶせた土の上でとたとたと足踏みをして土を踏み固めるくゆりを眺めていると、頭上から声が降ってきた。


「そこのお二人さん」


 反射で見上げた渡り廊下の窓から覗く顔に、心臓が跳ねる。葦原がこちらを見下ろしている。


「何やってるんだ、そんなところで」


 突然声をかけられ固まる私の隣で声が響く。


「特に何も、今帰ろうとしていたところです。葦原先生、さようならぁ」


 そう言い終わるか終わらないかのタイミングで、くゆりは私の手を取り駆け出す。後ろで葦原が何か言っていたような気がしたが、聞き取れなかった。


「ちょ、くゆり!」

「急げ急げ、先生が追いかけてきちゃうかも!」


 私の制止も聞かず、駐輪場へ向かう。急かされるまま、私はくゆりを後ろに乗せ自転車を漕ぎ出した。腰を浮かせて勢いよくペダルに体重をかける。風でめくれあがる私のスカートを、腰に抱きついたくゆりが抑える。


「バレちゃったかな?」

「わかんない、ていうかどこから見てたんだろう?」

「スーツたたんでるところからだったら困るよねぇ」

「待って、本当に思ってる?」


 くゆりのいつもと変わらないのんびりとした口調に、思わず私は笑いだす。

 私達を見下ろす葦原の顔。スカートを抑えながら私の脇腹に顔をくっつけて笑うくゆり。中腰で回し続けるペダル。早送りで後ろへ流れてゆくいつもの景色。自分の心臓がドキドキとうるさい理由も紐解けないのに、不思議と気分はすっきりとしていた。きっと明日、二人揃って職員室に呼ばれるであろうことも想像がつくのに、こんなにもつよい気持ちなのは何故だろう。ただただ、今この瞬間がずっと続けばいいと思った。






◆ ◆ ◆


「満足したのか?」


 遠くから聞こえてくる、吹奏楽部のまだたどたどしさの覗く楽器の音たちに耳を傾けながら窓の外をぼうっと眺めていると、部屋の奥から声がした。

 まだ比較的新しいはずの第二校舎の日本史資料室は年季の入った本や地図などがいたるところで山積みになっており、古い紙の匂いが漂う。開け放った窓に引かれたカーテンの隙間から差し込む西陽が部屋に舞う埃を照らしている。

 部活動の行われている教室の少ない放課後の第二校舎には生徒の姿も見えず、時間の流れがゆっくりと過ぎてゆくような感覚になる。ひづるの部活が終わるまでの時間は、いつも意地悪なほど長いのだ。


「あれ高いスーツだったでしょう、怒らないの?」


 私は質問に答えずに、窓に頭をもたれかけたまま視線もやらずそう返す。


「そんな大層なものじゃないよ。クリーニング代までもらっちゃったしな。親御さんにはなんて言い訳したんだ?」

「ちょっと手違いで埋めちゃったって」

「どんな手違いだよ」


 私は小さくため息をついて、部屋の隅に置かれたデスクに向かう背中に声を投げる。


「葦原先生」


テストの答案用紙の上を走る規則正しいペンの音が静かな部屋に響く。


「私どうしたらいいと思う?」

「何が」

「ひづるともっと大人な関係になるにはどうしたらいいですか?」

「そんなことを教師に聞くな」

「キスまでしてる微妙な関係の教師に?」

「おい」

「ごめんなさい」


 デスクの方に目をやるとこちらを睨む先生と目が合ったが、何も言わず諦めたように深いため息をついていつの間にかやんでいたペンの音をまた再開させた。


「……ダメなの。幼馴染が長すぎたのよ。抱きしめてもちゅーしても全然動揺してないもん。あの子元々鈍いしもう告白するしかないけど、最近また成績下がっちゃったのお母さんにバレたみたいで焦ってるから、そんな時に告白なんかして負担になりたくないし」


 先生は聞いているのかいないのか、何も反応が返ってこない空間に私はぽつりぽつりと言葉をこぼしていく。


「私なんて、ひづるのご飯作ったりストレスを発散できるように手伝うことしかできないのよ」

「そういうのは直接掛塚に言ってやれ、気持ちは言わないと伝わらんよ」


 一区切りついたのか、疲れのにじむ声でそういいながら先生は首を回す。


「あとあいつに日本史のテストをもう少し真面目に受けるように言ってくれ。四之宮先生から去年の日本史の平均点94点って聞いてたのに、なんなんだこの力の抜きようは」


 ペチペチと赤ペンで解答用紙を叩いているのを近づいてうしろから覗き込むと、左上に“掛塚氷弦“とありその隣に赤字で大きく“53点“と書かれていた。


「なんだ“旧幕府軍と新政府軍との内戦の名称”が“シュークリーム戦争”って。ふざけてるのか?」

「あはは、何書いてるのひづる。確信犯ですねぇこれは」

「こんなにあいつに嫌われてるの、絶対お前のせいだろ」

「まぁ今回小テストだから。定期テストは真面目にやると思います」

 

 そうでなきゃ困る、と言いながら先生はまた新しい解答用紙の束を取り出す。


「ねぇ、先生にも高校生の頃こういう青春あった?どうしても好きだった人とか」


 コツコツとヒールを鳴らして部屋の反対側に置かれた電気ケトルに向かう先生の背中に尋ねる。


「憧れてた先輩はいたかな」

「私に似てるって言ってた先輩?」

「そうだ」

「告白した?」

「まさか。みんなの憧れだったからな、私みたいな生徒が告白できるような人じゃなかったよ」

「さっき私には気持ちは言わないと伝わらないって言ったのに」

「それとこれとは別の話だ」

「えぇー、何それ。じゃあクラスメイトで付き合ってる子はいた?」

「さぁね。まぁ私がここの生徒だった時はもう少し校則も厳しかったし、みんな隠れて青春を謳歌してたのかもな」


 コーヒーを啜りながら先生がいう。


「ねぇ、先生」

「ん」

「今日のリップ、新しいやつでしょ」


 マグカップに添えられた、いつもよりやや明るめのツヤのあるピンク色の唇を見ながらそういうと、先生は少しむせてこちらを睨む。


「お前は本当に……そういうとこだぞ」


 笑いながら、咳き込んでわずかに涙ぐんだ先生にティッシュを渡す。「さっさと掛塚のところへ帰れ」とカバンを押し付けられ資料室を追い出されてしまったので、予定の時間より少し早かったが駐輪場へ向かう。

 少し待つと、体育館の方からひづるが小走りでやってきた。


「ごめん、お待たせ」

「全然、今来たとこだよ。部活お疲れ」

「本当に疲れたよー…今日も部長が鬼だった」


 項垂れるひづるの背中を撫でながら、ふと先程の先生との会話を思い出す。


「ねぇ、ひづる」

「なに?」


 ひづるは首だけをこちらに向けて、少し垂れた二重の大きな目に私を映す。


「例えばね、私だけを自転車の後ろに乗せたりとか、私だけのパピコにタオル巻いたりとか、……そういう、そういうね、」


 話しながらひづるのきょとんとした顔を見て、途中で言葉を止める。


「……ううん、何でもない。あのね、ずっと特別仲良くしてよ」

「え?」


 ひづるの目を真っ直ぐ見つめて、息を吸う。


「ずっと私の、特別仲良しな幼馴染でいてね、ひづる」


 笑いながら、一番特別なやつじゃないとダメだよ、と呟く私の頭をわしゃわしゃと撫でながらひづるが言う。


「今みたいにってこと?」

「うん。……そういうこと」

「それなら簡単だ」


 ひづるが私の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。


「くゆりはいつでも私の一番なんだから!」

「うん」


 私もひづるの背中に手を回す。小さい子をあやすように私の背中をポンポンと叩くひづるの腕の中で、今この瞬間がずっと続けばいいと思った。

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