夢で見た、疎遠になったクラスメートを助けたら、修羅場がはじまった

第19話

　……やっぱり、か。

　「んー、

　　まーくん、また、夢を見たの？」

　いいや。

　なんとなく、悪い予感がしてただけ。

　「それよりな、真矢野。」

　「ん？」

　「お前、星羅ちゃん、疑ってるだろ。」

　「！」

　「……なんでそう思ったの？」

　「ただの直観。

　　お前、星羅ちゃんの話になると、急に深読みしてたからな。」

　（……どこまで、知ってるの？）

　「……。

　　あー、

　　あたし、女優、向いてねー。」

　「バカ。

　　脚本なしで面の皮が厚いなんてな、ただの犯罪者だろうが。

　　で？」

　「ん？」

　「お前の中では、

　　星羅ちゃん、どう絡んでんだ？」

　「……。

　　あー、でも、ま、いっか。

　　真人、郁ちゃんを使えるもんね。」

　使える、ってなんだよ。

　「あー、だから、

　　郁ちゃんも聞いて聞いてー。」

　「う、うん。」

　「まー、ただの警戒心なんだけどさー。

　　星羅ちゃんって、葉菜の遠い親戚なんだよ。」

　ん？

　そうなのか？

　「うん。

　　表に出ないタイプのやつ。」

　……どういうことだ？

　「郁ちゃん、調べたんでしょ？」

　「はうっ。」

　「あははは、学年二位、やっばいなー。

　　なんで気づいたの？」

　「……

　　わたし、奨学金の関係で、

　　高森先生と、いろいろ、お話するようになったの。」

　あぁ。

　そういやそうだったな。

　「……それで、高森先生の車の前で、

　　親御さんみたいな人と、揉めてるの、見ちゃって。」

　ん？

　「お互い、凄い睨み合ってて、

　　ふだんの先生じゃ、ないみたいで。」

　……ほぅ。

　「そしたら、向こうが去っていって。

　　こっちもほっとしちゃったら、先生と、目があっちゃって。」

　……アワアワじたばたしてる郁美が目に浮かぶ……。

　「内緒よ？　って言われちゃって。

　　それで、かえって気になっちゃって、

　　職員室の職員簿見たり、職員カルテ見たり、

　　先生の家の近くいってみたりして。」

　って、郁美ぃっ。

　き、聞かなかった、俺はなんも聞かなかったっ。

　「……あはは、郁ちゃん、学年二位の優等生なのに、

　　どうしてそういうところ、大胆なのかなー。

　　ひょっとして、真人のせい？」

　「違うわっ！」

　「あー、じゃあ、あたしから言うから。

　　まず、星羅ちゃんは独身。だね？」

　「う、うん。」

　「で、星羅ちゃん家に、男の子がいる。」

　……は？

　「うんうん。その気持ち分かるけど、

　　星羅ちゃんの子どもじゃないんだ、これが。」

　……ん？

　「端的に言うね。

　　葉菜の、異母兄弟。」

　っ！？

　って、まさか、

　例の、血統の良い？

　「そ。

　　光澤昇君。」

　あぁ。

　それで、お前は。

　「うん。

　　怪しさ満点じゃない？

　　んで、葉菜ん家に、

　　家庭訪問、来てたわけだからさ。」

　確かになぁ。敵情視察とも取れるわけか。

　真矢野から見たら、状況証拠、揃いまくりか。

　「そこまでじゃないんだけど、

　　まぁ、疑ってかかるよね。」

　分からんでもない。

　でもな、星羅ちゃん、

　「離れ」に行かなかったんだろ？

　「……なんでわかるの。」

　あぁ、これ、出してなかったか。

　って、そういえば。

　（いろいろ話したいことがあるのに）

　星羅ちゃんのあれは、どういう意味だ？

　話したいこと、か。

　郁美のこととかは当然あるだろうし…。

　（ご家族に、怪しい印象はなかった。

　　お父様も、会社経営に当たられているしっかりした方だし、

　　お母様も、ごく普通の方だったわ）

　……。

　（ごく普通の方だったわ）

　！！

　……ま、さ、かっ。

　「……どしたの、真人。

　　急に真顔になって。」

　じゃあ、星羅ちゃん、も……？

　いや、俺の保護者は猶次郎だ。

　そこから先に行けるわけはない。

　じゃ、

　なんのために、何を、話したかったんだ？

　それに。

　（こんなことしてると、いつか殺されるわよ？）

　これの、意味が、全然、違ったら。

　（『俺の血は、絶やすべきなんだっ！』）

　星羅ちゃんも、

　そう、思っていたとしたら。

　それなら、

　転送が、できてしまう。

　だと、したら。

　葉菜の、あの、夢は。

　！？！？

　じゃあ、まさか、

　もう、ておくれっ！

　「真人っ！？」

　あ、あぁ。

　「……なんでも、ない。」

　「ウソ。

　　……顔、真っ青じゃん。」

　「……真人君。大丈夫、だよ。

　　わたし、ちょっと、分かってるから。」

　「……郁ちゃん？」

　「たとえ恩人でも、真人君のためなら、

　　わたし、殺すよ。」

　「！？」

　……はは。

　ははは。

　「……郁美、お前、

　　ちょっと気が早いぞ。」

　「で、でも。」

　「っていうか、真矢野。」

　「な、なに？」

　「郁美もそうだけどな。

　　星羅ちゃんは、沢名の敵方じゃない。

　　っていうか、逆だ。」

　「……

　　なんで、そう、言い切れるの。」

　目いっぱいの不信感と、俺への信頼を天秤にしてるって顔だな。

　ま、そのほうが有難いが。

　まだ、裏付けがない。

　それに、沢名にとって、

　とんでもなく辛い話を暴くことになるかもしれない。

　ただ。

　（貴方が本気でやるなら、私も全力でサポートするけど）

　誠実な人間を、見殺しにはできない。

　それは、俺が人であるための、ささやかな矜持だ。

　「郁美、

　　そして、留美。」

　『！』

　「お前らの助けが欲しい。

　　その行動力、度胸、知性、知恵をな。

　　で、……

　　葉菜。」

　『！！』

　「……うん。」

　「お前は暫く、ここを出るな。

　　俺と一緒にいろ。」

　「ぇ。」

　「な、なんで。」

　「詳しくは後でな。

　　郁美。」

　「う、うん。」

　「俺が事情聴取を受けた刑事の名前、憶えてるか。」

　「うん。

　　風見麟さん、警部さんだよ。」

　ほえー。

　あのふとっちょ、名前負けしてんなぁ。

　「じゃあ、その風見警部宛に、

　　星羅ちゃんの捜索願いを出せ。」

　「！」

　「そ、捜索っ？」

　あぁ、そこまで考えてなかった顔か。

　「はっきり言う。

　　星羅ちゃんは、今頃、

　　どこかの誰かに、拉致されてる。」

　　『！？』

　「……どうしてそう思うの？」

　「俺も、たったいま、気づいたんだけどな。

　　……お前らさ、星羅ちゃん、

　　いままで、休んだことあったか？」

　「うーん、ない。」

　「うん。」

　「……それだけだと弱くない？

　　一日だけでしょ？」

　「決定的だったのは、郁美の話だ。

　　親族と揉めてたっていうやつ。」

　「あぁ、うん。」

　「親族じゃなかったとしたら、どうだ？」

　「！」

　「！？」

　「星羅ちゃんさえ引きはがしちまえば

　　その男の子、押さえられるだろ。

　　おそらく、もう、遅いんじゃないか。」

　「……。」

　「で。

　　もし、その男の子に、

　　危害が加えられれば、疑われるのは、誰だ？」

　「！！！」

　「一石二鳥ってとこだろうな。

　　それを企んでるのが、どこの誰なのかまでは分からねぇが。

　　勿論、その男の子を、

　　連れ戻そうとしてるだけかもしらん。

　　それはそれで、お前らにとっては厄介な話だけどな。」

　「……うん。」

　「で、その前に、

　　星羅ちゃんの身が危ない。

　　もし、星羅ちゃんを狙ってる奴らが、

　　俺の考えてる通り（正能会）だとしたら、

　　拉致された上に、強姦される恐れがある。」

　　『！？』

　「風見警部には、そっちに行ってもらいたい。

　　ふつうの被害届なら、疑われるだろうが、

　　あの警部、郁美と長く、話し込んでたろ。」

　「う、うん。」

　「おそらく、

　　郁美の行動力と調査能力を買ってる。」

　「そ、そうかな。」

　褒めちゃいないんだぞ？　ほんっとはやべぇ話なんだけどな。

　ただ、あいつは猟犬の目をしていた。

　使えるものは、なんでも使いたくなるタイプだ。

　「……どうしてその人を、信じられるの？」

　「勘だ。

　　俺の勘、当たるだろ？」

　一応、裏付けはあるけどな。

　ここは、言いきっちまった奴の勝ちだ。

　「……あはは。

　　ずるいなー、それは。」

　「で、留美。

　　お前は、光澤昇の自室にいってくれ。」

　「……。」

　「俺の読み通りなら、おそらく、もぬけの殻だ。

　　警察さんと一緒に、それを証明して来い。」

　「ぇ。」

　「万が一、光澤昇の義理の母親がいたら、

　　突き破ってでも自室に入れ。」

　「……。」

　「大丈夫だ。

　　たぶん、いない。」

　「……どうして、わかるの？」

　「まぁ、これも勘だな。」

　「……ぷっ。

　　あはは。なんか、わらけてきたよ。

　　こんな大事なこと、真人の勘だけでいけっての？」

　「そうだ。

　　事が終わったら、説明してやる。

　　なんもなきゃ、俺が大恥を掻いて、この町を出るだけで済む。

　　そうじゃなかったら。」

　「……。

　　真人、ずっるい。」

　「なんなら、借りを1つ、使ってもいいぞ。」

　「……んー。いい。

　　わかった。行く。

　　郁ちゃんとは違う警察さん、つれてくんだね？」

　「ああ。

　　そのほうがいいかもな。」

　ん？

　そうなると、あっちは空くか。

　それなら。

　……あ。

　「一応言っとくが、二人とも、安全が全てだ。

　　星羅ちゃんは大事だが、お前らのほうが遥かに大切だ。

　　絶対に深追いするな。警察さんを使ってやれ。」

　「うん。

　　わかった。」

　「……あー、もうっ。

　　わかったわかったって。

　　あー、真人、

　　それならあたし、星羅ちゃん側に行くからねー？」

　ん？

　「だってさー。

　　昇君に顔、知られてないほうがよくない？」

　……あぁ。

　そりゃそう、か？

　「あとは郁ちゃんと詰めるねー。

　　んじゃねー。

　　ほら、郁ちゃん、いくよー。」

　「！

　　う、うんっ！！」

　……あはは。

　留美の奴、察したか。